第8夜 我が親友②

我が親友は、酒に弱い。

あのほろよいでさえ三ツ矢サイダーで割って飲むほど、しかも一缶丸ごとすらもいかぬ。


しかして残った分は、私が飲み干すゆえ問題ない。この子が「もう飲めな〜い」と言って放置したはすべて私の腹の中におさまるぞホトトギスよ。とまれ、お酒があまり飲めないその友こそを大事にしたい今日この頃、これは私が唯一心を許してやまない晩酌相手なのだから。自身は酒に倒れたって一向に構わんのだが、そなたが倒れられては地球滅亡の危機以上に困るのだよ。



その子は、非常に素直だ。

モラルはしかとわきまえる秀才だが、大抵ははっきりとした物言いをする。楽しかったこと、嬉しかったこと、嫌だったこと、苦しかったこと、なにかにつけ溜まりしものをそのつど発散できる人柄だ。

かたや私は、酒を飲んでいくら泥酔したとても、未だ心の内に蓄積されたストレスを吐き出せたことがない。なぜか、そこの部分だけ理性が働いて出口に鍵をかけてしまう。友には余計な心配をされたくないという強がりが発動するゆえか、はたまた目下の娯楽に浸っていたいだけなのか……。


アルコールの力を借りても、成せないことは山ほどある。だがそれでいい、友がそばで酔いに酔った私を見てからかい笑ってくれるのならば。

結局自分にとっては、他人に打ち明けるに値せぬことなのだ。話さなくていいこと、話したくないことを、わざわざ話す必要はない。



毎度付き合わせてすまぬな、友よ。これからも迷惑をかけるぜ。

テーブルの端に赤ワインボトル1本と余りの吟醸パック、手元にグラスと宝尽くし柄のおちょこを添えて。今宵の愉しい数時間、気兼ねなく過ごせそうだ。



いらっしゃい。

酒で味わう快楽は、本当に人肌の温もりにも勝る特効薬なのか?だがどの道、中毒にならぬように。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る