another story クソ親父が死んだと思ったら、親友の親戚になった件
「ひえぇぇ…。俺ん家と大違い…。」
俺の名前はヨハン・ヴィン。スキルは「水魔法」。
「大丈夫。そんなに緊張しないで。」
女子や女教師を何人も骨抜きにしてきた笑顔を向ける、ロイ・オーディン。いやいや、なんであんたはのほほ~んとしてんの。あ、実家だからか。
「うわあ~!大っきい!スゴーイ!」
…弟よ、お前の呑気さが羨ましいよ。
「父上、母上。二人を連れてきました。」
「よ、ヨハン・ヴィンですっ。」
「ゼル・ヴィンですっ!」
「おお、来たか!」
「ようこそ!…いえ、お帰りの方が正しいわね。」
信じられないかもしれないが俺達兄弟は、オーディン家の養子となった…。
ヴィン家は元々はワイン業を営むそこそこ金持ちの一族だったが、祖父の時代で事業に失敗し、どんどん落ちぶれていった。とはいっても、節約すればなんとか生活は出来るほどであった。しかし幼少時、贅沢三昧をしていたらしい俺の親父は庶民程度の生活を受け入れらず、俺やお袋に八つ当たりし続けた。ついにお袋はそんな親父に愛想を尽かし、俺達兄弟をおいて出ていった。俺はまだ4歳だったゼルを庇うのに必死だった。周りの人達も親父に関わるのが嫌だったのか、見て見ぬふりだった。幸い、「水魔法」のスキルには目覚めたため、洗濯や畑のバイトなどで生活費は稼げた。(もちろん弟は勤務先に預けた。)
親父はろくに働かず、売れずに蔵に残ったワインばかり飲んでいた。しかも祖父はプライドばかり高いため、祖父の遺産+借金までして俺を無理やり高い魔導師学校に入学させようとした。そんな高い学校になんて入ったら勉強に着いていくためにバイト時間が減るし、親父と弟を二人っきりにするのは大反対だった。しかし「入試に落ちたり、退学なんかしたら俺の土魔法でゼルの肺を砂で満たして殺してやる!」と脅され、あとに引けなくなった。正直学校にいる間、不安で仕方なかったが、ゼルが7歳になって「自然系魔法を自由に構築出来る」というスキルに目覚めた後、親父は上機嫌になった。それからしばらく経った夜、親父は借金返済が明日来るから、「石ころを金や宝石に変える魔法」を構築しろと言ってきやがった!通常それが出来るのは普通錬金術師だけだが、ゼルのスキルなら普通の魔導師が出来ない魔法を作れると踏んだのであろう。しかし当然資格や許可なしの物質変型は違法だし、そもそも息子を金儲けの道具にするのが間違っている。流石に腹が立った俺は親父に魔法で冷水を引っ掛け、怯んでるうちに、ゼルを連れて逃げた。親父が追い掛けてこないように全力で。とりあえずその日の夜はバイト先の一つであった農家の夫婦に必死に頼み込んで泊まらせてもらった。翌日、ゼルだけ夫婦に預けて家に戻ってみると、なんだか騒がしい。それに凄く焦げ臭い。何故か警察官までいた。俺は警察官を見た瞬間、とてつもない恐怖に襲われた。それでも話を聞くと、なんと家が火事になり、親父が焼け死んだらしい。鑑定によると出火原因は一階のランプと周りにあったワインのアルコールによるものだ。目撃者によると俺達が家を飛び出したのを見た後、怒鳴り声とガラスが割れる音が聞こえたらしい。しばらくしたら収まったので気にせずに放置してたら火事がおこったとのこと。
「イーア・ヴァンは地下のワイン蔵で亡くなってました。」
「恐らく一階にあったランプを消さずにワイン室で眠ってしまったため、一階が火事になってしまい、逃げられなくなったのでしょう。」
「地下室には不自然な土壁がありました。イーア・ヴァンは土魔法のスキルを使って助かろうとしたのでしょうが、間に合わなかったようです。」
「死体の鑑定したところ、泥酔状態とアルコール中毒、脱水症状もありました。極めつけは火事による地下室の酸素不足にサウナ状態。これでは構築も詠唱もろくに出来なかったのでしょう。」
警察が淡々と鑑定結果を話すが、全然ついて行けなかった。
死んだ…?親父が死んだ…?
今、俺どんな感情になってんだ?いや、なんか恐怖だけははっきりしている。
そんな俺を余所に「悪いけど、現場検証がまだあるから知り合いの家にでもいてほしい。」と告げて去っていった。去った瞬間、何故か安心してしまった。気が緩んだのだろうか?
「君、ヴァンさんのご家族かね?」
「わ…!」
急に俺を路地裏に引きずりこみ、声をかけてきたのは、黒ずくめの服を着た数人の男達。おそらく警察官が離れたところを見計らって現れたのだろう。
「はい、そうですが…。」
「私達、イーア・ヴァンさんに金を貸していた者なんだが。」
「…?っあ…。」
「ヴァンさんが昨日の昼頃、「息子が借金払うそうなんです!」と嬉しそうに言ってたんだよ。」
「言っとくけど嘘じゃないよ。ほら、このメモリーストーンを見てご覧…。」
「え、うぁ、あ…。」
メモリーストーンには嬉しそうにしている親父が写ってた。ペラペラとゼルのスキルまで…。ああぁ、そうだった。あの親父、最後まで…。
「…さて、ゼル・ヴァンは何処なのかな?」
「ヒッ…!」
「ああ、怖がらないで。君も弟君もケガはさせないから。ちゃーんとお金を返してくれたらね…。」
どうしようどうしようどうしよう…!
