バラ園未解決事件報告書

水谷威矢

バラ園未解決事件報告書

旭川市東旭川警察官殺害事件

概要

 20 ██年█月█日、旭川市東旭川██████の耕作地で旭川方面旭川中央警察署刑事第一課に所属する楠田雄介巡査が死亡しているのが見つかった事件。

 楠田巡査は全身に多数の裂傷を負っていたが、直接の死因は銃で胸を撃たれたことによるものと考えられる。

 楠田巡査の遺体の周囲には楠田巡査の血液が付着した青色に着色されたバラが数本残されていた。

 楠田巡査は死亡時にバラ園未解決事件報告書と題した作成者不明の報告書を所持しており、事件発覚当時、捜索願の提出されていた10名が報告書内に記載のある10名と一致し、残りの6名も捜索願は提出されていなかったものの、捜査により行方不明であることが判明した。

 また、付近の道路には報告書の通り行方不明者の所持する自動車が6台駐車されているのが発見されている。

 楠田巡査が発見された当初、行方不明者がバラ園に向かうと話していたことや、後述する████の妻の████がバラ園への入場券を所持していたことはこの時点ではまだ明らかになっておらず、付近のコンビニエンスストアへの聞き込みもまだ行っていなかったため、この報告書は事件の首謀者もしくは関係者がわざと残したものだと考えられるが、楠田巡査の指紋以外は検出されていない。

 楠田巡査が死亡したとされる時間の直前である19時50分に同署刑事第一課の吉本警部に楠田巡査からバラ園に向かうという旨の電話があった。

 捜査本部は行方不明の16名はなんらかの事件に巻き込まれた可能性があり、楠田巡査殺害と同一犯による犯行と考え捜査を開始した。

 20██年█月█日現在、16名の行方不明者は未だに発見されておらず、楠田巡査を殺害したとされる犯人の発見にも至っていない。

 以下にバラ園未解決事件報告書の内容を一部抜粋する。


バラ園未解決事件報告書

概要

 20 ██年█月█日に男性7名、女性9名、計16名が同時刻に行方不明になった事件。

※行方不明者16人の名簿は別紙参照。

 行方不明者の家族からは、事件当日、行方不明者は全員、バラ園を見に行く。と話していたことが明らかになっている。

 また、行方不明者の1人、████の妻である████は、そのバラ園の入場券を所持していたが、仕事の都合という理由でバラ園には入場していなかった。

 入場券は証拠品として提供して頂いた。

 尚、████は事件当日、██病院で夜勤業務に当たっていたため、事件とは無関係であるという裏付けが取れている。

 入場券に書かれているバラ園の住所は、北海道旭川市東旭川██████となっているが、実際にはその場所は耕作地となっており、近隣住民への聞き込み調査においても、その付近にバラ園は存在せず、またそのような催しが行われたこともないことが明らかになっている。

※航空写真による付近の地図は別紙参照。

 耕作地に隣接する道路には6台の自動車が駐車されており、いずれも行方不明者が所持する自動車であった。

 また、付近のコンビニエンスストアでは事件当日の13時30分頃に████、████、████の3名が目撃されており、店員も「付近にバラ園はあるか」と質問されたと話している。












 おかしい。


 一体何が起きたのか、理解できない。


 俺は、今の今まで署でこのバラ園未解決事件報告書を読んでいたはずだが。


 がんがんと頭痛がする。


 誰かに殴られたか、薬物でも盛られて眠らされでもしていたのか。


 眼前には暗闇と、その中に煌々と照らされているバラ園と洋館が建っている。


 そんなわけはない。


 電柱に貼ってある地名を示すプレートには東旭川の文字。


 ここは何度も通ったことがある。


 旭山動物園に続く道路だ。


 最後に通りかかったのは3ヶ月くらい前だったか。


 その時はここにバラ園と洋館などなかった。


 こんな大きな施設が3ヶ月で出来上がるわけがない。


「…」


 どうやら夢ではないようだ。


 この報告書が本当だとすると、ここに行方不明者を探す手掛かり、もしくは…、考えたくはないが、直接的な証拠もあるかもしれない。


 刑事の直感、とまではいかないが、この状態なら誰でもそう思うだろう。


「もしもし、吉本さん。俺です、楠田です。バラ園を見つけました。あの報告書の。え?報告書ですよ、バラ園未解決事件の。今そこにいます。ここはなんだか奇妙な場所です。絶対に何か隠してますね。あ、人が出てきた。吉本さんもすぐに来てください。コンビニから旭山動物園に向かう途中にありますから。路肩に何台か並んで車が停まってますんで。だから、バラ園未解決事件ですって。もう切りますよ。急いでください」


 洋館から出てきたあの女、何か事情を知っているに違いない。


 バラ園に一歩踏み入れると、意外にも淡いバラの匂いしかしなかった。


 真っ青なバラにこれほど埋め尽くされたバラ園なのだから、もっと香ると思っていたが。


「すみません、こういう者ですが、ちょっとお話を伺っても?」

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