第49話 学園対抗戦 開幕

 


 クロフォード魔術学園とアルバレス騎士学園との合同授業、及び各学園の代表者同士による対抗戦当日。


 合同授業と代表選手対抗戦は王都に在するアルバレス騎士学園で行われる為、約640名の全クロフォード学園生は魔力機関車に約2時間乗車じょうしゃし、王都までの移動を行った。


 その後、クロフォード学園生と教員がアルバレス騎士学園に到着すると、両学園の全校生徒と教員は広大な講堂に整列し、各学園の4年生学年序列1位の生徒と学園長による開会の挨拶が行われた。


 開会の挨拶が終わると、各学園のそれぞれのクラスの担任の指示の下、それぞれ同じ学年とクラス毎に割り振られた教室や競技場へと場所を移した。


 魔術学園と騎士学園の生徒がそれぞれ同じ学年とクラス毎に別れると、

「魔術師対白兵における戦術」、

「集団戦における魔術師と白兵の連携及び共同陣形の定石」、「小規模、中規模、大規模によって変化する戦術及び陣形の定石」、

「地形・環境によって変化する戦術」、

「各規模、地形、環境によって避けなければならない行動」、

「魔術師と白兵、それぞれの強みと弱み」、といった内容を学び、騎士学園と魔術学園の生徒同士による討論や、教師や生徒による実演練習などが行われた。


 一度昼食休憩を挟んだのち、全ての合同授業を終えると、生徒達は教員による指示の下でアルバレス騎士学園内の闘技場への移動を行った。


 観覧席数2000席の広大なドーム型競技場は現在、魔術学園と騎士学園の合計1500人を超える生徒によって多くの面積を埋め尽くされていた。


 絶え間ないざわめきの中、多くの生徒らがドーム中央の平面フィールドに熱い視線を向け、息を呑むような緊張感と熱気に溢れている。


 ───いよいよ、年に一度の学園対抗戦が始まろうとしていた。



 ◆ ◆ ◆



 ドーム型の闘技場にて、半円を描くように席の並ぶ観客席から、中央のフィールドを挟んだ向かい側。


 観客席と反対側の半円の中央部分には選手の入退場用の出入り口があり、その真上に両学園の学園長の座る特別観覧席が構えられている。


 そして、観客席からは壁で見えないものの、選手用出入口と特別観覧席を挟むようにして二つの選手控え室があり、魔術学園と騎士学園それぞれの対抗戦代表選手が集まっている。


 魔術学園側の選手控え室では騎士学園側の教員による対抗戦のルール説明が行われていた。


 第四学年序列1位のセオ・サンタクルス、


 第四学年序列2位のデイビス・ジャーホンク、


 第二学年序列2位のアルフォンス=フリード、


 第二学年序列3位のエリザ・ローレッド、


 そして、二週間前に急遽参加を表明した第二学年序列1位ユフィア・クインズロード。


 以上5名の代表選手は、魔術学園で説明は聞いたものの、本番前に改めてルール説明に耳を傾けていた。


「先鋒戦、次鋒戦、中堅戦、副将戦、大将戦の5試合を行い、より多くの白星を獲得した学園の勝利となります。副将戦までにどちらかが3勝している場合でも、大将戦まで試合は行います」


「どちらかが先に防具に設定されている耐久値を全て失うか、或いは降参リザインした場合に試合は決着となります」


「『防具に設定されている耐久値』についてですが、その説明の前に、まずは試合の行われるフィールドに展開されている結界についてご説明致します」


「試合を行う縦横共に25メートルの平面フィールドには、フィールドを覆うように特殊な結界が張られています。選手が使用する武器や魔装武器マジック・ウェポンなどには固有の術式が書き込まれており、結界内ではその固有の術式の書き込まれた武器などによる物理攻撃や魔術攻撃のダメージは大きく緩和されます」


「そして、選手が使用する防具にもまた固有の術式が書き込まれており、結界内で受けたダメージは防具に設定された耐久値にフィードバックされます」


「防具の耐久値は皆さんの魔力によって変動し、各選手が防具を身に纏った時点でそれぞれの保有する魔力に応じた耐久値が自動的に設定されます」


「また、防具には共通して左胸部に緑色の10cm程の大きさの水晶が付属しており、この水晶は防具の耐久値が減るたびに徐々に黄色に近づき、完全に耐久値を失った際に赤色に変色します」


