秋の風物詩

大隅 スミヲ

秋の風物詩

 木々が色づいていた。

 たび重なる台風で高気圧に覆われていた日本列島も、ようやくこの季節らしい涼しさを取り戻していた。


 休日は体力づくりに励もうと考えていた高橋佐智子は、ネットショッピングで購入したばかりの新しいジョギングシューズを履いて外に出た。


 日差しはまだ少し強いが、風は冷たいものになってきている。走るのにはちょうどいいぐらいの気温だ。


 軽いストレッチをしてから、ゆっくりとしたスピードで走り出す。

 目指す場所は、家から少し離れた場所にある公園だった。

 その公園は敷地面積も広く、普段は人々の憩いの場所として使われている。

 園内にはジョギングコースや簡単な運動のできる鉄棒などの器具も揃っており、佐智子はその公園を重宝していた。


 佐智子が異変に気付いたのは、公園へと続く並木通りに差し掛かった頃だった。


 最初は何が起きているのか、わからなかった。

 色づいた木々の葉に目を奪われていたからかもしれない。


 あたりをなんとも言えぬ香りが支配していた。

 呼吸をするたびに、鼻腔にその香りが入り込んでくる。


 言葉では言い表せない、この独特な香りにえづきそうになる。


 何か硬いものを踏んだ。

 嫌な予感がした。

 足元を見ると、を踏んでしまっていた。


「せっかく新しいジョギングシューズをおろしたのに……」


 公園まで続く銀杏並木いちょうなみきは、黄金色に輝いていた。

 そして、地面には銀杏の実があちこちに落ちている。

 我慢しきれなくなった佐智子は、足を止めた。


 やっぱり、この臭いには耐えられない。別のルートに変更しよう。

 そう思い踵を返すと、目の前に小さな男の子が立っていた。


「おねえさん、あげる」

 男の子が差し出したのは、銀杏の実だった。


 佐智子には、無邪気な顔で笑う男の子がのように見えた。

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秋の風物詩 大隅 スミヲ @smee

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