第26話 支出!

「お疲れさん。しめて2900銀だ。」

 買取所のおやじが今回の鉱石や戦利品の査定額を発表し、金袋に硬貨を詰めて渡してくれた。


「本当は2800と言いたいところだが…100はおまけだ。また持ってこいよ。待ってるぞ!」

 どうせなら、もう100おまけして3000銀くれれば気持ちもいいのだが…と思いつつも、まぁ贅沢は言えないのでありがたくお金を受け取って買取所をあとにした。


 パーティメンバー3人、1日の食事代と宿代で大まかに2000銀。ダンジョン潜りのための道具などを買えば残りの900銀もすぐ尽きてしまう。ご馳走や酒杯にありつこうと思うならもっと稼ぎが必要だ。

 より稼ぐには、より希少な鉱石、より高価な戦利品を入手する必要があり、そのためにはより深い階層に潜らねばならない。それは言うに及ばず、より大きな危険を冒すことを意味する。

 

 強くならなければ。


「サード・ガーディアンなんかは、もう、すごく稼いでるんでしょうね。めちゃくちゃ強いし、深く潜ってるし。配信視聴者も多いし。」

 俺はそう言いながら羨望の思いが強まった。そりゃあ、あんな強力な魔法や打撃を繰り出して、恐ろしい魔物を涼しい顔で倒してるんだもんな。


「う~ん。もちろんわたしたちなんかとは全然比べ物にならないですけどね~。」とウェノラが答えたが、彼女はこうも付け加えた。

「でも、サード・ガーディアンくらいになるとパーティメンバーだけで探索してるわけじゃないですからね。まず配信のために幻水晶テレクリスタル撮影をする術士が随行してますし。それも何人も。食料とか戦利品の運搬、装備の管理とか…そういう役目の従者も雇ってると思いますよ。稼ぎもすごいけど、探索にかかるコストも桁違いなんですよね。」


 そう言われれば…そうか。急に現実的な話になってきた。ダンジョン潜りも簡単な話ではないわけだ。


「稼ぐのも楽ではないという話のあとで、申し訳ないんですけど…」と、俺はふたりを交互に見つめながら切り出した。「さっき市場で見た楽器、買わせてもらえませんか?740銀で売ってくれるそうなので…買ったらほとんどお金使っちゃうんですけど…。」


「もちろん!またダンジョンで稼げば大丈夫ですよ!」とグリシャが元気に即答してくれた。ありがとう。


 ウェノラはしばらく痛みに耐えるように目をつぶってから「わかりました…。ユーダイさんの装備を整えるのは先決ですから…涙をのみましょう。今日はビールを我慢します。今日は…。」とあえぐように言った。


「ありがとうございます!」

 俺はふたりの手を取って感謝した。


「ユーダイさんがもっと強くなったら…その時はおごってもらいますから…。」

 ウェノラが垂らした苦しみのよだれが、ほこりっぽい地面に吸い込まれていく。


 なんだかんだと言いつつこの人は、少なくとも俺が強くなるまで共闘してくれる気でいるのだろうか。

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