第6話 腹黒コンサルの模索

「わかんないわよねぇ。軽く説明するわぁ。伝わらないかもだけど」


 俺の心を読んだかのように、金味噌が解説を始めた。


「あの子は元々ボディビルダー志望だったのよぉ。で、筋肉を目立たせるのにはライティングが大事らしいのねぇ」

「光、ですか」

「照明の場所とか、それを意識したポーズとか、筋肉に光を反射する油とかったり、方法は色々あるみたいなんだけどぉ。あの子が選んだのはナノマシンなのよぉ」

「ちょっと理解が追い付かなくなってきましたが、ナノマシンでどうやって?」

「すっごく小さいレンズを、たっくさん作ってぇ、身体中にくっつけたんですって。それを微調整して、スポットライトとかで浴びた光を増幅したり乱反射させてるらしいわよぉ」

「それだけで、あそこまで光るものなのですか?」

「実際に光っちゃってるのよねぇ。ナノマシンはあのヘアバンドで制御してるみたいだけどぉ、それでも普通はあそこまでできないわよぉ。執念しゅうねんよねぇ」


 執念というか妄執もうしゅうというか。


「最初のうちはまだソフトな光だったんだけどぉ。どんどんエスカレートしちゃって。ある時、宇宙ボディビル大会で失格になっちゃったのよぉ」

「まぁ、あれだけ光ったらそもそも目で見て審査できませんからね」

「そこから吹っ切れちゃったみたいでぇ。大会に出なくても全力で輝けばみんな見てくれるーって、光の出力を上げる方向で頑張るようになってぇ」

「それで、さっきのような閃光を放つまでになったのですか」

「あんなの序の口よぉ。今のあの子が本気で光を集中させたら、対熱光バリア張らないと耐えられないものぉ」

「対熱光バリアって、いやまさか」


 ようやく視力の戻った目でモニターを見ると、金味噌の目が笑っていた。


「予想ついたかしらぁ。あの子の熱光って、スポットライトを浴びた筋肉の反射光よぉ。あの子がポーズを変えると、熱光の向きや収束率も変わるわぁ」

「それじゃもしかして、さっき船団を焼いた大口径熱線って」

「あの子が宇宙船から身を乗り出して決めポーズしたときの光ねぇ」


 いやすぎるわ。

 それで焼かれた宇宙船が浮かばれないわ。


 というか、ナノマシン込みとはいえ生身ひとつで宇宙船の外装を焼く出力を出せて本人は無事とか。

 爆弾を背負った無人攻撃機よりたちが悪いぞ。

 こいつが一番の危険人物、ってさっきから同じ結論しか出してないな俺。 


「これで主要メンバーの紹介は終わったけど、あなた大丈夫ぅ? お疲れみたいねぇ」

「ははは。プレッシャーを感じていますが、まだ大丈夫です」


 電撃使いの金味噌。

 重力弾マニアの青兜。

 白衣の火薬中毒女。

 そして発光筋肉。


 やべーのしかいねえ。

 だが、少なくともこの金味噌はまだ会話ができるやつだ。

 なんとか話を続けて、生き延びる糸口をつかまねば。


「それで確か、経営コンサルをご希望でしたか?」

「ええ。そうなの。私を含めてこの4人で海賊やってるんだけどぉ、稼ぎが悪くてねぇ」


 考えろ。

 断れば、俺は良くても人身売買の商品、悪けりゃこの場で即殺だ。

 保留も微妙。相手の機嫌ひとつで切り捨てられかねない。


「やるとなった場合、改善点を探るために収支や消耗品、武装などの情報を詳しく教えてもらわなければなりません。それを認めていただけるのですか?」

「そうねぇ。限度はあるけど、それなりに多めの情報を渡すわよぉ」

「武装については、みなさんそれぞれ強いこだわりがありそうです。もし変えるとなった場合、説得はお願いしてもよろしいので?」

「保障はできないわぁ。私たちって協力関係ではあるし、私が取りまとめてはいるけど、無理を言ったらその子は独立しちゃうかもねぇ」


 半目になった金味噌の周囲に、一筋の電光が走る。


「あるいは、あなたを黙らせようとしちゃうかも」


 ビビるな。

 無法者と関わる以上、あっちが俺を害する可能性はどうやったって消えない。


 自分も含め、可能な限り冷静に、冷淡に物事を観察し改善点を見つけ、対応策を出すのがコンサルの仕事だ。

 どうにもならない部分に心を奪われるな。

 自分がやれることに頭を回せ。


「私は改善点や問題点を見つけ、それを伝えるまでです。変えてほしい事が見つかれば相談しますし、理由は納得されるまで説明します。決定権はみなさんにあるし、俺に自分の意見を強要できる力はありません」


 しばらく俺の目を見つめていた金味噌は、やがて金属のまぶたを閉じた。


「ま、そりゃそうよねぇ」


 後ろで警備ロボの駆動音が鳴る。

 そちらを見ると、ロボたちは銃口を俺から外していた。


「とりあえず、今日はここまでよぉ。隣の部屋を使っていいから、そこで休みなさぁい。続きはまた明日ねぇ」

「わかりました」


 よし!

 命はつながった!


 奥にあったスライドドアが自動で開き、警備ロボたちが道を開ける。

 俺はあせりを表に出さないよう、ゆっくりとドアへ歩いて行った。


 扉の先は、一人用のベッドや机が置かれた簡素な部屋だった。

 通信室に詰める人たちの仮眠室だろうか。


 ドアが閉まり、無音になった部屋で俺はベッドの横に腰掛ける。


 さあ、ここからだ。

 この状況から逃げ延びるのに、俺はどうすればいい?


 あいつらを納得させ、信頼を得る。

 遠出が許されるくらいまで。

 そして監視が緩んだスキをついて脱出する。


 あるいは4人のうち誰かを説得なりだますなりして混乱させ、その間に逃げるか?


 他だと、宇宙軍との戦闘があればどさくさに紛れて逃げられるかもしれない。


 逆に、本気であいつらに協力し、仲間にしてもらう道も無くはない。

 それだと今度は宇宙軍から逃げ回ることになるが。


 なんにせよ当面は情報収集、そして連中の内情把握だ。

 それから判断する。

 どの道が最善なのか。


 賭けるのは自分のこれからの人生だ。

 どれを選んでも、後戻りはできないと思え。

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外宇宙の赤字な宇宙海賊に捕まった腹黒経営コンサルタント。改善か死か、あるいは? 海原くらら @unabara2020

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