第5話 精霊様至上主義!その名はレイル!
「作りすぎた…。」
俺の机は今動物園である。ウサギ、ライオン、虎、ワニ、亀…その他とにかく色々。
流石にそろそろ保存場所が無い。ヤバい。前世での悪い癖だ。あの時も最初は孫と遊びで作ってたつもりが、熱中し過ぎて机の上折り紙でいっぱいにして、娘に叱られた。クリアファイルに保存できたけど、この世界にはないからなあ。なんか分厚いノートに栞のように挟む?潰れそうだなあ。しかしこうなってくると、立体的な折紙細工はまだまだ出来そうにない。いつか憧れのドラゴンとかも作りたいのだが。将来、折紙を飾る棚が欲しい。
「ーーに会わせて欲しい!」
「ー注文でー!」
?なんか下が騒がしいな…?まあいいや。店の裏の掃除しなきゃ。
「ここか!イーショ食堂!」
「いらっしゃいませ!あ、ミーナちゃんに…レイル先生?」
「早速で悪いのだが、これを作った者に会わせて欲s」「先に納品と注文でしょうが!!」ゴスッ!!
「ごふっ!と、年寄りを労らんかい…!」
「(無視)マチルダさん、いつもありがとうございます。御注文の茶葉です。後、ここで食べて行くんで、二席お願いいたします。」
「あいよ!ミーナちゃんはともかく、レイル先生が直接来るのは始めてかね。いつもはミーナちゃんが買っていくから。」
「そうなんですよ~。このままじゃ研究室でカビちゃいそうだったんで、一回ご飯とマチルダさんにカツを入れてもらいたくて…。」
「無視しないでくれっ!儂は早く…!」
「いいから一回ご飯食べてください!…、それに「例の作品」は食事中にも見れますよ。すみませーん!ハンバーガーセットとマルトリゾットお願いしまーす!」
「何?」
とりあえず席に座り、周りを見渡してみる。…精霊の集まりがいい。やはりここには何かある!
「む?」
テーブルにおいてある調味料入れを見てみると、塩や砂糖の小瓶が何かに包まれている。塩は緑に近い色の紙の器に入っており、砂糖はピンクっぽい紙の器に入っている。成る程これなら一々、蓋を開けなくても、色で分かる。
「今日の日替わりメニュー、ヒートポークのステーキみたいだね!入ろう!」
「この形はロコシ…、ロコシのスープだ!今日はあるんだ。」
「見るだけで、大体の材料がわかるの有り難い!」
入口付近が賑やかだな…。席を立って、入口付近を見てみると、看板の他に小さな机があった。
机には日替わりランチが置いてあった。ここに来たときに匂いはしなかったのに何故…?
「⁉」
よくよく見てみると、それも紙で出来ていた。
器は本物だったが、肉や付け合せの野菜、スープ、パンやケーキまで丁寧にほぼ実物大に作られていた。看板にも使用されている野菜や動物(模様は少し歪んでいるようだが)が貼り付けられていた。初見の客でも分かりやすい、素晴らしい工夫だ。
席に戻ってみると、料理が既に運ばれていたのでとりあえず食べることにする。ん?スプーンがなにかが…。どうやらこれも紙に包まれているようだ。それもどこかの店で見たような、ただ紙で捻るように包んでいるのではなく、どうやって折ったのか分からないが、袋状になっていて、取り外しやすくなっている。
「ほら、先生。見てみて。このハンバーガー、包み紙の底がちゃんと袋になっているから、汚さずに食べれますよ!先生のスプーンも食後にその紙の中に入れれば汚れが垂れないようになってるんです。このままもしかしたら、ハンバーガーやドーナツなら、持ち帰り用の木箱をわざわざ持って行かなくても、テイクアウト可能になりそうなんです!…先生?聞いてます?」
先程から食事に手を付けず、無反応なレイルに心配になるミーナ。
レイルはそれどころじゃない。
一体何なんだ!次から次へと紙(神)作品が出てくるなんて…!それに精霊達のイキイキした表情!魔力もほとんど回復状態だ。弱体化した精霊が全然いない。誰だ、誰なんだ!こんな素晴らしい作品を考えついたのは!例え精霊の件を抜きにしてもここまで生活の為になっているのが前代未聞だ。
是非とも作った本人に会わなければ!こうしちゃおれん!早く食べなくては!
「先生!?」
がぶっ!ジュッ!
