第5話 発光筋肉

 金味噌が白い画面に話しかけると、妙に間延びした男の声が返ってきた。

 モニターが白一色から徐々に色づいてくる。

 なんというか、肌色一色に。


「近い近い。カメラ近すぎぃ。ちょっと離れてぇ」

「はーい」


 ぺたぺたと裸足の足音が鳴り、ようやくモニターに人の姿が映った。

 正確には、人型の半裸の筋肉の塊が。


 というか半裸でいいんだよな。

 全裸じゃないよな?

 カメラにはヘソのちょい下まで映ってるが、布地やそれに類するものはまったく見えない。

 その下、ちゃんといてるんだよな?


「紹介するわぁ。チョウ・チョウちゃん。うちの戦闘員ファイターよぉ」

「よろしくねー」

「よろしくお願いします」


 うん。まぁ、見事な筋肉ではある。腕力はあるだろう。

 しかし身体には傷ひとつ無く、ツヤツヤのテカテカ。

 口調は純朴じゅんぼくで表情は穏やか。

 ついでに言えば、なぜか頭には犬の耳のような三角形が2個ついたヘアバンドのようなものを付けている。


 ボディビルのインストラクターとかならともかく、宇宙海賊の戦闘員にはとても見えない。


「とても立派な筋肉ですね。確か、ナイスバルクと言うのでしょうか」

「えへへ、ありがとねー。でも、まだまだだよー」


 俺が無難にめると、彼は恥ずかしそうに自分の腕を見た。


「戦闘員というと、その肉体で近接戦闘をされるのですか?」

「ううん、違うよー」


 違うのか。

 あの筋肉で、さらに彼用の強化外骨格式装甲服パワードスーツアーマーとか着れば、誰も止められない戦力になりそうだが。


「チョウちゃんはねぇ。極小機械操作者ナノマシンオペレーターで、戦闘には熱光ヒートレイを使うのよぉ」

「おお、なるほど」


 熱線レーザーでなく熱光ヒートレイか。そっちも強いな。


 熱光は熱線に比べてかなり広範囲だ。

 射手の前面ほぼすべてに同等の火力を出せる。

 そのぶん、武器としては使用エネルギーも多く、制御も複雑化。武器サイズはだいぶ大型になる。


 だが、あの筋肉量に極小機械ナノマシンのサポートも加われば、相当な大口径の熱光銃ヒートレイガンを扱えるだろう。


「どれくらい大型の熱光銃を使われるのですか?」

「んー? 銃は使わないよー」


 俺の質問に、不思議そうな返事が返ってきた。

 いや、そんなこと言われても。

 熱光を発射するのは銃以外になにかあるのか?


「僕が使うのはねー」


 彼が息を大きく吸い込み、両手を頭上に持っていく。


筋肉これ!」


 掛け声とともにモニターが閃光を放ち、俺の視界が白化ホワイトアウトした。


まぶしっ!」

「えへへー。そんな褒めないでよー」


 褒めてねえよ。

 比喩ひゆじゃなく、普通に眩しかったんだよ。

 そんな恥ずかしそうな声を返されても困るわ。


 というか、それどころじゃない。

 光が目に入って、痛え。

 涙まで出てきた。


「でも、今日はまだ途中までしかトレーニングできてないからなー。もうちょっとやらなきゃなー」


 あっちの声は普通に聞こえてくる。別に異常事態ってわけじゃないみたいだが。

 なんか、さらに光が強くなってないか?

 とても目を開けてられない。

 両手で顔を押さえても、まだ光が入ってくる。


「ちょっとモニターの輝度きどを下げるわねぇ」


 金味噌の声がして、光の量が小さくなっていく。

 とりあえず直視できるくらいには目に優しい光になったが、モニター上は相変わらず白いままだ。


「えーと、チョウちゃん。後は私が説明しとくわぁ。トレーニング続けていいわよぉ」

「はーい。それじゃ、あとはお願ーい」


 モニターの白い部分が縮小され、再び金味噌の姿が拡大された。


「ごめんなさいねぇ。あの子ったら急に光るから困るのよぉ」


 急に光るって。

 閃光弾フラッシュバントラップかよ。

 ダメだ、まだ目が痛い。


「事前に言っとけばよかったわねぇ」


 止まらない涙をハンカチで拭いていると、金味噌が声をかけてきた。


「いえ、お気になさらず。それより、あの光は?」

「あれねぇ。光の大元は普通のスポットライトなのよ。それを増幅してるの」


 ……どういうこと?

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