第4話 イーショ食堂名物 キャンディボックス!

「はぁ~い。300マニーのお釣りです。あ、後おまけのキャンディボックスです。」

「わあ、なにこれスゴイ!」

今、イーショ食堂でちょっとした名物がある。そこで食事をすると、会計時に無料でキャンディの袋が貰える。キャンディはどこの店でも売っているごく普通のものなのだが、キャンディ袋を入れている箱が珍しいのだ。ニ色のコントラストが絶妙な細かい花の模様が作られた六角形の箱。なんと紙で出来ているのだ。あんなペラペラな物が箱になる訳無いと思うかもしれないが、何重にも複雑に折り込んであり、ちゃんと底が平らになっているため、カバンに入れても形が崩れることがあまり無い。紙だったら普通、すぐに捨ててしまうが、この箱に関しては捨てるのは勿体なさすぎる。特に女性や子供に人気で色違いを集めている人もいる。


通常、箱や籠などは木や金属で出来てるのがほとんど。(竹は輸入に頼っている。)中身を如何に厳重に守るかという機能性が重視されており、箱そのものを丈夫な素材で作り、特殊な魔法の絵の具で劣化防止コーティングをしている。なので贈り物ように模様や飾りを付けたい時は箱だけ土産屋で購入するか、別料金を払って頼まないといけない。そんな中、最初から模様が折り込まれた紙の箱なんて滅多に見られないのだ。紙なので湿気などに弱く、持ち運びに向いてないのが欠点だが、部屋においてあるとそれだけで雰囲気が良くなるので、インテリア代わりとして欲しがる人が少しずつ増えている。


「カルタ!大盛況だよ!」 

「本当ですか!マチルダさん!」

マチルダさんは食堂の店長で料理長の奥さんだ。豪快で優しく、料理長とガタイのいいおっちゃん共の口喧嘩を一瞬で黙らせる腕力(スキルが怪力+筋トレ)と迫力がある、肝っ玉母ちゃんである。

俺が休憩時間の度に新聞紙や使用済みの包み紙の工夫した折り方を披露してたところ、キャンディの包装をしてほしいと頼んできたのだ。

そこで、俺はあるお願いをした。「果物や野菜の絞り汁が欲しいです!」と…。

絵の具が無ければ作るしかない!ということで、少し厨房の方々には手間を取らせてしまうが、あまり野菜や果物の絞り汁を取り分けてもらうことになった。正方形に切った紙に汁を万遍無く塗り、よく乾かす。この時、日向で干してしまうと、色が悪くなるので、注意。本当は複雑な模様が描かれた千代紙を作りたいのだが、手描きじゃ限界があるので、一面に塗ることに。一度濡らしてからから乾かすと紙が固くなるので、少し丈夫になる。これで理想には程遠いが、色付き折り紙を手に入れることが出来た。これでますます作品の幅が広がる!


そろそろ、他の動物も折ろうかな。この世界はモンスターがいる世界で、普通の犬や猫などが存在しない。(ありえない模様だったり角や石が生えてたり。)なので人前ではあまり折ろうとしなかったが、「モンスターそっくりに折ろうとしたが、コレが限界だった。」とでもいえばいいだろう。それをベースにこの世界の生き物も作ってやる!探究心舐めるなよ! ひとまず、食堂で使われている肉や魚を折ろう。牛、豚、鶏を普通に折って、模様を見様見真似で付けてっと…。魚は…、青い絵の具がまだないから、子供っぽく鱗と目を直接描いて…。あ、後果物や野菜も折ろう。看板につけてもらえるかもしれないし。どんどん折っていく。うん、今日もはかどる! と、頭に何か違和感を感じた。例の鶴の折り紙達がいつの間にか俺の頭を突いてた。本当にこいつら神出鬼没だよな。精霊付きなんて大層な事言っているが、コレ、俺の折り紙を玩具にして遊んでいるだけなような気がする。気に入ってくれているようなので、悪い気はしないが。

あ、忘れてた、今日のお供えをしなければ。例のキャンディボックスに賄いでもらったナッツ入りクッキーを入れておいてっと。すると待ってました!と言わんばかりに鶴達が箱に飛んでいく。にしてもどうやって食べてんだろ…。見てない間に無くなってるし、折り紙達が食べ物で汚れた形跡もない。

