第3話 お隣さん ダリアの花言葉

太陽が真上に上り、暖かい12時くらい、1人の男性が窓際でロッキングチェアに座り揺れていた。


「ふう、今日は何もしたくない気分だ」


今日は靴屋での仕事もなくお休みだ。こういう日は力が抜ける。ついつい、食事をとることも忘れ、こうやって椅子に揺られながらのんびりとしていたいものだ。


しかし、その空気はいとも簡単に壊れた。急に物々しい音がして扉が開き、部屋に人が入ってきた。


「今日もいい天気よ!ご飯ちゃんと食べているの?いつもみたいに暗くなってひきこもってるんじゃないでしょうね?」


女性は、ハキハキしたよく通る声でそう言い、両手には、ビニール袋が握られている。中にはスープの鍋や、タッパーに入ったおかずが入っている。


「おや、ダリア。いい天気だね。今日も来てくれたのかい?」


彼女は、お隣に住んでいるダリアという女性だ。

恋焦がれていた女性の親友でもあり、そのおかげか、よく話していた。

ダリアのように優雅で、しっかり者の女性だ。

気がついたら私の隣の家にこしてきていた人でもあり、わたしが塞ぎ込んでしまってからは頻繁に来てくれ、体調の心配をしてくれたり、食べ物を持ってきてくれる稀有な女性だ。


しかし、今日はゆっくり休みたい気分だったので、内心少し落ち着かない、慌てた気分になりながら、しかし笑顔でダリアを迎える。


「もう、本当に大丈夫なの?あら、埃溜まってるじゃない!掃除するわよ!」


そう言ってダリアはテキパキと部屋を掃除しながら、テーブルの上のものを片付けていく。そして、持ってきていた料理を置いていた。


「いつもありがとう、ダリア」


なんやかんやで身の回りの世話を焼いてくれるダリアには感謝している。私は、6年くらい前から廃人同然の生活を送っていた。食べ物にも味がせず、何も出来ない状態だった。


かろうじて、仕事には打ち込んでいたが、それも最低限という状態だった。

そんな状態の私を、6年間も支えてくれたのはダリアであった。

本当に、礼を言っても言い尽くせないほどだ。しかし、それと同時にダリアには私の世話なぞやめて、誰かと幸せになって欲しいとも思っている。


「ダリア、君にはとても感謝しているよ、でもわたしのことなぞいいから、君の幸せを考えて欲しいんだ」


ダリアは一瞬ぴくりと止まった。そして次の瞬間にはまたキビキビと動き出していた。


「やめるもんですか!それより健康は大丈夫なの?」


ダリアはそう宣言すると体調について聞いてきた。彼女らしい返答だなと思った。彼女はとても面倒見のいい性格だから。


「ああ、体調は大丈夫だよ」


実際に最近は食事もきちんととっているし、眠れる限りはきちんと寝ている。体調は万全だ。


「あら?このカップはなあに?新しいのを買ったの?珍しい」


ダリアが驚いたようにそう言って、カップを眺めていた。確かにいつも物を買わない私にしてはかなり珍しかったのだろう。


「そうなんだ。実は少し客人が来るようになってね、私がいつも使っているものでは悪いから、新しいカップを買ったんだよ」


私は微笑みながらそう言った。


「ふーん」


ダリアはそう言って、また作業に戻った。


そう私の人生は少し変わった、いつも孤独だった日々からあの小さな死神の女の子が現れて、それからなかなか調子がいい。不思議と彼女と話していると心地よく、全く感性の違う彼女とはいても飽きない。


そして、そんな様子を天井の影の中から眺めている者がいた。


ふむ、あのダリアという女性は、この男に惚れているようだな...


死神のアザミは、影に隠れることが出来る。今まさに、天井にさした影の中に身を潜めて2人の様子を覗いているところだ。


最初に会った時から鈍感なところがあるかもしれないなという印象をなんとなく受けていたものの、ハッキリとそれを理解する。


死神とはいえ、同じ女性として、好きでもない男の世話などするわけが無い、しかも6年間もだ。


いっそふたりをくっつければ、男は幸せになり、絶望などしないかもしれない。


と思ったが、全くその気は無いようなのでそれは諦める。


「じゃあ、今日はこれくらいで帰るから!ちゃんと生活するのよ!」


ダリアはそう力強く言って、男の方を見すえた。


「ダリア、本当にありがとう。君は今の今まで私を助けてくれて、感謝してもしきれないよ。流石私の幼なじみの親友だ。君は素晴らしい女性だよ。」


わたしは、心から微笑んでそう言った。そう彼女は本当に素晴らしい女性だ。


「また来るわ!」

そう言うとダリアは扉から出て去っていってしまった。


私はその後また椅子に揺られながら、気がつけば眠りに落ちていってしまった。


玄関外、ダリアは俯いて立っていた。


―ねえ、わたし告白されて、その人と付き合うべきか迷っているの。どうしたらいいと思う、ダリア。


―付き合ってみればいいじゃない!案外そうしている間に好きになるかもしれないわ!


―ええ!そうね、そうしてみるわ!ありがとうダリア!


彼が私の親友を好きなのは知っていた。しかし、私は彼女に他の男性を後押しした。


だって、私は彼が好きだったから、初めて親友から紹介された時から。


素敵な女性、だなんて...わたしはそんなんじゃないのに。

だって、ダリアの花言葉は裏切りなのだから。



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月夜のラプソディー @umi9501

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