第27話 詩

 楽器──の残骸──を買った後、俺たちは飲食店の連なる通りに出かけ、安い食堂でもそもそ・・・・と飯を食った。

 ちょうど町に来ている魚売りから食材を仕入れたらしく、魚介のメニューばかりだ。


 食事を口に運びながらも、皆の意識は店の壁にかかっている大型テレビの方にあった。画面の向こうではサード・ガーディアンが無限洞窟50フロアを探索する様子が映っている。生中継だ。


 金鎧のパラディン、ガンディオン卿がパーティメンバーに保護の魔法をかけ、皆は慎重に通路を進んでいく。すさまじい緊張感だ。

 豹人パンテリの拳聖フォレックが手足を空中で滑らせ、気の乱れを読み取る。

 ナーパは遠くの暗闇の中をじっと見つめている。忍者の目は、物を見るために光を必要としないのだ。

 気高きエルフ、ヤグルマギクは杖の先に魔法の火を灯し、床や石壁の様子を確かめつつ歩く。


 にわかにフォレックが立ち止まり、メンバーに手で合図を出す。ガンディオン卿が丸盾を構えて進み出る。

 サード・ガーディアンの面々はぴたりと静止した。

 曲がり角の向こうから、くぐもったうなり声が漏れる。


 突然、巨獣がぬっと顔を出した。ライオンに似ているが、身体はウロコで覆われ、尾は大蛇になっている。

 魔物は冒険者たちの姿を認めると、即座に襲いかかってきた。飛び来る鉤爪をガンディオン卿の盾がはじき、フォレックの拳が魔物の体勢を崩す。

 さらにナーパが追い打ちをかけ、魔物の脇腹と、後肢の腱を切り裂いた。魔物が叫び、倒れこむ。

 とどめはヤグルマギクの火術だ。手のひら大のまばゆい火の玉が発射され、敵に食らいつくと一気に燃え上がり、致命的な劫火となって焼き尽くした。


 俺は映像にくぎ付けになり、すっかり食事の手が止まってしまった。あの恐ろしい巨獣を一瞬で片付けてしまう、サード・ガーディアンの威力よ!ああ!


 その後も彼らが少しずつ洞窟を探索する様子が流れていた。今回は実況もほとんど喋らない。探索が進んでいないフロアで大声を出すと魔物の注意を引くからだろう。


 ウェノラとグリシャが解説してくれたが、無限洞窟というのは現存する中で最も階層が深いと言われるダンジョンだそうだ。

 いちばん深く潜った記録は73フロアだが、メンバーの戦死や交代が一切なく50フロアまで到達したのはサード・ガーディアンが初めてだ。まさに今、偉業が更新されているのである。


「最後、ファイアボール出ましたね。高位術もすごいんですけど、ヤグルマギク様の火術といえばファイアボールなんですよ。初歩術のファイアボールをここまで熟練させた人はいないんじゃないですか~。やばいですよね…。」

 ウェノラが腕を組み、感じ入るように深く頷く。


「ダンジョンは往々にして、10フロア毎にぬしと呼ばれる特に手ごわい魔物が巣くっているんです。サード・ガーディアンが探索している50フロアでも強敵が待ち受けているはずですよ。」

 グリシャはいつも淡々と語るが、彼の目もやはり興奮でかすかに燃えている。皆がサード・ガーディアンの偉業に注目しているのだ。


 俺の心も奮い立ってきた。頭の中が熱くなる。

「すごいぞ…。」

 言葉が形を成すのを待たずに、喉から転び出ようとする。

「サード・ガーディアン…。」

 俺は震え出した。

「ああ…。」

 ウェノラとグリシャが不審そうに俺の顔を覗き込む。


【黄金の盾、疾き両拳、暗闇の刃、そして氷炎の剣よ!】


 俺は両手をかかげて叫んだ。ああ!燃える思いが口をついて出る。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

限界チャンピオンズ! SUMIYU @sumiyu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