国葬
深川我無
国葬
遠い未来のある夏、狸の国の元トップが死んだ。狩人の銃弾に倒れた。
長きにわたる政権維持を評価されてか、センセーショナルな事件故か、はたまた国のために尽力した功績故か、彼は国をあげて葬られる事となった。
どこか場違いなアンタガタドコサの音色に包まれて、彼の遺骨は運ばれる。天満山から長い行列をつくってお堂に運ばれる。
巨大な遺影は異様な雰囲気を会場に投げかける。巨大な遺影の中で微笑む故狸は、厳かな空気とチグハグで、どこか間が抜けている。
そんな巨大な遺影の正面で、遺族に抱えられた骨壷は現政権のトップに手渡された。現政権のトップはキリギリスの一族の代表だった。
彼は演技じみた熱の入ったやり方で骨壷を受け取ると、すぐにそれを、国防を任とするに見える、別の男に手渡した。やはり演技じみた動きで。
何やら言葉を発したようだがそれは聞こえない。
国の重要な方々が次々とお目見えになった後、現政権のトップが弔事を読みあげる。
その顔はまるでキリギリス。
高らかに歌声を自慢するキリギリス。
注目されることに陶酔するキリギリス。
彼の歌が終わると、元トップの友人が登壇した。
友人は元トップの次に政権を引き継いだ男だった。
彼の在任中に記憶に残る功績はなかった。話す姿もいつもどこか頼りない印象だった。
そんな友人が弔辞を読み始めた。
彼の言葉は不覚にも心を打つものだった。
なるほど。彼は一国のトップとしてどうやら道化を演じていたらしい。狸爺だったわけだ。
友の死を前に、道化は仮面を脱ぎ捨てて、熱く生々しい肉の言葉を吐き出した。
彼は最後に言った。
あなたがいなくなった今、私は志を共にする者がいない。私はこれからどこに行こうか? 私はどこを目指そうか?
彼の言葉ではたと気がついた。
狸の国はどうやら死んでしまったようだ。
もしかすると狸の国は、事件の数年前にすでに死んでしまっていたのかもしれない。
故狸は、死したかつての国を愛した保守派と呼ばれる狸だった。
どうやら彼は、この国とともに殉葬されたようだ。
それを残された友が歌に詠んだように感じられて、なぜだかひどく胸が苦しくなった。
残された友が、これから生きるその国は、新しく生まれた国、彼らの知らない国なのだ。もうそこはかつての狸の国ではないのだ。
かつての国が葬られた。
かつての国を愛した狸と共に。
国葬 深川我無 @mumusha
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