「坊主!早く降りてこい!洗い物溜まってんぞ~!」

「やべっ!今行きまーす!」

この時、カルタは気付いてなかった。先程折っていた動物の折り紙が動き出し、鶴達とクッキー争奪戦を繰り広げていることに…。


「これも駄目か…!!」

「やっぱり無理なんじゃないですか?神の眷属なんだから…。」

「いいや!儂は諦めん!諦めんぞお!」

ここは街外れの診療所。フサフサの薄緑色の髭を振り回し、丸眼鏡を直すこの老人。名はレイル・アリー。スキルは「魔眼」。「千里眼」と「鑑定」を合わせて強化したような物で、そのスキルを生かし、患者の容態を見抜き、それにあった薬草を選別出来る。そしてその魔眼は精霊までも見ることができる。…そう、見る「だけ」である。精霊を見ることは出来ても、意思疎通は出来ないのだ。全てのモンスターの言葉を理解できる「翻訳家」のスキル持ちでも、精霊の言葉は理解できない。レイルは診療所を営みながらも、精霊の意思疎通の研究をずっと続けている。

「精霊様たちと意思疎通が出切れば薬草畑の状態だってよくなるし、何より、誰でも精霊様の存在をもっとよく知ってもらえる!儂の考察が正しければそれで精霊様の弱体化も防げると考えておる。」

「考察って【精霊の弱体化は、人間が得た魔力を精霊に返そうとしないから】って奴?」

そう言いながらお茶を入れる茶髪の女性はミーナ・ハービー。レイルの助手でスキルは「万能茶」。茶葉を使用した時のみ人に癒しをもたらす。待っている患者に振る舞って疲労回復させたり、苦い薬草を茶葉と混ぜて飲みやすくするのが主な仕事。個人的な茶葉畑を持たせてもらっており、飲食店でも注文が入ることがある。今入れてるお茶は興奮したジジイを落ち着かせるために調合した乾燥ライモンティーだ(オレンジのような柑橘)。

「そう。スキルに恵まれなかった者、望んだスキルを手に入れられ無かった者、逆にスキルが手に入ったから精霊はもう必要ないという者、精霊に感謝してないものは沢山おる。なのに、モンスターが原因だとか、スキル無しだけが原因だとか呪術のスキル持ちだけが原因だとか…、特定の者のみが原因だと儂は思えない。精霊様達だって自然の中で生まれた魔力の源ではあるが、魔力を放出し続けて生きていられるわけではない。必ず何らかの方法で魔力を補給している筈だ。」

「それがお供えってこと?」

「うむ。だから毎日、お供えの内容や回数、時間帯を変えてるんだが…。法則がまっったく分からん!」

「とりあえずお茶飲んでください。血圧上がりますよ。」

「はあ…。ってうん?」

何故か一箇所だけ空気が澄んだような感じが…。「魔眼」でその場所を確認する。…ミーナの部屋!?

「ミーナ!悪いが部屋に入るぞ!」

「ハ!?ちょっと…!!」

ミーナの静止も聞かずレイルは走ってミーナの部屋に入る。

「窓辺に精霊が集まっている…!?」 

「勝手に部屋入んないでください!」ゲシッ!

「スマン!蹴らんでおくれ!…ミーナ、あの窓辺にあるのは?」

「あ、あれですか?イーショ食堂が最近、洒落た箱にキャンディ入れてくれるようになったんですよ。可愛いくて捨てるのも勿体ないから、部屋の飾り兼、精霊のお供え用の器にしたんです。」

「箱…?」

よくよく見てみると、乾燥フルーツが見たことのない箱に入っていた。乾燥フルーツなら自分もお供えしたことはあるが、精霊がこんなに喜んでいるのは始めてだ。箱は一見平らだが、複雑な花のような模様が入っている。これは削ったのか?彫ったのだろうか?

「すごいですよねえ。これ、紙で作ったらしいですよ。」

「紙…?!否、これは…!」

「先生?」

「「紙」では無く、…「神」作品じゃあああ!!!」

「だからうるさい!」

「ごめんなさい…。」

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