第7話 俺、就職しました!


「違う!掃除の基本は上から下へ!まずは照明と棚からハタキをかける!」

「はい!」

「窓は新聞紙で水拭き!その後は丸めて床掃除に!」

「はい!」

「雑巾はこう絞る!」

「はいぃぃ!(泣)」

「カルタ君怖い…。」


「ここが儂等の診療所じゃ!」

「緊張しないでくつろいでね、カルタ君。」

ライア兄ちゃんに反対されたものの、俺はレイル先生の所にお世話になることになった。給料出るみたいだし、折り紙作品を置ける場所を確保出来るようになるので、了解した。

んで、レイル先生の研究室に案内されたのだが…、汚い!本や手書きの報告書は乱雑に置かれてるし、本棚や証明は白いかと思ったら埃だし、窓も外汚れが酷いし、カーテンも薄汚れてるし、床はよく見たらなんか零してるし!なんか毛布らしき布が床に丸まっている。まさかこんな床で直に寝てたのか…?

駄目だ。これは駄目だ。精霊じゃなくてもこれは入りたくない…。あぁ、俺の中の祖母が怒り狂ってる…。

「カルタ君、この部屋には入らないほうが…。」

「…せんか。」

「え?」

「掃除せんかあぁぁぁ!!」

「ビャッ!?」

「何なんだこの部屋は!?こんなところでカーテンも開けずにずっと籠もっとたんかお前はぁぁ!!あんた一応医者だろ!こんなところにいて健康保てる訳ないの分かってんだろうが!まさかこの埃まみれのまま患者に会ってないよなあ!?赤ん坊とかは特に埃に敏感なの知っとんか!?患者や精霊の健康管理したいならまず自分の管理徹底せんかあぁぁぁ!!!」

「「ヒィィ!」」

というわけで、俺がここに来て最初にした仕事は上司の部屋の掃除でした。本や資料を全部廊下に出した後、祖母直伝の掃除をとにかくこの爺に叩き込む。ミーナさん曰く、食事や睡眠もこっちが言わないとひたすら没頭し、忘れてしまうらしい。研究熱心なのは良いが、これじゃ精霊が倒れる前に爺がぶっ倒れそうだ。医者でもあるんだからまずは体調万全にしなくては。というか精霊の弱体化って魔力うんぬんの前に、この爺の部屋の汚さも原因なような気がしてきたよ、全く…。


「初日から怒鳴ったり、指図指したりして申し訳ありませんでした…。」

「ううん、寧ろ、凄く有り難かったわ、カルタ君。この爺、何回言っても掃除しないし、あたしじゃどこから手付ければ良いか分からなかったし。というか、掃除詳しいのね…。」

「え…、あー、前にいた屋敷のメイドさん達から聞いていまして…。」

「腕がまだぷるぷるする…。」

「これに懲りたら、こまめに掃除してくださいね!お茶が入りましたよ。」

掃除がやっと終わり、一息ついところでミーナさんがお茶を入れてくれた。ミルクティーぽいが、飲んでみると、ほのかに生姜みたいな香りがして体が温まりそうだ。因みにお茶請けは一口サイズの丸ドーナツだった。

「あ、そうだ。早速…、」

掃除の時に未使用で綺麗な紙をあらかじめもらった俺は籠を作っておいた。上質な紙でなめらかだった為、少し丈夫な作品にしたかった。籠にナプキンを敷き、自分のドーナツを千切って置いてみる。

いつの間にか復活した爺、…レイル先生は自分と同じように、小皿に千切ったドーナツを置いて見比べていた。

「ふうむ。やはり不思議じゃ。」

「自分、精霊見えてないけどそんなに差があるんですか?」

「あるぞ。今まさに、お前さんのところのドーナツの争奪戦をしとる。…、すまんが、何か生き物の形をした折り紙を出せるかの?」 

「あ、じゃあ…。」

俺は木箱に入れてきた鶴と、あの時先生を襲ったアニマルズを出して行く。すると出した側から折り紙達が動き出し、俺や先生のドーナツによっていった。こうすると、確かに俺の籠の方が折り紙が多く集まりつつあるのが分かる。

「おお!折り紙に宿ると儂のドーナツにも寄るようになったわい!やはり、カルタ君の折り紙越しだと吸収しやすくなるようだな!」

「わ、すごい沢山の作品!よく思いつくわね。」

「あまり昔から魔石を使用した玩具は好きじゃなくて、暇さえあればとにかく紙を折ってたんで…。」

うーん、説明しにくい…。折り紙の本なんて、この世界には無いし、実際魔石を使用した玩具は自分みたいな魔力なしだと規則的に光るだけで、すぐに飽きてしまってた。

「魔力を持たない事がやはり決め手なのかのう?嫌、しかしそういう実験は粗方試したはずだし…。」

「紙を折ることに意味があるんじゃないですか?」

「成る程…。カルタ君!儂らに何か、生き物の作り方を教えてくれんかな?そうじゃのう、その1番元気そうな風の精霊様が宿った白い鳥の様な子の折り方を教えて欲しい。」

レイル先生は鶴を指指しながら提案をしてきた。

「この子ですか?分かりました!」

折り紙といえばまず折りたくなるのはやはり鶴である。羽の作り方は少々難しいが、それさえ出来れば上手くいくはずだ!

…だったのだが。

「な、何回やっても羽が上手くいかん…!」

「折り目に沿って…、あ、また潰れた!」


うん!甘く見てた!二人共薬や紅茶とかで手先が器用そうだから、すぐに折れるかと思ってたけど、目茶苦茶手をぷるぷる震わせながら、折ってた。下手したら、初めておりがみに触れた孫よりも手付きが覚束ない!


折り紙普及はまだまだ遠そうである…。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

元・折り紙作家は「紙作品」から、「神(が宿る)作品」を編み出す。 キーマカレー @4karamoe6

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