このままじゃゼルやあの夫婦危ない!喋れるわけないじゃないか!でも、ここで俺が殺されたら、ゼルは今度こそ…。
「ヨハン!」
「っ誰だ!?隠密魔法はかけたはずだぞ!」
「…!ロ、ロイ?」
「君達は誰だい?僕はヨハンの友人だよ。彼を離して。」
「邪魔しないでくれるかな?私達はこの子の父親に貸したお金を返してもらおうとしているだけなんだよ。「借りたものは返す」、そうだろう?」
「借金ってことかい?」
「ロイ!大丈夫だから!早く帰って!」
「いくらなの?」
「ロイ!駄目!来ちゃ…?」
なんだろう。独特の匂いが漂う。
「【嘘は付かないで】なんでも僕に行ってご覧?」
「ハハハッ!正義の味方気取りかぁ?本当は300万マニーなんだがよう.、わざと高い利子つけてざっと1000万マニーだ!…あ?」
「こっちも商売だからよぉ!利益上げないとこっちの給料が下がるんだ!…っては?」
「やっぱりね…。正式な金貸しならこんな路地裏でコソコソしないもの。」
「て、テメェ、俺達に何しやがった!?」
ロイは先程から後ろ回した手をあげてみると、右手にはメモリーストーン、左手には小瓶が握られていた。…あ、そうか!自白剤!
「これ、警察官に見せたらどうなるかな?」
「よ、呼べるもんなら呼んでみろ!こいつの命はねえぞ!」
俺を引き寄せて、金属の刃を手から生やし、首元に当てる。しかしロイは笑ったまま。
「大丈夫。呼ばないよ。…だって。」
「がっ!?」「ぐっ!?」
「最初から筒抜けだから♪」
地面からいきなり光の鎖が出てきて男達を拘束した。
「先程はすまなかったね。ヨハン・ヴァン君。」
抱き起こしてくれたのは先程俺といた警察官だった。あれ?なんか急に恐怖心が消えた?
「オーディン家に仕えている従業員が長年追ってた違法の借金取りに関わっていることが昨日判明してね…、そしたらロイ・オーディン君が「自分の友人も同じ奴らに巻き込まれてるかもしれない。」と教えてくれたんだ。」
ええええ!?確かに入学して間もない頃、ロイに「親父の奴、借金してるんだよねぇ…。」愚痴で言ったことあるよ。でもそれだけで?
「その借金取りに巻き込まれた人の特徴は「何故か皆警察官に隠したがる」らしくてね。明らかにずさんな契約書を突きつけられても、どんなに理不尽な利子をつけられても金を借りた人だけでなく、その家族まで警察官に恐怖心を抱いてしまうんだよ。」
「俺のところの従業員もずっと怯えててね、部屋から契約書見つけて「これ、明らかにおかしいよ。」て言った瞬間、嘘のように恐怖心が消えて通報できたんだ。どうやら契約書を介した【トラウマ】のスキル持ちだったようだね。」
だからあんなに警察官におびえてたのか!そう言えばロイに警察に相談すれば?って言った瞬間、ものすごく動揺したし、親父も家の端に隠れて「警察官に見つかるな!」と酷く怯えてた。あの時は何故か疑問に思えなかったがそういうことか…!
「ヨハン…。無事で良かった。」
「ロイ…。本当にありがとう!」
「ううん、遅くなって本当にごめん。もっと早く君の異変に気づいていれば、もしかしたら君のお父さんだって助けられたかもしれないし…。」
「いや、親父は借金する前から色々ヤバかったから…。というかこれからどうしよう。ゼルもいるし…。」
「…、あの、さ、ヨハン。凄くずるい話なんだけど…。」
まあ、そんなわけで、俺達兄弟はロイの家にお世話になることになった。
「俺も弟がいたんだけど、7歳になる前に死んでしまってね…。母上もいつも悲しそうにしてるんだ。それだけでなく昔お世話になったルイーゼ家が前々からすごく困っている状況で、そこにも7歳になる令嬢がいて、俺も昔あったんだけど、凄く可愛いんだ。他の貴族が不平等な婚約を迫って来ないように「形だけ」の婚約者として弟が選ばれたんだけど、弟は亡くなったし、俺は別の相手がいるから…。絶対に君達兄弟は巻き込まない!!だから、その…、」
悲しそうな表情をずっと浮かべるロイに俺は何も言えなくなった。ゼルが大人になる前に婚約解消はできるようにするし、俺も将来レグープ畑をやる夢が出来ているのでオーディン家の直接な陽子にならなくて済むのは有り難かった。ゼルはもう両親に懐いていた。
まさか、こうなるなんてなあ…。人生分からないもんだよ。ホントに…。
…ホントウニスベテグウゼン?
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