シャリのお願い(短編)

やまもりやもり🦎

★妖精が見える妹の話

 「食べもの持ってくるからシャリは家でいい子にしてるんだよ」


 おにいちゃんはそう言うと森に出かけてしまった。森はゴブリンが出て危ないのに。心配でしょうがない。


 うちの大人達は畑仕事に出かけている。おにいちゃんも森に行ってしまった。家の中には一人。


「おにいちゃん、大丈夫かな」

「シャリがお願いしてるから大丈夫じゃない?」


 声が聞こえる。机の上にニーが座っている。行儀が悪いぞ。


 ニーは大人の手のひらぐらいの小人だ。とんがり帽子をかぶった男の子に見える。


 シャリは一人の時はいつもニーとおしゃべりをしている。ニーという名前はシャリがつけた。最初に会った時に「あなた誰?」と聞いたら「なんとかニー」と言ってたので「ニー」と呼ぶことにした。


 家族にはニーが見えないらしい。シャリがニーとお話をしていたら「誰とお話ししてるの?」と聞かれたのだ。「ニーだよ。そこにいるよ」と言ってもみんな「そうよかったね」としか言わないので、そのうち家族の前ではニーとお話をしないようにした。変な子だと思われちゃうし。


 ニーの返事を聞いて、シャリはちょっと考える。


「前のお願いまだ効いてるかな」

「それじゃ会いに行ってみる?」


 シャリは考える。今日は体調がいい。家から出てもちょっとぐらいなら大丈夫かな。

「うん」


 出かけることにした。肩の上にニーブラウニーがちょこんと腰掛ける。シャリの小さな体からするとそれなりの大きさだが重さを感じない。


 久々の外出だ。このところ体調が悪くてずっと寝ていたのだ。生まれてから10年以上ずっとそうなので慣れてしまった。おにいちゃんも最近は家にいないし、家の中では一人が多いけどニーとお話してるから大丈夫。


「大人はニーが見えないの?」

「どっちかというと姿を消してるのに子供には見えちゃうって感じかな」

「妖精はみんなそうなの?」

「そうでもないかな。でも僕たちみたいな小さい妖精はそう」

「ふーん」


 大人になるって、つまらないこともあるんだな。



「シャリじゃないか。どこ行くんじゃね」


 村はずれに向かう途中、薬草のおばあちゃんに声を掛けられる。

「おにいちゃんの無事をお願いに行くの」


 おばあちゃんはシャリの肩の上にちょっと目を止めて微笑む。


「そうか。帰りに寄っていきな。体にいいお茶淹れてあげるから」

「ありがとう。おばあちゃん」

 

 おばあちゃんは村の端っこのほうの小屋に一人で住んでいる。村人は「魔女」と呼んでいて、みんな怖がってあんまり近寄らない。でも怪我をしたときや病気になった時になんかよくわからない薬を作ってくれる。


 村のみんなと違ってシャリはこのおばあちゃんとは仲がいい。おばあちゃんの家にもニーみたいな妖精が住んでいるのだ。帰りにニーと会わせてあげよう。お菓子をくれるかもしれない。



 村はずれまで来た。こんなに遠くまで歩くのは久しぶり。

 大きな木の根元に立って声をかける。


「こんにちはー」


 木の上から幹を伝って、小さな女の子が下りてきた。やっぱり小人だ。

「お願いに来たの」

「今日はどんな用?」


 小人ドリヤドはシャリの顔の高さの枝に腰かける。


「森の精霊にまたおにいちゃんの無事をお願いして欲しいの」

「そうね。前のお願いから結構経ったしそろそろかもね。でも」


 ドリヤドはシャリをじっと見る。


「あなたがお願いできるのは、もうあと一回ぐらいよ」


「だって、シャリができることはこのぐらいだし」

「私はいいんだけどね」


 ドリヤドは首をかしげる。


「本当にいいのね」

「うん。お願い」


 シャリはドリヤドをそっと手に取ると、ゆっくりと顔の前に連れてくる。ドリヤドが体を伸ばして、その小さい顔をシャリの口に寄せる。


「ちゅ」


 ドリヤドがシャリにキスをする。何かが流れ出す感触。もともと希薄だったシャリの存在感がいっそう薄くなる。


 ドリヤドはぴょんと跳ねるとまた木の枝に戻る。ちょっと光ってるみたいだ。


「それじゃ、おにいちゃんをよろしくね」

「森の精霊にお願いしとくわ」


 ドリヤドは木の中に消えた。



「帰ろうか」


 ドリヤドの相手をしてる間、地面に降りていたニーに呼びかける。なんかニーがよく見える。いつもはちょっと気を抜くと見えなくなってしまうのに。


「ニーがはっきり見える」

「そうか」


 ニーは答える。


「シャリは僕たちの仲間になるのかもね」

「そうなんだ」


 シャリは思った。病弱な自分はどうせ大人になる前に死んでしまうだろう。だったらおにいちゃんを守って、そのあとは妖精になろう。そしてずっとおにいちゃんを見守ろう。


「ひょっとして妖精ってみんな私みたいな子供だったの?」

「どうだろうな。覚えてないし」


 さあ、薬草のおばあちゃんのところに行こう。ニーの友達にもあいさつしないと。私はもうじき妖精になりますって。

――

おしまい

――

挿絵はこちら

https://kakuyomu.jp/users/yamamoriyamori/news/16817330652712464695


この作品は小説「妹ダン〜転生チートで妹にレベル譲渡してダンジョンを攻略します!」序盤に繋がる短編となります。シャリちゃんがどうなるのか興味を持たれたらぜひこちらも読んでみて下さい。


                ↓妹ダンはこちら↓

https://kakuyomu.jp/works/16817139559030247252/episodes/16817139559030643590

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