サイコパステスト恋愛シミュレーションゲーム
春海水亭
きたねぇ八百屋お七
◆◆◆
【サイコパス診断テスト】
問1:夫の葬儀中、そこに来た夫の同僚に一目ぼれをした未亡人。
その夜に息子を殺害した。その理由とは?
【一般人の答え】
新たな恋に息子が邪魔になったから
【サイコパスの答え】
息子の葬儀で再びその男性に会えるから
問2:息子を殺害した未亡人、その後夫の同僚とは無関係の人間と結婚した。その理由とは?
【一般人の答え】
その無関係の人間のことが好きになった等
【サイコパスの答え】
新しい夫――いや、夫だったと言い換えるべきだろうか。
新婚生活は始まって早々に破綻した、交際期間も微々たるものであったが、その後の物語は輪をかけて、だ。
「この度はご愁傷様です……」
夫――否、今となっては先々代の夫の同僚と言うべきだろうか。
まるで自分の家族が殺されたかのような苦悶の表情からは、彼の生来の心根の優しさを感じさせられる。
先々代夫の葬式、息子の葬式、そして先代夫の葬式と皆勤してくれるのも彼の優しさの証明なのだろう、まさか葬式に参加するごとに香典以上のポイントが貯まるなんてサービスは葬儀社ではやっていないだろうし。
私は深々と下げた頭をゆっくりと起こし、視線を彼の顔から少し上げて――頭上を見る。
♥♥♥
彼の頭上には三つのハートマークが浮かんでいる。
ハートマークの中にヘリウムが詰まっているというわけではない、あるいはプロペラがハートマークを浮遊させているというわけでもない。
自然法則的な理由は何一つとして存在しないが、彼の頭上には三つのハートマークが浮かんでいる。
しかし、それを彼が気にしたことはないだろうし、彼以外の人間もそれを気にしたことはないだろう。そのハートマークは私にしか見えない。
まるで恋愛シミュレーションゲームのように、私は相手から自分に対する好感度を浮かぶハートマークで視認することが出来る。
それは神様が自分に与えた特殊な能力なのかもしれないし、あるいは共感覚の特別な形なのかもしれない、あるいはただの病気であるのかもしれない。ただ、いかなる理由があったとしても、このハートマークによって示される好感度は真実だ。
ハートマークが三つならば、好きよりの普通といったところだろう。
「その……次々に身内の方を亡くされて、なんと言えばいいのか」
「いえ、お気になさらないでください……その気持ちが一番うれしいんですから」
会う度に彼からの好感度は上昇している――しかし、それは同情によるものが主なのだろう。まだ結婚を申し込むには難しい、しかし葬式会場での逢瀬は愛を育むにはあまりにも儚い。
葬式会場の外で会えるのが一番良いのだろうが、まさか先代夫の死体がある場所でデートの約束をするわけにはいくまい。もちろん私としては構わないが、彼の良心がそれを許さないだろう。
「では……お元気で、困ったことがあったらご相談下さい」
沈鬱な表情で彼は去っていく。
先々代の夫が彼の同僚であり、私の初代息子や先代夫の葬式にもわざわざ来てくれるほどの優しさを有しているとは言え、私と彼には直接のつながりはない。
特に理由もなく彼の会社に行けば、不審者としてつまみ出されることだろう。
故に――この財布が役に立つ。
私は擦り切れた長財布を懐から取り出す。
この財布は私のものではない、彼のものだ。こういう時のために【窃盗】の技術を伸ばしておいた。
この財布があれば会社に財布を届けに行くという名目で彼に会うことが出来る、私の【話術】次第では彼とデートの約束をすることも出来るだろう。
もしもデートが失敗すれば――私は参列客にちらりと目をやる。
私に肉親はいない、彼を除けば参列客は葬式の度に変わっていく。
ランダム生成される参列客の中には――私に対して少し押せば結婚を受け入れてくれる程度の好感度の持ち主もいる。
そんな新たな夫に対して私がくれてやるのは愛情ではなく、身につけた【殺人】の技術だ。私がほしいのは新たな夫ではなく、彼を呼び寄せるための新たな葬式である。チャンスは掴むものではなく、自分で作り出すものなのだから。
♥ ♥♥♥♥♥ ♥♥♥ ♥♥ ♥ 💔
参列客の頭上に浮かぶ数多のハートマークの中に破れたハートマークがあったのを私は見逃さなかった。
破れたハートマークを浮かべた人間を見れば――猛禽類のような鋭い眼光で私を睨んでいる。
警察関係者か、先代夫の関係者か、あるいは先々代の夫の関係者という可能性もある。
愛には試練がつきものだ。当然、私の罪暴き立てんとする恋敵もいる。
「やぁ、奥さん。ご愁傷様ですな……はじめまして、最高署の高橋、一応刑事なんてやらしてもらってます」
「まぁ、刑事さんでしたか……」
「立て続けの不幸で……いやいや偶然というには恐ろしいですなぁ」
「どういう意味でしょう?」
「ま、こんな場所じゃなんですが近いうちにお話をお聞かせ願いたいですな」
「……まぁ、新しい茶葉はあったかしら」
空気が軋むような威圧感。
疑いようもなく、目の前の掲示は私を疑っている。
もちろん、短絡的に目の前の邪魔者を殺してしまうという手もある。
しかし、私の身内でない人間の葬式には彼は来ないし、無駄にリスクだけを背負ってしまう。
だからどれだけ疑わせても決して証拠を掴ませない、私の【隠蔽】技術の出番になるだろう。
しばらくの間、私と刑事は睨み合っていたが、その内に刑事は肩をすくめて去っていった。おそらく、あの男とは再び衝突することになるだろうが――恋というものは障害が多いほどに燃え上がるものである。私は下腹部にぐっと力を込めて、心の中で「頑張るぞ!」と叫んだ。
サイコパステスト恋愛シミュレーションゲーム 春海水亭 @teasugar3g
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