提携《アライアンス》


 勇者ルーティンが王城を発ってから二か月後。


 彼は旅の途中で出会ったひとりの仲間と共に四天王を討ち果たし、ついに今まさに、魔王エグゼクティブの本拠地であるこの株式会社魔王軍本社ロッポンギ・ヒルズのCEO室へと足を踏み入れんとしていた。


「流石は、意識の高い精鋭ハイクラス社員が集う株式会社魔王軍本社ロッポンギ・ヒルズだ。ベテランの俺といえどもおそらく、一人でここまで到達するのは困難を極めただろう。業務提携アライアンスを組んでくれたお前には、改めて礼を言わせて貰う」


 己が剣についた血糊を拭いつつ、勇者ルーティンは隣に佇む女へ言った。


「礼には及ばないわよ、報酬キックバックは頂くから。それに、いくら精鋭ハイクラス社員と言っても所詮は従業員サラリーマンよ。起業スタートアップしている私たちの敵じゃないわ」


 そう答えた女の年齢は二十五歳前後といったところで、街ですれ違えば思わず誰もが振り返るほどの美形である。だが、白いローブの下には戦闘ネゴシエーション用の鎖帷子を着込んでおり、彼女もルーティンの同業者である事がわかる。そして、唯一その手に握られた自己啓発本まどうしょだけが、世界観にそぐわぬ強烈な違和感を放っていた。


 彼女は旅の途中、勇者ルーティンが雇用リクルートした仲間バディであり、名をウェビナーという。

 

「お前も今回の案件オポチュニティでは、かなり圧倒的成長力レベルを上げたようだな。どうだ、気が向いたら一緒に法人化クラスチェンジを考えてみないか。ほんの思いつきジャストアイデアだが」


「いや、それはもう少し保留ペンディングね」


 相変わらず凛とした声で、ウェビナーは短く答えた。


 魔法の才能が生まれ持った魔力の総量によって決まるように、魔王の引き起こした大崩壊パラダイムシフトと呼ばれるこの魔法災害の後、冒険者たちが持つ攻撃力STR魔法力MGI防御力DEFといった戦闘力ネゴシエーションパワーは、個々の『意識の高さ』に比例するようになった。

 つまり、冒険者たちの能力値は今や戦闘ネゴシエーション経験値キャリアを磨き、最新のガジェットや自己啓発本といった『意識の高いアイテム』を装備する事によって上昇する。そしてその総合力は一般に『圧倒的成長力レベル』と呼ばれる数値で可視化され、この世界では圧倒的成長力レベルの高さ、つまり『意識の高さ』こそが、絶対的な強さの証となったのである。


 そして、大陸随一と称されし勇者ルーティンの圧倒的成長力レベルはというと――――


ポートフォリオ開示ステータス・オープン


 彼がそう呟くと、青白い幻影が宙に投射された。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 名前:ルーテイン

 ジョブ:勇者コンサルタント


 圧倒的成長力レベル:82


 自尊心HP :7800 

 自己啓発力MP :2850

 承認欲求MGI:2460

 連勤力STR:4580

 炎上耐性DEF:4980

 人脈アピールDEX:3270

 横文字頻度AGI:2170

 TOEIC点数INT:910

 SNSフォロワー数CHA:12200


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 言わずもがな、圧倒的成長力レベル82というのは並外れた数値である。だが、魔王討伐という名の業務提携アライアンスを組むにあたって、仲間バディとの実力に大きな溝があるのは望ましくない。

 ゆえ、現在彼と肩を並べている相棒、ウェビナーの圧倒的成長力レベルも、それに勝るとも劣らぬものである。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 名前:ウェビナー

 ジョブ:賢者インフルエンサー


 圧倒的成長力レベル:80


 自尊心HP :3920 

 自己啓発力MP :5580

 連勤力STR:1200

 承認欲求MGI:6170

 炎上耐性DEF:1760

 人脈アピールDEX:3820

 横文字頻度AGI:2040

 TOEIC点数INT:970

 SNSフォロワー数CHA:380000


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 後衛職バックアップとして一般的な魔導士ハイパーマルチメディアクリエイターや、僧侶クリエイティブアドバイザーの上位職にあたるのが彼女の職業ジョブである賢者インフルエンサーだ。

 特筆すべきはそのSNSフォロワー数の多さであり、彼女は得意の語学力を生かした海外かぶれの知識と、加工リストラクチャーしまくった煌びやかなバエる写真を投稿アップロードする能力スキル承認欲求MGIを大いに底上げバフし、伝説ウィザード級の呪文を易々と放つことが可能なのである。


 だが、そんな世界の大崩壊パラダイムシフトもついに終焉の時を迎えようとしている。

 二人は今、最強ハイエンドの敵へ挑むべく、魔王の待つCEO室の扉へと手を掛けた。


「この仕事タスクが終わったら、行きつけのBARスタバで一杯おごろう」


「ええ。勿論、最新型のMacbookAirおつまみを開きながら、ね」


 旅を終えた後もきっと、彼らの意識向上レベルアップはどこまでも続くであろう。


 運命の扉が、ついに開かれた。

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意識の高いRPG あをにまる @LEE231

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