後編(完結)

 無名島高校とやらのパンフレットも読んだし、絶滅危惧種に関係する資料なども読んだ。

 実際に高校はあるらしい。その島には高校しかなく、後はいろいろな生き物が生息している緑豊かな南の島だという。位置は神津島の更に南にあるのだそうだ。そんなところに島なんてあったか? と首を傾げたが、さっぱりわからなかった。

 島の見学は可能だと言われたが、それは実際にタロウがどうしたいかによるだろう。

 翌日も出勤である。明日明後日は休みだからその時にしっかり話す必要があるだろうと思った。


「なぁ、タロウはどうしたいとかそういう希望はあるか?」


 朝聞いてはみたが、タロウはフンッというようにそっぽを向いた。あんなでっかい二頭を従えていたくせに何もないとは言えないだろうと思った。

 結子を職場に送ってから俺も出勤する。

 その日の夜はデートの予定だったが、お互いいろいろ考えすぎて夕飯を外で食べてからなんとなく帰宅した。


「あら、海人も結子ちゃんも早かったわね。どうかしたの?」

「……タロウちゃんのことが気になってしまって」

「ユーコ、チャン!」


 そう言う結子の前にミーが飛んできておかしなダンスを踊り始めた。結子が早く帰ってきたことが嬉しいのだろう。飼主は俺なんだが、もうそれは今更だろう。

 タロウはまだ起きていた。


「なぁタロウ。俺はお前の意志に従うよ。タロウが仔を成したいと思うなら協力する。向こうの山のオオカミたちに対してその気がないならそれはそれでかまわない」


 タロウに声をかけたら、タロウはじっと俺を見た。

 その目が何を訴えているのかは俺にはわからない。ただ避妊手術をするにしろしないにしろ、その選択肢は俺ではなくタロウにあるような気がした。



 こんな、夢を見た。

 タロウの背に乗って、隣の村の山の上に向かう夢だ。何故夢だと断定したかというと、タロウがとても大きかったからだ。

 タロウは俺を隣村の山の上で下ろすと、韋駄天と疾風の元へ向かった。

 何が始まるのかと思っていたら、厳かな声が聞こえてきた。


 私はまだ仔はいらぬ。すぐに仔がほしいのならば私はもうここへは来ぬ。

 

 その女性的な声は、まるでタロウが発しているように俺には聞こえた。

 韋駄天と疾風はそれに頷いたように見えた。

 韋駄天と疾風と同じぐらいの大きさになったタロウが振り向いた。


 カイト。私はあるがままでありたい。


 そうかと思った。

「わかった」



 そう答えた途端、目が覚めた。

 まだ辺りは暗い。夜中なのか、朝方なのかは判別がつかなかった。

 今のが夢であることはわかっていた。だがタロウが避妊手術を望んでいないということだけは間違いないと思った。

 全てが夢の通りであるとは思わない。

 結子は隣ですやすやとまだ眠っているし、ミーも籠の中で寝ている。俺は結子とミーを起こさないようにそっと部屋から出てトイレに行った。その帰りに、玄関先を見た。タロウは玄関で伏せて寝ているようだったが、俺が近づくと目を覚ました。


「すまん、起こしちまったか」


 タロウは身体を起こし、俺が近寄ると俺の手をペロリと舐めた。


「タロウは、仲間がほしかったのか? 俺にはよくわからねえけど、タロウの好きに暮らしてほしい」


 タロウはじっと俺を眺めた。そしてまた元の場所へ戻り、先ほどと同じように伏せた。わかったと言われた気がしたので、俺も部屋に戻って寝た。

 土日は仕事は休みである。

 昨夜の不思議な夢のことは誰にも言わなかった。


「結子、今度流さんのところへタロウを連れて行ってみるか」

「そう、ですね。隣村は私も行ったことがないので行ってみたいです」


 というわけで、流さんにどう返事をするかはともかく今度流さんのお宅へ伺うことにした。

 さすがにタロウの避妊手術については考えるのを止めた。流さんと改めて話をし、仔が産まれた後のことを考えた方がいいだろう。

 さっそく流さんに連絡し、近いうちに伺うという話はした。


「お待ちしております」


 奥さんの声を聞いて、タロウを見た。タロウは相変わらずミーを背に乗せてまったりしていた。

 なんとも平和な光景に笑みが浮かぶ。

 この家も、結子もタロウもミーも俺が守るからなとこっそり思ったのだった。



おしまい。


ーーーーー

これでこの物語は終りです。最後までお付き合いいただきありがとうございました。

また番外編などできましたら追加していきますね。


何気に「離島~」と繋がっていたり、「虎又さん~」とも繋がっています。

そのうち海人たちも出会うかもしれません(謎

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【完結】ワケあって引っ越した~やんちゃオウムと村暮らし 浅葱 @asagi

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