EP.2-10 ただのお遊び

「不倫とプリンは似てるよねっ☆ ~♪」

コッペたちはカラオケにいた。

部屋にいるのはコッペとメリー、ジョンとニャイロだ。

たった今、コッペが1曲歌い終えたところだ。

カラオケ内のテレビの画面が切り替わり、何やら数字が映し出された。

「ああー、83点かぁ、85点いきたかったなぁ」

コッペが悔しそうに声を漏らす。

「いやいや、上手だよ! 私とか80点超えたことないよ!」

ジョンがフォローするように言った。

「ホントそれぇ、私が採点やると50点くらいしか出ないのにぃ」

「それは低すぎるよ」

ニャイロのぼやきにコッペが困ったように言う。


「音程を外しすぎなのよ」

そこにメリーが口をはさんだ。

「カラオケの採点は、ほとんど音程の一致率で決まってるのよ」

「え、そうだったの!? 知らなかった」

コッペが驚いた様子で言った。

「ええ、抑揚とかビブラートとかは合わせて10点くらいしかないし、よほど下手じゃなければ意識しなくても5点はくれるわ。最初のうちは音程合わせに集中しなさい」

「へぇー、詳しいね。もしかしてメリーってカラオケ好きなの?」

「あ、それちょっと思ったぁ。最初メリー行かないって言ってたのにぃ、カラオケって分かった途端とたんに行くって言いだしたしぃ」

ジョンとニャイロが思い思いに言葉を出した。

「昔はカラオケでよく練習してたから、よく覚えてるのよ」

メリーは遠くを見つめて呟いた。

「じゃあ、1曲歌ってみてよ! メリーの歌聞きたい!」

コッペがそう言いながらメリーにマイクとリモコンを押し付けた。

「ちょ、ちょっと。……まぁ、良いわ」

メリーはリモコンを操作し、マイクを持って立ち上がった。


『シリウスの恋』という曲名が表示され、伴奏が流れる。

「揺れる思いの欠片、確かな香り~♪」

メリーが歌いだすと、他の3匹が驚いたような表情で聴き始めた。

力強い、抑揚のあるメリーの歌声に、ここにいる全員が聞き入っていた。

「世界が君を裏切ったとしても~♪」

画面にはリアルタイムで採点の結果が表示されている。音程はほぼ完璧に合っていて、加点のポイントである"こぶし"や"ビブラート"の回数も順調に増やしていた。


そしてメリーが1曲を歌い終え、結果が発表された。

「98.6点!?」

コッペが画面に表示された点数に驚きの声を上げた。

「凄いよメリー! もしかしてプロなの!?」

「てかぁ、得点の桁が増えてなぃ?」

ジョンとニャイロも同様にメリーを褒め称えた。

「95点以上になると桁が増えるのよ」

「へぇー、知らなかった。メリー、将来歌手になれるんじゃない?」

「うっ……」

コッペの発言に、メリーがかすかに表情を曇らせる。


「そうでもないのよ、カラオケで高得点を取る歌い方と、歌手の歌い方って、全然違うのよ。歌手は音程をわざと外してアドリブを入れたりするし、加点のためだけにビブラートを多用したりしないからね」

「凄い、そんな話全然知らなかった」

コッペが感心した様子を見せる。

「カラオケなんて、ただの遊びよ。本気で歌の練習をしたいならカラオケはやめておきなさい」

メリーが話を終えると、ゆっくりと席に座った。

「ねぇー、どうやったらカラオケの点数あがるのか教えてー?」

するとジョンが甘えるような声でメリーにすり寄ってきた。

「え、ちょっと、話聞いてたの? 歌の練習にカラオケは向いてないって……」

メリーが動揺した様子でジョンを見る。

「聞いてるよー。カラオケは遊びなんでしょ? 私たち遊びに来てるんだからいいじゃーん」

「そうよぉ。あとぉ、なんか食べ物頼んで良ぃ?」

「良いね、メリーの歌もっと聞きたいし」

ジョンとニャイロとコッペがそれそれ思いを口にすると、メリーの表情が少しほころんだ。



2時間後、日が地平線に沈みかける頃、コッペたちがカラオケから出てきた。

「楽しかったぁー、いっぱい歌ってきもてぃー」

すがすがしそうな雰囲気のニャイロを、メリーが呆れたような表情で見ていた。

「あんたのあれって本当に歌ってるの? 念仏を唱えているようにしか見えなかったわよ」

「あ、あはは……、メリーってほんとストレートに言っちゃうね」

メリーの辛辣しんらつな発言にコッペが困ったように言った。

「教えてあげないといつまでたっても分からないじゃない。まぁ、2度は言ってあげないけど」

「お手柔らかにね、私、教えられたことすぐにできるほど器用じゃないから」

ジョンが困ったように笑いながら言った。

「じゃ、ここで解散ね、じゃーねー」

「はーい」「また学校でねぇ」

こうしてそれぞれ、帰宅を始めた。

(あの子たちとなら、またカラオケ行っても良いかもしれないわね)

メリーはそんなことを考えながら歩いていた。



『いや~、にしても顔キモかったな~』

「!?」

後ろから聞こえてきたその声にメリーが振り返る。

そこには、ついさっき別れたばかりのコッペたちの姿。

内容はよく聞き取れないが、笑いながら話していた。




メリーの中で、何かが崩れた。




信用していた、いや、信用しかけていた相手に、こうも簡単に裏切られるなんて。



『今の、聞こえただろう?』

先ほど裏路地で聞いた声が、再びメリーに話しかけた。

『表では仲良く接する癖に、別れた瞬間に陰口だ。最初から友達だなんて思ってなかったんだよ。前のあいつらみたいにな』

「……そうみたいね」

メリーの心は真っ黒に染まった。開きかけていた心の扉は閉ざされ、何重にも鍵がかけられた。

メリーは何もかもを諦めたように振り返り、速足で帰宅する。

日は沈んでいき、この世界が真っ暗になっていく。街灯の明かりさえも、もう見えない。



『そう焦るな。復讐は明日から始める。お前は黙って見ていれば良い』

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ティーネイル Dream in Future カービン @curbine

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