第2話 その兄、狂人につき注意
いやいやいや、なんで!?なんで俺の作品が飛び回ってんの!?
ちょ、すりすりやめて!可愛いけどむっちゃチクチクする!!
痛い!地味に痛い!(というか黒ずんでたところが戻ってる?)
「ライアさん!どうなってんのコレ!?・・・ハッ!まさかライアさんの新たな力!」
「違いますよ!!も、もしかしたらカルタ様のスキル!?か・・鑑定!!」
カルタ・オーディン 男 7歳
精霊王からのスキル 無し
MP 0/0
(魔力もスキルも無しのまま?じゃあこの現象は・・・ん?)
称号 オーディン家 次男
紙の神作家
????
(カルタ様の称号によくわからない単語が?それに一つ読めないのが・・・・、紙の鳥たちを鑑定!)
紙の鳥達
魔力が宿っていないまっさらな状態で作られた鳥の形をした作品数種類。
状態 風の下級精霊付き
精霊の状態 魔力 良好
機嫌 良好
対象 カルタ・オーディン
(なっ・・・!)
「か、カルタ様っ!」
「ど、どうしたんですか!?」
「えっと、その紙でできた鳥達・・・、【精霊付き】です・・・。」
【精霊付き】とは・・人が作った作品に精霊が宿ること。
精霊が宿った作品は魔力をいつもより多く注入出来たり、特殊な加護がついたり
様々な特典が付く、しかし、精霊付きというのは大変珍しく、どんなに優れたスキル持ちが挑戦し続けても、精霊が宿る作品を作れずに生涯を終えてしまっているのがほとんどなのだ。 その際に「魔力を一切宿さずに作るべきだ」だとか「精霊付きのスキル持ちがいるはずだ」とか様々な説が上がっているが、いまだ謎である。
「【精霊付き】!?待って!俺のスキルどうなってるの!?」
「いえ、相変わらずスキル無しのままです!ただ称号に【紙の神作家】と・・・。
カルタ様が紙で複雑な作品を作り続けてたからでしょうか?」
紙の神作家?・・・・ダサッ!!なにそのネーミング!!神はいらねーよ!駄洒落か!!
「あ~、やっぱりまだ生きてる。よかったあ。」
「!?」
急にこの場に似合わない穏やかでのんびりした声が聞こえてきた。
瞬間に折り紙たちは慌てて俺の後ろに隠れた。
「ろ・ロイ様!」
まるでダイヤモンドを糸状にしたかのような美しい髪に翡翠色の眼の美男子。
ロイ・オーディン。オーディン家で過去一番の実力者であり、
無限の魔力をもとに、様々な魔法の構築の研究をしている。
魔力系スキルを持つものだけが通える魔導士学校でも常にトップだ。
一般からみれば見た目麗しく、正確は優しくて穏やか、優秀なスキル持ちでも、
それを自慢せずに常に謙虚で努力を重ね続けている。正に完全無欠な男であった。
しかしこの兄、何考えているかよくわからない。だれもいないときは常に無表情だし、俺や両親が話しかけてもまるで機械のように”完璧の言葉”しか言わないのだ。
かと思ったら1年ほど前からやたらと嬉しそうに学校のことを話すようになった。
どうやらとある生徒とすごく仲良くなったらしい、その生徒のことを話すときの兄の顔は「本当の笑顔」であった。まあ、それは置いといて・・・。
「まあ、そいつに毒入りの食事を提供するように提案したのは俺だしね。」
お前かよ!くそ兄が!!
「睨まないでよ。そのお人よし料理人見習いなら弟を殺さないと予想して、父が金をチラつかせて意地汚い使用人に任せようとしたところを”弟と仲が良かった一番若い男ならなんの疑いもなしに食べるだろう。金がもったいない。”と提案してあげたんだから。」
「・・・・・・っ。」
納得したけど。納得したけど!
ライアさん利用したのが腹立つ!!というか・・・
「・・・なんでそんな提案したんですか。にいさ・・【ロイ様】。」
「おや。兄さまでもいいよ。【出来損ないのスキル無し】でもお前はカワイイ弟なのだから。」
スキル無しを強調するな!嫌味か!
