大都市ゴッタ・ガエース

第25話 楽器

 町に戻ると、広場はとてもにぎわっていた。海沿いの町から魚売りの一団がやってきて、盛大に露店を開いていたのだ。

 魚売りたちは塩漬けにしたり干したりした魚介を樽から出しては台に並べていく。人々が絶え間なく押し寄せるから、台に置かれた魚もすぐになくなり、また樽から補充される。魚売りの荷車にはたくさんの樽が並んでいた。売り手と客の声が絶えることなく、ものすごい活気だ。


「週に1回、魚売りが来るんですよ。毎週火曜は魚の日です。」

 ウェノラがそう言い、きょろきょろと店を見まわした。

「あ。あった!貝ヒモと干タラ買ってきますね。いります?酒のつまみに…。」

 にやけ顔の犬人マルマリはこちらの返事も聞かず、そのまますーっと混雑に吸い込まれていった。


 グリシャとふたりでウェノラの買い物を待っていると、どこかから歌声が聞こえているのに気づいた。見回すと、魚売りの露店群の片隅で、大男がなにやら歌っている。


「おさかな~。おさかな~。からだがつよくなる~。」


 大男は魚のような頭で、大きな口には鋭い刃がびっしり並んでいる。背中からは見事なヒレが突き出ていて、その恐ろしげな風貌と間の抜けた歌があまりにも不釣り合いでおかしかった。


「彼は鮫人カルカロイですね。見ての通りのものすごい体格と力の種族です。でも温厚な人が多いんです。」とグリシャが教えてくれた。


「おさかな~。おさかな~。りょうしのまちからとどけます~。」


 歌?もしや…?と思い、俺は鮫人カルカロイに近づいて、話しかけた。もしかしたら吟遊詩人について何か知っているかもしれないと思い、聞いてみる。

 大男は首をひねった。

「ん…んん…?俺が吟遊詩人かって?ワッハッハ。とんでもねぇ。俺はただ宣伝ソングを歌ってただけよ。おさかな~、おさかな~、ってな。購買意欲が湧くだろ?もっとも、みんなの声がうるさくって聞こえてんだかわかんねぇけどな。ワッハッハ。どっちにしろ、おかげさまで大繁盛よ。」


 特に手がかりはなさそうだったので礼を言って引き下がろうとすると、鮫人カルカロイが呼びとめてきた。

「そうだ。思い出した。兄ちゃんが吟遊詩人だってんなら、楽器は興味あるだろ?そっちの角の露店を覗いてみなよ。あの黒髪の娘が店番してるとこだよ。漂着物とか海底のガラクタを売ってるんだが、今回は楽器を持ってきてるはずだぜ。」


 さっそくその店を眺める。娘は店番をしながら貝殻を組み合わせてアクセサリーを作っていた。作ったそばから売っているのだろう。そういったアクセサリーや雑貨も、地面に敷いた敷物の上に並べてある。

 その他には、美しいものや大きいものなど種々の貝殻、衣類や武具のようなもの、金属塊、何かの破片など、ほぼゴミのようなものまで含めて雑多に置かれていた。すべて海岸の漂着物や、漁の際に拾われたものらしい。


 宣伝ソングの鮫人カルカロイが教えてくれた通り、楽器があった。楕円形の甲虫のような形の胴に短いネックが付いており、弦楽器なのだろうが、弦はすべて無くなっている。そもそも表面にびっしりとフジツボがこびりついていて、もちろん演奏できるような状態ではない。


「この楽器不思議なのよね。」と店番の娘が言った。「貝を獲ってるときに引き揚げたんだけど、海底にずっとあったみたいなのに全然傷んでないのよ。」

 俺は楽器を手に取って眺めてみた。

 確かに、ひどく汚れているのに胴の表面はまだ艶が残っているし、腐食している様子もない。胴は木製と見えて茶色っぽいが、光の角度によっては少し緑がかってきらめいているようだ。なんとも美しい。


「魔法がかかってるかもしれないわよね。直して使えるのかは、わたしはわからないけど。お兄さん、欲しいなら安くしとくわ。」


「ユーダイさん、これ魔道具かもしれないですよ。」

 グリシャが真剣な顔をした。

「そして楽器ってことは…。」

 俺はうなった。

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