第2夜 熊野三山

 和歌山へ旅行に行ってきた。「地酒♪地酒♪」の精神で。案ずるな、ちゃんと那智なちの滝も拝んできたぞ。信仰心だけはしっかりと携えている。


 ここら辺りのお酒って、全般甘いのだと判断したが良いか?熊野三山と太平洋という飲み比べセットを買うて来たんだが、辛口との表記はあれどフルーツ並みの甘さだったのだよテヘッ。


 いや好きよ。コレ好きよ。甘い清酒こそ好きよ。辛口も好きだが、それはワインに限るのよ私の場合はヨ。

 でも辛口が嫌いというわけではないのヨ、ただちょっと酔いが回りやすいがゆえに、がぶがぶ飲みたくとも気兼ねなくがぶがぶ飲むことができなくて……。



ああそうだ、今宵のつまみは残念ながら特別用意していない。仕方ないから、三日間晩御飯の作り置きでもこしらえることにした。

今日の晩酌に付き合わせるさかなは、それだ。料理を作るという行為そのものが、今夜の友だ。


キッチンの隅っこに熊野三山の瓶を置き、IH隣りに宝尽くし柄のおちょこを添えて。

深夜2時を回る頃、茗荷みょうがと小松菜のおかか和え、茗荷の甘酢漬け、鶏肉ハンバーグに大葉と茗荷のソース乗せ、茗荷の炊き込みご飯に茗荷の味噌汁を作る。

部屋には茗荷の芳ばしき香りが……。


そう、茗荷を食べると物を忘れるという。仏弟子にして物忘れの激しかった周梨槃特しゅりはんどくなる僧の墓土から、茗荷が生えてきたという俗説が由来らしい。

私、何か忘れたいことでもあるのかな……。



出来上がった品を各タッパーに封印し、冷蔵庫に仕舞い込む。酔った勢いで、洗い物も済ませる。油に汚れた台所全体を隅々まで綺麗に吹き上げる。ついでに風呂掃除もする。

なにもかも、正常な判断のできる日中では、大概めんどくさいからと言って後回しにする家事どもである。



いらっしゃい。

酔え、何でもできる。だが、中毒にならぬように。

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