第6話 お供えの意味

「…先程は誠に申し訳ありませんでした。」

「嫌、平気です…。」

「これ、氷水です。どうぞ…。」

「甘いよライアにカルタ!もっとビシッと言ってやりな!」

「そうよライアさん!このジジイはいい年こいて興奮気味に幼いカルタ君に詰め寄ったんだから!いっそ訴える!?カルタ君も正直に言って良いからね!」

ここは俺とライア兄ちゃんが住む、屋根裏部屋。

女性二人がレイル先生を沈めたとはいえ、彼が言ってた「精霊様を救いたい」という言葉が気になり、ひとまず話を聞くために屋根裏部屋に案内することになった。ってか、幼いって…。俺も前世爺だったんだけど。今の年足したら、この爺さんより年上かもしれん。

「それで、レイル先生。精霊様を救いたいって?」

「あー…、先生は診療所を営みながら、精霊様について研究してるのよ。」

「研究?」

「私は精霊様が見えないからよく分からないのだけど、どうやら度々あるらしいの、【精霊の弱体化】が。」

「精霊の弱体化!?」

「皆さんは精霊様について、どう聞いておる?」

「ええと…、あたしが聞いた話だと、精霊はこの世界の至る所に存在す魔力の源であり、人間達に魔力を与えてくださる素晴らしい存在だと…。」

「後は、…精霊王はこの世界を作った神様の最大の眷属であり、そんな精霊王にスキルを与えられるのは「神に愛された証」であるとも。だからより良いスキルをもらえるようにお供えを毎日するべきだと、ちちう、…前にお世話になった貴族の旦那様が話してたのを聞いたことがあります。」

危ねー。実家のことは秘密だったわ。

「…正直、それに関しては俺は信じたくありませんがね。カルタさ…、カルタは小さい頃から毎日欠かさず精霊にお供えを捧げていましたし、常に精霊に感謝していました。スキル無しと判明してからもずっと…!」 ライアはオーディン家の事を思い出しながら苦々しく言う。

「気にしないでよ。別にスキルのために続けてたわけじゃないし。」

「ライア、カルタ…。」マチルダさんが悲しそうな表情で俺達を見る。

「そうか…。だが考えたことは無いかね?「魔力の源である精霊が魔力を放出し続けるとどうなるか?」と。」

「「え…?」」

「あ、先生も?俺もそれ考えてたよ。始めてお供えが消えたの見た時「精霊達も魔力出してたら、そりゃあお腹空くよな〜」って思って、お供え続けてたよ。「今日もお疲れ様でした」っていう感じで。」

「カルタ!?」

「え?何かおかしな事言った?」

俺の前世の実家には神棚があり、祖母と一緒に米や酒を毎日お供えしてたから、別に普通だった。(神人共食というものだ。)孫が好きだった某有名映画でも神様専用の旅館とかあったし。だから精霊と一緒に食事することも特に疑問に思わなかった。

「ふうむ。やはりか…。これはほとんどの人間達が思っていることなんだが、「精霊様の魔力は無限である」は大きな間違いじゃ。」

「「!?」」

「どんな物でも無限のように見えて、必ず何らかの循環は存在する。その循環が崩れてしまえば、いずれは消滅するのだ。」

あー、昔生物でやったな。菌類、植物、動物、その他色々全て揃って初めて自然界のエネルギー循環が正立するってやつ。

「儂ら人間も外から水や食べ物を摂取して初めて生命エネルギーを生み出している。精霊王本人は分からんが…、それ以外の精霊達は人間と同じようにゼロから魔力を作り出しているわけではない。何らかの方法でエネルギーを蓄え、そこから魔力を生み出しているはずなのだ。」