「アッチャァァ!!!」
「当たり前ですよ!リゾットなんだから!」
「カルタさ…、カルタ。新聞紙溜まってきたからそろそろハンバーガーの包袋作って欲しいとのことで…、ゴホンッ。作って欲しいってさ。」
「了解。っていうかまた、口調が戻りかけてるよ。【ライア兄ちゃん】。」
「うんん…。」
俺が店の裏で掃除してると、買出しから戻ってきたライア兄ちゃんと会った。未だに口調が戻りかけている。もう俺は貴族なんかじゃないのに…。むしろ俺のせいで彼は元いた孤児院に帰れなくなったのだ。「いつか自分の店を持って、孤児院の皆を招待したい。」という彼の夢を奪ってしまったようなものなのだ。なのに俺のことをずっと気にかけてくれてる。くっそ、情けない!前世の年齢足したら、俺の方が圧倒的に年上なのに!本来だったら俺が彼を養う立場なのに!早く自分で稼げるようになりたい!やはり後3年は長い。年齢問わず、雇ってくれるとこ無いかなあ…。
「カルタ君とは君かねえぇぇ!!?」
「「!?」」
急に緑のヒゲに丸眼鏡の爺さんが叫びながら出てきた。あ、俺も前世爺か…。
「レイル先生…?」
「え、知ってるの兄ちゃん。」
「あ、うん…。この街で診療所をやってる、レイル先生。ほら、茶葉届けてくれるミーナさんているでしょ。彼女、この方の助手。俺も常備薬買いに診療所行くからそこで知ったんだ。」
「へぇー。」
つうか、さっきから目ギラギラさせながらこっち見てるんですが…。
「イーショ食堂にご来店ありがとうございます、先生。」
さり気なくライア兄ちゃんが俺の前に庇うように立ちながら言う。本当にいい子…!いつかお小遣いあげたいよホントに!
「あ、あぁ、ライア君。こんにちは。マルトリゾットを頂いたよ。どうもありがとう。いや、最近、ミーナが気に入っている箱の作者に会いたくて…。」
箱?あ、キャンディボックスのことか。なんかあったのかな。紙だから耐久性弱かったとか?
「作ったの俺です。」
「カルタ君だね?」
「はい、初めまして、カルタと申します。何か箱に不都合でもありましたか?壊れてしまったのであれば、新しい物を…。」
ガシッ!
「家に来てくれんか!?どうしても確かめたいことがあるのだ!」
「え?へ?」
「ちょ、先生何して!?」
「協力報酬ならいくらでも払う!儂は、儂は精霊達を助けたいのだよ!」
「精霊!?どゆこと?」
「だから…、へぶっ!?」
「え、あ!」
急に爺さんの顔に何か張り付いた。これって…、さっきまで俺が折ってた動物シリーズじゃん!
「また【精霊付き】…!」
「え!鶴以外にも付くの!?」
鶴達以外動いてるの見なかったからなあ。
折り紙アニマルズ達はあの時のように尖った部分でつついたり、ペシペシ叩いたり…。
え、てかどうしよう!折り紙が動き回るの見られちゃった!呪われてるだとか、店に変な噂がたったらどうしよう!?
しかしこの爺さん、気味悪がるどころか…
「ぬおお!やはり!やはりかぁああ!精霊様方!思う存分動き回ってくだされぇぇ!何なら攻撃も構いませぬぞぉぉ!」
「「……。」」
へ…変態か!こいつ!攻撃されてるはずなのに、無茶苦茶喜んどる…!確かに紙だからダメージは少ないけど!あれ、今精霊様って言った?
「あ、そうか。レイル先生、「魔眼」スキル持ちだから、精霊付きなのが分かるんだ…。」
な、成る程。見えるスキル持ちか、この爺さん…。
「どうしよう。止めたほうがいいんだろうか?」
「止めるっても…、確かにあの子達を折ったのは俺だけど、今までも気まぐれに動いたり動かなかったりで…。」
「あああ!こんなに元気な精霊様を見れたのはいつぶ」「あたし達の店の裏で騒ぐんじゃない!!」「リゾット代払えジジイ!」
「ふごおぉぉっ!」
あ、爺さんが空飛んだ…訳ではなく、騒ぎを聞いてきたのかマチルダさんとミーナさんが突っ込んできて、一瞬で爺さんの前に回り込み、二人同時に見事なアッパーを決めてた。
折り紙達も驚いたのか、あっという間に屋根裏部屋に通じる窓へ逃げて行った。
いつの時代も女性って強いなあ…。
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