第6話 青春バカ〜ず<1>

ー去年の四月ー


「皆さん、新入生を温かく見守ってくださいね」

「はーい」


エスカレーター式に進学できる石深高校ここでは季節の流れを忘れがちである。

全員顔見知りなのだから、新入生への期待などはなからしていない。

騒がしい後輩が入ってくるだけ、鬱陶しい。

ことに、二年生からしたら、先輩の目があるから派手なことはできないのに、責任だけが増えるので厄介でしかない。


「やっぱ知った顔ばっかだわ」

窓に顔をはめて観察する。

去年はすっぽり入ったのに。

太った?

気のせい、気のせい。

ちょっとむくんだだけ。

「ちょっと八重!何やってんの?!抜けなくなるよ?!」

小学校からの親友、真尋が叫ぶ。

窓に頭をすっぽり入れながら。

「何だと真尋?自分は痩せてるから平気だって?」

「そんなこと言ってないわよ、、、まあ思ってるけど」

「何だと〜!」

無理やり腕を出して真尋のホッペをつまむ。

「だって私は八重みたいにポテチばっかり食べてないもん」

「ポテチと頭は関係ないし〜、私は頭がでかい分脳みそたっぷり入ってるから真尋より賢いです〜!」

「脳の大きさと賢さは比例しないよ、大事なのは脳のシワの数」

余裕で腕を出してNO、NOと指を振る。

「ふざけんじゃないわよ〜!」

ホッペをもっと強くつまんだら、

「痛ーい!!」

「きゃー」

二つの悲鳴が同時に聞こえた。

『痛ーい!!』は真尋だが、もう一つは、、、

「満点合格だって、、、」

「こないだテレビに出てた、、、」

「あの試合まじ凄かった、、、」

「大ファンなんだけど、、、」

「誰あの子たち、みんな知ってる?ちょーイケメンなんですけどぉ!!」

教室が黄色い悲鳴でいっぱいになる。

男子だって騒いでいる。

挟まっている私たちなんか構いもせずに、みんな窓の方へ押し寄せる。

「「え?」」

「お前ら情報遅いな」

互いにホッペをつかみあった膠着状態のまま同時に振り返る。

「「ぬっ、京」」

京は小学校時代からの親友だ。

高等部になった今でも3人でよく遊ぶ。

「俺の顔なんていつでも見れる。今はあいつらを見とくべきじゃないか?」

京はそう言って窓の外を指差した。

「わあ、イケメン」

「モテそうだよな」

「四天王って感じじゃない?」

「あなたたち!授業始めるから席につきなさい!」

いつの間にか先生がいた。

あっ、ヤバい。

「「先生ー、抜けません」」

クラス中に笑いが起こった。


八重は彼らを四天王と名付けた。

そしていつしか広まり、、、


「おいおい本気なの?」

「ちょっと智子うるさい!!裁縫には集中力が必要なの!!」

「はいはい、明日それつけて学校来なよw」

「っっっこれは試験勉強の時につけるの!!」

「そりゃはかどりそうね、『四天王LOVE』ハチマキですもん」

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恋の羅針盤 家猫のノラ @ienekononora0116

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