「つまり、左胸部の水晶が赤色になった時点で試合は決着となります」


「次に、用意されている武器や防具について説明致します」


「騎士学生向けに形や重量の異なる刀剣が5種、斧、槍、盾、ハンマー、重量の異なる3種の鉄製の鎧。そして、魔術学生向けに魔力を高める杖状の魔装武器マジック・ウェポン、同じく魔力を強化するグローブ、強化繊維の戦闘着が用意してあります」


「騎士学生向け、魔術学生向けとそれぞれ用意してありますが、魔術学園の選手が騎士学生向けの装備を使用して頂いても問題ありません。ご自身の戦闘スタイルに適した装備をお選び下さい」


「次に、注意事項です」


「魔術学園の選手に特に注意して頂きたいのは、魔術の使用についてです。こちらが術式を書き込んだ魔装武器マジック・ウェポンやグローブを介さずに魔術攻撃を行った場合、ダメージの緩和が行われず、大怪我を負わせる恐れがあります。術式を書き込んだ魔装武器やグローブを介さずに魔術攻撃を行った場合には、失格となりますのでご注意下さい。また、術式の書き込まれたブーツなども御座いますので、ご活用下さい」


「結界内ではダメージが大きく緩和されるとは説明しましたが、一切のダメージを負わない訳ではなく、多少の痛みや衝撃は受けます。試合続行が困難であると判断すれば、早めの降参リザインを推奨致します」


「他の選手の試合中についてですが、代表選手の方々はこちらの控え室での待機をお願い致します。試合の様子は、光を信号化して送る魔術道具マジックアイテムと、受信した信号を光に変えて映し出す魔術道具によってこの控え室にもリアルタイムで映されますので、そちらでご覧下さい」


「以上が対抗戦のルール説明となります。何かご質問はありますか?」


 説明を終えた騎士学園側の教員が魔術学園の代表選手達に目を配らせると、各々「ありません」というリアクションを見せた。



「───では、魔術学園の代表の皆さんのご健闘をお祈りしております。先鋒の選手は、準備をお願いします」



 ◆ ◆ ◆



「───間もなく、アルバレス騎士学園とクロフォード魔術学園の代表選手による対抗戦が始まります」


 闘技場内に音の振動を増幅させる魔力道具を用いたアナウンスが響き渡ると、観客席からはワァッと歓声が沸き上がった。


 魔術学園の全校生徒約640名、騎士学園の全校生徒約960名。

 それぞれの学園で最も強い代表者5名が、互いの学園のプライドと威信を掛けて戦う大フィールド。


 生徒達の血肉が沸き上がるのも必然だった。


 勿論、毎年大いに盛り上りを見せる行事ではあるが、それにしても今年の対抗戦に対する生徒達の期待感は例年よりも遥かに強かった。


 それもその筈。

 何故ならば、今年の魔術学園の代表選手は"歴史上最強"とまで謳われている程に実力者揃いだからである。


 クロフォード魔術学園が始まって以来僅か3人しか存在しない"S級魔術学生"。


 その僅か3人の内、今年の代表には二人のS級魔術学生が参戦している。


 また、S級の一人、アルフォンス=フリードは先日学園を襲ったドラゴンを見事に撃退した英雄として既に騎士学園でも名を馳せており、その実力に注目が集まっている。


 故に、直近では10年以上もクロフォード魔術学園が黒星を重ねているが、「今年ならば」と、魔術学園の生徒達は期待感を膨れ上がらせている。


 そして、アルバレス騎士学園からしても、相手が強い事は望む所。


 相手が強い程に倒す事には価値があり、自分達の代表はそんな相手に勝利し、必ずアルバレス騎士学園の優れた実力を示してくれると信じている。


 また、盛り上っているのは生徒達だけではない。


 長年対抗戦を見てきたからこそ、試合を見守る各学園の教員達もまた、今年の対抗戦には大きな注目を向けていた。


 そのように、それぞれの思いを抱く両学園の観客達が沸き上がる会場は、近年最高の熱気と興奮に包まれていた。



 そして、熱気冷め止まぬ会場内に、再びアナウンスが流れた。



「間もなく、先鋒戦が始まります」



 一際大きな歓声が上がる中、次なるアナウンスと共に、観客席の反対側に掲示されている巨大な黒いボードに、魔術による文字が映し出された。


「───選手、入場」



『先鋒戦

 KNIGHT 第四学年Aクラス タイソン・エストラーダ

 MAGICIAN 第二学年Aクラス ユフィア・クインズロード』



 ───ついに、クロフォード魔術学園とアルバレス騎士学園の代表選手による対抗戦が、幕を開けた。



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【7/25発売】自分をSSS級だと思い込んでいるC級魔術学生 nkmr @1201843

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