「そのエネルギーの一種が【お供え】によるものだと、先生は結論づけてるの。ほとんどの奴らが否定してるけどね。まあ、魔眼スキル自体あまりいないから。」

「はあ、成る程…。じゃあお供えの週間が減ってきてるから精霊達の弱体化が起こってるってこと?」

「それもあると思うが…、【そもそも人間から効率よく魔力を返してもらえてないから弱っている】なのだ。」

「エネルギー?魔力?返す?どゆこと?」

「つまり精霊達のエネルギーは【精霊が生み出した魔力を一度生物や植物達が取り込み、変化した状態の魔力】ということだ。」

「魔力の循環ってそういうこと!?」

「うむ、通常の自然界なら植物やモンスターが魔力を吸収し、呼吸や技を放つ、あるいは生命を終えた瞬間に変化した魔力を放出する。精霊様はその変化した魔力を摂取し、エネルギーを得る代わりにまっさらな魔力を放出する、という繰り返しだ。」

「けど人間と精霊の間ではその循環を上手く行えていないの。」

「え?」

「人間って魔力を使い果たしてもしばらくするとまた使えるでしょ?あれって体の回復だけじゃなくて、【自分が放出した魔力を精霊が吸収する前にほとんど自分で無意識に吸収してるから】らしいの。しかも、人間の魔力って精霊にとって吸収しにくいみたい。」

「えええ!?」

「儂の魔力で実検したからそれは確かじゃ!魔力が見える状態で精霊様の前で初級魔法を使ったり、自分の魔力を込めた石を置いたりしてみたんだが、儂が放った魔法に精霊様は集まったものの、ほとんどの魔力の残骸が儂の体に戻っていく様だったし、魔石をおいても上手く魔力を吸収出来ていないようじゃった…。人間はもうそういう性質に変化してしまっている。メカニズムはまだ不明だが…。それに加えて精霊様のまっさらな魔力まで吸収してるんじゃ…。しかし!「お供え」は違う!」

「何で?」

「食べ物の材料って結局は自然界の生き物から作られているでしょう?材料そのものに魔力が少し残っているから魔力を持たない人でも魔力をかえせるし、魔力を込めても人間の手に戻らず、その食べ物に留まりやすいの。」ミーナさんが説明する。

「人間から直接はだめだから、食べ物を触媒にする必要があるってことか…。」

「あたし、全然知らずにお供えしてたよ…。ただの感謝を示す唯一の方法だとしか…。」

ライア兄ちゃんとマチルダさんは知らなかった事実にただ驚くばかり。

「しかし、お供えだって、万能ではない。あくまで、【人間が精霊様に魔力を返しやすくする苦肉の策】だ。人間の魔力自体が吸収しにくいのは変わらないから、まだまだ効率が悪い。だから、どういう風にお供えをすれば良いのかずっと研究してたのだ。」

「あたしや先生が薬草畑や茶畑を作っているのも商売のためだけじゃなくて、都会でも出来る精霊様の魔力補給所作りのためでもあったの。実際、農家や植物園とかは精霊が多いっていう報告書があるくらいだし。」

植物からなら魔力循環可能だからね。

「ところが!ある日!君の作品にあったのだよ!」

急にクワッ!と目を見開いたレイル先生。

「君の神作品「あ、恥ずかしいんで折り紙って言ってください。」折り紙?…折り紙には精霊が宿るのだよ!」

「宿るというか、あれ単に玩具にされてるんだと思うんですが…。」

「それが違うかもしれないんだよ!あの時も君の折り紙に宿った精霊様の状態を鑑定したら皆魔力が良好だったのじゃ!」

「あたし、この店でキャンディボックスもらったでしよ?その箱で精霊様にお供えしたら、今までにないくらい効率よく、魔力を吸収出来たらしいの。」

「そんなことが…。」

「そこでカルタ君。改めてお願いしたい。どうか儂の研究に協力してくれないだろうか。もちろん、無理矢理折り紙作品を作れとは言わん。ミーナとともに畑の手伝いをするだけでも給料は払う。君の近くにいる精霊様の様子を見るだけでも良いんじゃ。」


なんか俺の新たな職場、決まりそうです?

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