第3話 日常生活に折り紙を

「お~い!坊主!フィッシュフライバーガーセット2つ至急3番テーブルへ!」 

「はーい!あっ、お待たせしました。こちら季節のパスタセットです。」  

「あら、ありがとう。いつもお兄さんのお手伝い偉いわね。」 

「…、はい!俺兄ちゃん大好きだから!」 

ここはトライズ。冒険者ギルドや職安などがあり、出稼ぎに選ばれやすい街だ。そして俺がいるのは町の中にある食堂「イーショ食堂」。鉱山で働くガタイのいいおっちゃん達や買い物途中の奥様、冒険者メンバーなど様々なお客さんが来て毎日大忙し。俺は小さい体で一生懸命給仕や皿洗いを頑張る。これでも前世は婆ちゃんに一通りの家事叩き込まれたんだぞ。スキル無しがなんぼのもんじゃい!

「カルタ!奥で昼飯食べてこいって、リーダーが」

「ありがとう!【ライア兄ちゃん】!」


「ふふふ。仲が良いわね。」 

「そうね。…あら、ティースプーン、何かに包まれてあるわね?」 

「これ紙で出来てるの?随分複雑な形してるわ。かわいい…。」  

「カウンターの白い花、中々枯れないなって思ってたけど、もしかして紙で出来てる!?」 

「このハンバーガーの包み方、いつもと違う!これなら絶対こぼさずにいけるな!」

「凄いわね…。誰が作ったの?」

丁度給仕に回ってきたライアに客が尋ねる。

「あー、それ…、弟です。」 

「「え?」」


因みに厨房

「この紙のゴミ箱便利だよな~。持ち運べるから、野菜の皮むきの度にゴミ箱に集まんなくていいし。」

「満杯になったらそれごと包んで捨てられるもんな。普通に包んで捨てるより密閉度が高いから臭いにくい!」

「新入りの弟、いらない新聞紙でよく思いついたよな~。」


折り紙は遊びにしか使い道が無いかと思ったか?フハハハハ!それは大間違い!

そもそも折り紙というのは飾りや包装の手段の一つだったのだ。目上の人や神様に捧げる贈り物を如何に美しく包装するかという、礼法にも近かったらしい。プラスチックやビニールがない時代も和紙で充分丈夫な傘や団扇を作れたし、俺も飴玉入れが欲しくてよく箱を作っていた。紙は万能だ。

妻も新聞紙でゴミ箱を作りながら調理したり、娘や息子がシュークリームをこぼさないようにクッキングシートで包み紙を作っていた。


う~んそれにしても、

(色付けがなあ…。)

この世界は俺が働いてたような製紙工場はほとんどなく、【錬金術師】のような生産スキルを持った者達が特定の木や薬品やらを集めてあっという間に作っているらしい。しかも使い道が書物や新聞、トイレットペーパーしかなく、紙を遊び心目的で作る発想がないので、そんなことにインクを使うくらいなら、服や武器などに使うのがよほど有意義なのだ。子供の玩具だって、ほとんどが魔石を動かすと光ったりする(俺が前世でよく娘にねだられたような)魔法ステッキや、箱に収まった魔石を動かすと遠隔魔法で人形が特定の動きをするという、ラジコンに近いものなど、魔石に頼り切った玩具ばかりであった。折り紙どころか、積み木やパズルみたいな昔ながらの玩具が全然ないことに驚いた。ものすごく田舎の方へ行けばあるらしいのだが、そこまでいくと一般的な玩具というより、珍しい置物レベルだ。

(クレヨンとか絵の具まで絵描きのスキル持ちしか買わないからあまり売られてないとか、魔法に頼り切るにも程がある!)

はあ…、とりあえず昼ご飯食べよ…。



「うん、美味い!」

今日の賄いは、余り野菜の即席スープに、少し小さめのハンバーグがいくつか乗った、ライス。今日はちょっと贅沢に目玉焼きも乗っている。要はロコモコ丼もどきだ。しかも俺の好みに合わせて、ライスにはバターとかは入れてない。スープも余計なハーブは入れず、鳥の出汁と野菜の甘味を生かした味付けは塩のみのあっさりスープ。屋敷にいた頃はクソ親父の好みのやたら香辛料が聞いた肉料理や、濃いソースで炒めたチキンライスもどき?とかがしょっちゅう出てきて胸焼け寸前だったからなあ。濃い味付けや脂の香りは決して嫌いではないが、やはり前世が日本人だったためか、まっさらな白米が一番美味しかった。これで豆腐の味噌汁さえあれば完璧なんだが…。

(そういえばこっそり余り野菜煮詰めて絵の具作りに挑戦しようとして、料理長に怒られたなあ。火傷したら大変だぞ!って…。)

「ヘヘっ…。」


あれから約半年くらい経ったのかな…。兄の計画通り王都を出て行った俺達は必死に森を駆け抜けた。ライアさんにかけられた魔法の中にちゃっかり魔物よけの魔法もかけてあったらしく、戦闘力0の俺達はモンスターに襲われる事は無かった。食べ物だって、食べられる植物をライアさんの「鑑定スキル」で安心して食べられた。そして森ので道案内は…例の折り紙の鳥達だ。森に入った後に、それまでずっと背中に隠れていた鶴達が出てきて、俺たちの前をひらひらと飛び、試しに追って行ってみると、果物がある木だったり、野宿にちょうど良さそうな洞窟もどきだったりと旅のサポートをしてくれた。その度にお供えっぽく果物を折り紙の前に置くと、嬉しそうにクルクル舞っていたりした。しかしトライズに着いてからは、動いたり動かなかったりだ。一日中全く動かないと思いきや、夜中に突然部屋の中(食堂の屋根裏をライアさんと使わせてもらってます。)を飛び回ったり…。ライアさんに何回か鑑定してもらったが、精霊が宿る条件がいまだ不明。

(トライズが良いところで本当に良かった…。) 

俺とライアさんは兄弟ということにし、職安には「とある貴族の家で見習いをやってたが、弟がスキル無しと知った途端、追い出された。」と伝えたら、係の顔が怖いおじいさんに無茶苦茶同情され、(どうやらその人もスキル無しだったらしい。…スキンヘッドにサングラスだから気づかなかった。)紹介された食堂の人達は皆良い人で「スキルあろうがなかろうが働かない奴は食うべからず!コキ使うぞ!」と受け入れてくれた。元々料理していたライアさんはすぐに厨房に慣れたし、俺も前世の経験を生かしながら、給仕や掃除を頑張った。正直に言って屋敷にいた時より楽しい。折り紙も少しずつだが食堂に浸透してきている。


…言いたかないけど、元・兄に感謝かな。ろくでなしの両親から離れられたし、ライアさんとの兄弟生活は楽しいし。(ライアさんは相変わらず気を抜くと、様付けで呼びそうになるが。)


「とはいえ、ずっと食堂にいるのも申し訳ないし…。早く働ける年になんないかなあ。」

ライアさんの夢は料理人だが、俺は違うからなあ。

やっぱり働いて金を稼いで、田舎方面まで行きたい。そこで折り紙文化を流行らせたい。そして色紙や千代紙を作ってもらいたい。レトロな玩具に触れたいし、何ならそこに住みたい。

…よし!10歳になったら手頃な職場を早く紹介してもらおう!出切れば住み込みがいいな。そうすれば、ライアさんの部屋が広くなるし。


目指せ!第二の折り紙人生!

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