「カワイイ弟を逃がしてやろうかと思ってね。最後にお祈りでもしてくるよって父上と母上に言ってきたんだよ。今頃、新しい息子と甥を出迎える準備に忙しいんじゃない?」
俺の代わりか・・・。ん、チヨットマテ。
「息子と「甥」?」
「代わりの息子、実兄がいるんだよね。兄弟まとめてオーディン家にするとばれるから、兄の方を”亡くなった母上の姉の子”ということにしてでむかえることにしたんだ。叔母は婚約者が決まる前に誘拐されて亡くなっている【という事】になっているから都合がいいんだよね。」
「あなた方はどこまで・・・・!」
「うーん?その兄弟ろくでなしの父に育てられていてそれでも必死に生きてたんだよ?でその父親もつい最近亡くなって本当に二人ボッチになってかわいそうなところを家族として出迎えてあげようとしている事のどこが悪いことなんだい?」
コテンと首をかしげて見せる長男。言ってることもやってることも決して間違っていないが、どこか底冷えした恐ろしさを感じる。思わずライアさんの服を掴んでしまった。ライアさんも震えた俺の手を包んで落ち着かせようとしている。
「・・・で?なんで俺を逃がそうとしてくれるんですか?俺を生かしてなにか得でも?」
「念のためだよ。」
「念のため?」
「どうせ他の奴らだけに任したら死体の始末がおろそかになるだろうから、後から死体がでるのも面倒だし、スキル持ちの中には「ネクロマンサー」とか「呪い代行」とか厄介なスキル持ちがいるしさあ、ほんの少しでも体の一部残っていたら、君がオーディン家を呪う悪霊とかになるかもしれないし、あるいは殺される前に上手く逃げ出したりとかしてオーディン家に恨み持っている奴と手を組んでオーディン家が大変なことになると面倒くさいんだよね。【俺がオーディン家の当主】になるまでは余計なことはしたくないんだよ。そのことを踏まえるとそこの見習いに任せた方が一番いい時間稼ぎになるだろうなって思って。」
ペラペラとよくしゃべるな
「なにを・・。」
「だからさあ」
ずいっと鉄格子越しに俺の胸倉をつかんで引き寄せる。
「俺がわざわっざ命を助けてあげるっていってるの。お前は俺に借りが出来る。お前は借りを返す代わりに、オーディン家に一切関わらない。文句ないよねえええ。」
歪んだ笑みを浮かべる。ライアは止めることもできず固まっている。
「あ・・・・。」
「ふう。さてと・・・。」
ロイはさっきから何故か持っていた麻袋から二匹の猿のモンスターの死体を取り出す。
「これを二人の死体に見立てるよ。料理人見習いライアは命令通りスキル無しの悪魔を殺したけれど、罪悪感に耐え切れず、自身も残った毒で自害した・・・という感じかな?」
は?
「ちょ、ちょっと待ってよ!俺だけでなくライアさんまで!?」
「俺の計画を聞いたからだよ。ライア?」
「ひ・・・・はいっ!」
「ここで本当に死体になるのと、カルタとともに一時的に姿を変えてココを出ていくのどちらがよい?」
「勝手に話したのはあんただろ!!ライアさんは関係ない!!」
「いいやだめだね、念には念を、ライアには共犯者兼、カルタの監視係になってもらうよ。姿を変えられるのは俺の魔法でもせいぜい24時間。その間に町を必ず出てってもらう。そしてそうだな・・・、最低3日間は束縛魔法と探知魔法をライアにかけておくから、その間に少しでも王都の近くに行ったりカルタから一定の距離以上離れたらすぐにわかるから、今度こそライアは俺の魔法で即死だよ。」
この男!!ライアさんを人質にしやがった!!俺が一番仲が良いのがライアさんだということを知ってて!ここまで計画をたてたのかよ!
「いっておくけど、これが最善の方法だよ。例え、ライアが暗殺に成功したとしても
ろくに仕事できる精神じゃなくなるだろうし、さっき俺が言ったようにカルタが【ネクロマンサー】のスキルによってゾンビになりにでもしたら一生苦しむことになるんだよ?それとも本当に俺が直々に殺して救ってあげようか?大丈夫!ネクロマンサーの餌食にならないように責任もってマグマの中にでも落としてあげるから!」
まるで聖人のような笑顔で俺たちに手をさしのべる。
「大丈夫。俺の魔法は絶対に嘘はつかない。【約束さえ守れば】二人は生きていけるよ。」
さあ、どうする?
この男には絶対にかなわない・・・!
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