第15話 使者と手紙
「何者だ?」
俺は馬車から降りながら男に訊いた。視線の先には、ローブ姿の男が一人立っていた。
「サガミノクニの者、というわけではなさそうだな」
「その通り。私はイズノクニからの使者だ」
「イズノクニ? イズノクニが俺たちに何の用だ」
イズノクニとは他でもない、今俺たちがいるクニだ。使者だという男は、俺より少し年上に見える。
「王女がいるんだろう?」
男は馬車の中の方を見て言う。
「どうかな」
「あくまでしらを切るか。まぁいい。私は一つ忠告をしに来た」
「知らぬ者に忠告される覚えはないな」
「お前には関係ないからな。だが、否応なくサガミノクニの王女は関係するだろう」
「どういうことだ?」
「わからないか?王女を渡せと言っているのだ」
男の姿が消えたと思った瞬間、男は俺との距離を一足飛びで詰めてきた。速い! そして次の攻撃も目にも止まらぬ速さだった。
しかし俺はその動きを捉えていた。右からの拳をかわし、左フックを右腕で受ける。
「ほう、私の拳を受けるとは」
「生憎と武術の心得があってね」
ゲームで培ったものだがな。
「ならばこれはどうだ!」
男は連続攻撃を仕掛けてくる。蹴り技や投げ技など多彩な攻撃を繰り出してきたが、全て見切ることができた。この程度のレベルならまだ余裕だ。
「なかなかやるようだな。ならこれでどうだ!」
男は両腕を広げて構えた。すると手の周りに風が集まり始める。風の魔法か。
「喰らえ!」
風の刃が飛んでくる。俺はそれを難無くかわした。
「馬鹿な!?」
今度はこちらの攻撃だ。【虚空刀ミナギ】を抜いて男を見据える。闇夜にミナギの刀身が薄っすらと輝く。
「その刀、かなりの業物と見える」
レイシーと同じ反応だな。まぁ、いい。これで勝負はつく。だが、次に男はなんと両手を上げた。何をするのだ? 俺は戸惑った。そんな予備動作の魔法や呪術を知らなかったからだ。だが、それは杞憂に終わった。
「降参だ。降参。ちょっと興味本位でサガミノクニの騎士と戦ってみたかっただけだ。王女を渡せ、というのは嘘だ」
「俺は騎士ではないがな」
「そうなのか? なら用心棒か?」
「まぁ、そんなとこだ」
「ほう。まぁいい」
そう言って男は懐から手紙を取り出した。
「これを王女に渡してくれないか? 我らが王からの手紙だ」
俺はそれを受け取り中身を見た。暗くてとても見にくかったが、そこには確かにイズノクニの王からサガミノクニの王女、つまりジルに宛てた手紙が入っていた。
「わかった。この手紙は預かる。で、忠告ってなんだ?」
俺は男に訊いた。
「その手紙を読めば分かる。頼んだぞ」
男はそういうと姿を消した。ふむ。如何せん暗くて文字がよく読めないんだよな。仕方がない。光魔法【光球】を使って周囲を明るくしよう。
俺は【光球】を使った。眩い光が辺りを照らし出す。そして、俺はその内容に衝撃を受けた。
『サガミノクニの王女ジル・ジント・サガミノよ。久しいな。最後に話したのは確か五年前、サガミノクニで開催された式典でのこと。美しい姫に成長しておられることと思う。前置きはこのくらいにして本題だ。一つ、とても大事な話がある。貴殿の父、サガミノクニヌシはカイノクニと結託し、スルガノ地にて貴方様を討つつもりだ。これが政治的にどういう意味を持つのか、賢しい貴方なら分かるだろう。どうか無事でいてくれ』
「何だと!!」
俺は思わず声を上げてしまった。しまった! と思って馬車の方を見ると、幸い二人は起きていなかった。よかった。しかし、どうするか……。これを二人に話すべきか。
先ずあの正義感の強いレイシーのことだ。きっと、どうにかしようとするはず。
カイノクニとスルガノクニが強い敵対関係にあることはゲームでも有名な話だった。それを踏まえてこの手紙の内容を判断すると、得られる答えは一つだ。
「戦争を始める気だな」
俺は震えた。この世界はリアル。ならば、戦争が起きればどうなる? 大量の人が死ぬのだ。それは絶対に嫌だった。
それにもう一つ懸念がある。このことをジルに教えることはとても残酷なことだからだ。他でもない、実の父が戦争の口実のために娘を殺そうとしてくるのだ。きっと、他にも殺したい理由はあるのだろう。例えば世襲とか。
何れにせよ、俺はこの手紙をインベントリにしまった。そして、今後の身の振り方を考える。
「スルガノクニには行くなってか」
男の忠告はつまりはそういうことだ。だが、そうなると俺はいつまで経っても西へ行けない。トウカイドウを通るのをやめて、迂回するにしても、どのくらい時間がかかるかわからない。場合によっては、今年の世界大会オリエンスに参加できないことになる可能性だってある。
色々な思いや策略が頭の中で交錯する。
本当のことを知って悲しむジル王女は見たくない。
このままトウカイドウを西に進みたい。
戦争は未然に防ぎたい。
なによりジル王女を守りたい。
俺は日が昇るまで考え続けた。そして、ある結論に至る。やはり二人には正直に話そう。
アシノコダンジョンでのことが想起される。
レイシーは言った。三人は仲間だと。
一人で抱え込むのは俺の悪い癖だ。ゲーム『天我原』でだって、ずっとソロプレイしていた。もしかしたら、俺に足りないものは、仲間だったのかな。そんなことも考え始めている。
二人に話して、話し合って、それで決めよう。俺はイズノクニの使者からもらった手紙を手に、気持ちよさそうに寝ているジルとレイシーを起こすのだった。
『世界7位のゲーム転生』〜愛する世界で少年は、ゲーム知識で最強になる〜 空花凪紗 @Arkasha
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