EP.2-9 不謹慎な同級生
同日の放課後、
「それじゃ、私は一回家に帰ってからカラオケ行くから、現地集合ね! 場所はさっき言ったところね!」
コッペがメリーに呼びかけながら教室を出た。
メリーはそれを見送った後、机から1枚の紙を取り出した。
そこには、カラオケまでの道のりが示された手書きの地図が描かれていた。
メリーはその紙と教科書類をランドセルに詰め込み、家に帰り始めた。
帰宅中、メリーは前方に見覚えのある動物を見つけた。それはティールとダイナーとクロッパだった。
彼らは後ろにいるメリーに気づいていないようで、ただ前に歩きながら話していた。
「自殺配信?」
ダイナーがクロッパに聞き返した。
「うん、最初吊りだと思ってたんだけど、マジで死んじゃったんだよ」
「あ、それ知ってる。ニュースでやってたよね?」
ティールがクロッパに聞いた。
「うん。それだね。まぁ、それはどうでもいいんだけど」
「いや、良くねーだろ」
ダイナーがすかさずツッコミを入れる。
「その死んだゴリラ、よくよく調べたら面白くてさぁ。死ぬ前に前に何やってたか知ってる?」
ディールとダイナーが顔を見合わせる。
「いや、知らないなぁ」
「あのゴリラさぁ、……えっと、かっ、歌手になろうと、ぷっw してたんだってさ! あの顔で!? 無理だって!! あははwww!」
クロッパは笑いをこらえながら話していたが、やがて耐えられなくなり大声で笑い始めた。
「ゴ、ゴリラが歌手!? どう考えても無理じゃねーの!?」
ダイナーが驚きながらクロッパに聞き返した。
「ぷふっ、うん! そりゃ歌はうまかった方だけど、でもあの顔じゃあねぇwww」
クロッパがいまだ笑いながらしゃべった。
それを後ろで聞いていたメリーは、拳を強く握り締め、牙を見せて怒りの感情をあらわにしていた。
手を出しそうになるのをぐっとこらえて、メリーは逃げるように反対方向へ走っていった。
そんなメリーに気づく者は、誰もいなかった。
「え、歌手って、歌を歌うんでしょ? 顔って関係ある?」
ティールがクロッパに聞いた。
「いや、そりゃあ、あるよ! 歌手って、なんていうか、美術、芸術、美しさが大事なんだから、顔も同じくらい大事だよ!」
クロッパの言葉に続けてダイナーも言う。
「俺が好きな歌手だって、顔はみんなきれいだぜ。アイドルとおんなじ感じなんじゃねーの?」
「そうそう、アイドル! ブスが歌ってても誰も見てくれないんだよ」
「……そう、なの?」
なんだか腑に落ちない様子のティールにクロッパが聞く。
「ティールは好きな歌手とかいないの?」
「うーーん、歌手じゃないけど、漫画家ならいたよ」
「漫画家?」
「うん。ボクその漫画家のお話が好きで、毎日SNSで見てたし、いいねもつけてたよ。最近はその絵師、全然活動してないけど」
「あーー、漫画家、うーん……、そう……」
クロッパは何か良い例えを考えようとしたが、何も思いつかなかった。
「てかさ、なんで自殺なんかしちまったんだよ?」
「さぁ? 歌手になる夢がかなわなくて絶望したとか?」
ダイナーの質問にクロッパが答えた。
「夢か……」
ティールはぼんやりとつぶやいた。
「死ねっ!! あいつらっ!!」
ゴスッ!!
メリーが裏路地で誰かの家の塀をぶん殴っていた。
息は荒れていて、怒りに満ちた表情をしている。
「あんな奴がクラスメートなんて……、もう転校しようかしら、いや、転校先にもあんな奴がいたら、……ああもう!!」
メリーはそんなことをつぶやきながら塀を殴っている。そのせいで少しひびが入っている。
「あいつらも、あいつらと一緒だ。陰口言って、いじめて、楽しんで、最低だ。殴ってやりたい、ああ、そうしたらまた転校だ……」
『殴りたいのか?』
メリーとは違う何かの声が聞こえた。
「ええ、思いきり殴りたい。殺したい。でもそんなことしたら私が捕まる」
知らないはずの声に、メリーは何の疑いもなく答えていた。
『簡単なことだ、ゆっくり、じわじわと苦しめていけばいい』
「じわじわと? どうやって?」
『お前のその憎しみ、くやしさ、一回すべて俺に預けろ、なーに、悪いようにはしない。俺の力で、お前の目の前で、あいつらに不幸をお見舞いしてやるのさ』
「不幸?」
メリーはいつの間にか塀を殴るのをやめていた。
明らかに怪しい、どこから聞こえているのは分からないその声に、メリーは耳を傾けていた。
『お前の苦労はずっと見ていた、今までよく頑張ったな。誰も自分の味方をしてくれない。ただ
あいつらは、お前だけでなく、ほかの奴らにも同じことをしているぞ。お前が不幸なんじゃない。あいつらが不幸をまき散らしているんだ。
全ての元凶はあいつらだ。あいつらがいなければ、お前は普通の生活を送ることができた。そしてそれは、お前だけじゃない。あいつらの不幸の
お前が前の学校、前の環境でされたことを、あいつらにもしてやるんだ。これは復讐だ。
ただし、お前は見ているだけで良い。すべて俺がやる。お前はただ、心の中で笑っていれば良い』
「……」
『さあ、お前の怒り、憎しみ、くやしさ、すべて俺に預けろ』
「……」
メリーは表情を変えないまま、裏路地から出てきた。
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