第4話 残るもの

 私の周りにはいつも死の影が付き纏う。


 私の母は病弱で、私を出産するときに死んだ。


 幼い頃、父と散歩に行ったとき道路に飛び出した私を助けようとした男性は私のかわりに轢かれて死んだ。


 幼なじみだった親友はいじめを苦に、私の手を離れて死んだ。


 父はこの間、工事現場から落ちてきた鉄骨に当たって死んだ。


 どれも私が原因だ。


 私が産まれたから母が死んだ。


 男性は私が道路に飛び出したから死んだ。


 親友は私がいじめから助けられなかったから死んだ。


 私が父の言うことを聞かなかったから、いつもと違う道を選んで死んだ。


 私は死を背負う運命なんだろうか。


 母がなんと残したかは分からない。


 男性は私の方を見て「よかった」と言った。


 親友は最後に笑った。


 父は「ごめん」と残した。


 私が死を背負った人たちが何を残したかったのか、私には分からなかった。


 それを知るには私も死ぬしか方法が考えられない。


 死の重みは私には耐えることが出来ない。


 涙が溢れてくる。


 死んだ人間のことを背負って、残された人は生きなきゃいけない。なんて言われるが私にそれはできない。


 みんながみんなそう強くは生きられない。


 私はただ背負わされた重みに押し潰されていくだけ……


 すれ違う人たちの中をすり抜けながら私は重たい足を進める。


 あてもなく進むその足はどこへ向かっているのだろうか。私にも分からない。


 一歩進むごとに足元が沈んでいくような感覚に陥っていく。


 だんだんと足元がおぼつかなくなっていく。


 このまま死んでしまえれば楽なのかな……


 楽、なんだろうな……


 サクッ……


 え?


 異物が体の中に入っていく感覚。


 肉が裂かれ、金属が皮膚の内側に入る。


 グブッ……


 口の中に血の味が広がる。


 私は目を動かし、目の前に立つ人を見る。


 フードを深く被り、暗く濁った目が私の視線と交差する。


 私はその場に倒れ込んだ。


 腹のあたりが焼けるように熱く、痛みが私の脳に届く。


 痛い……痛い痛い痛い痛い……


 声にならない叫びが私の中に響き渡る。


 血の匂いが鼻から通り抜けていく。


 途端に痛みが無くなった。


 痛覚だけが遮断されたような感覚。


 口の中に広がる血の味や、冷たい血の感覚だけは残っている。


 あぁ……死ぬのか。


 私はそれだけが明確に理解できた。


 背負った死の重みが消えるのならばそれでいいのかも知れない。


 私はそう思った。


 心残りは私の死を背負う人がいなければいい。ただそれだけだ……


 私は雑踏が耳をつんざく中、ゆっくりと目を閉じた。

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明日死ぬ君は今日を生きる 神木駿 @kamikishun05

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