つくりおき
結騎 了
#365日ショートショート 273
話は終わった。彼女は荷物をまとめ、このワンルームを後にした。
休日の昼下がり。俺が別れ話を切り出した途端、彼女はふいに泣き出した。「どうして」「他に好きな人ができたの」「私になにか悪いところがあったの」。そう、という訳ではない。誓って俺は不貞など働いていない。他に想い人ができた訳でもない。しかし、男女の仲というものは、些細な積み重ねで破綻するものだ。
彼女がいなくなった部屋はやけに広かった。ふたりで一緒に世話をした観葉植物も、どこか悲しそうに見える。ラグも、テーブルも、座椅子も。どれも彼女の趣味だった。家は別々だか、週の半分はここで一緒に暮らしていた。ぽっかりと、心に穴が開いたようだった。
気分が上がらない。酒でも飲もう。冷蔵庫を開けると、中には見慣れないタッパーがいくつも置いてあった。
肉じゃが。シチュー。カレー。ピラフ。どれもこれも、彼女が作ったものだった。温めて食べてね、と言うつもりだったのだろうか。ひとつひとつ、丁寧にしまわれている。思わず、心が動く。笑顔を浮かべながら作ったのだろうか。鼻歌でも歌っていたのだろうか。
まったく……。こういう、過度に甲斐甲斐しいところが苦手だったんだよ。
つくりおき 結騎 了 @slinky_dog_s11
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