第5話 猫と双子の『人生やり直し屋』
「――やれ」
「「はーい」」
そう言うとログとレコは卓に一気に間合いを詰める。そして、レコは勢い任せて卓にドロップキックをかました。卓の腹にヒールがメリメリと刺さり、痛みと勢いに負けて盛大に吹っ飛んだ。
「ぐぼげえ?!」
そして間髪入れずにログが卓の腕をとり、そのまま十字固めで行動を奪った。琴美は何が起きたかわからなかったが、力が抜けてその場にへたり込む。彼氏は倒れないようにそっと支えてあげる。
「彼氏さん。ここは僕が抑えとくんで、警察に電話しといてください」
「わ、わかった!」
「これも危ないよっと」
起き上がったレコは卓の手元に転がった包丁を明後日の方向に蹴飛ばす。
「いでで!! なんなんだお前らは!!?」
「俺さんたちは『人生やり直す屋』」
押さえつけられた卓を見下ろしながら呟くドム。猫がしゃべったという現実に卓の目が丸くなっていく。
「猫が、しゃべって……」
「ご注文通り、人生をやり直させてやったぞ。これで琴美がこの場で死ぬという未来が消え、お前の刑期も短くなる」
ドムたちは作ったかのような笑顔を浮かべて呟く。
「「ミッションコンプリート」」
***
それからすぐに警察がやって来て、馬場 卓を連行していった。卓は数か月前に琴美にスマホを拾ってもらってから一方的な恋心を抱き、ストーカー行為を繰り返していた。彼氏がいるという事を知ってからは逆上をし、嫌がらせをし、別れるように何度も手紙を送りつけたりもしていた。
それでも別れない彼女に堪忍袋の緒が切れ、今日犯行に及ぶことを決意したとのことだ。
ドムたちは琴美と彼氏、そして琴美の家族の一同からは何度も頭を下げられ、感謝を述べられた。ドムたちは礼として数日間食事をご馳走してほしいと頼むと、琴美たちは心から歓迎してくれた。ストーカー被害があったというのに呑気なものだ。
それから数日後、ドムのアジトに戻り、時のレコーダーに入れたままのレコードを取り出してみると内容はリセットされていた。空のレコードを再生して、過去に行くように未来の情報を口頭で伝える。
ただ未来に行くときは過去に行くときと違い、時代転移をした後、レコードの情報が自動でリセットされる。理由は正直わからないが、未来の情報を得る事自体が不可能に近いので、これぐらいのメリットがあっても許されるだろう。
「「時よ時よ、お眠りなされ。不変な時を刻みに、その業を贖い給え――」」
言葉を終えると時のレコーダーの周囲から光があふれ、部屋全体を覆っていく。
(はあ、これでやっと元の身体に戻れる……
)
その安堵と共にドムたちは未来へと帰って行った。
***
――それから更に数日後。
「なぜ戻らん?!!」
ドムの姿は未だ猫のまま。ログたちはもう慣れているのか、ドムにささ身を渡す。
「どうやら歴史の改変の影響が思った以上にオーナーの肉体に蔓延ってるみたいだね」
「わーかわいそ」
”コロロン”
「あ、きっと予約したお客さんだ。オーナー行きますよ」
「クソが……」
新装開店した『人生やり直し屋』に今日もまた客が来る。
それは人生に悔いが残った者、そして何も残せなかった者。
その選択が果たして吉となるか、凶となるか。それは神のみぞ知る。
「「いらっしゃいませー」」
「”おたくの人生”――やり直しませんか?」
人生やり直し屋と、時渡りの双子 @connect_creater
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