騒音に負けないで!

 部活帰りなのか、中学生たちが電車内で騒いでいた。

 もちろん、最初からバカ騒ぎをしていたわけではなく、小さな会話から徐々に話が盛り上がっていった結果、誰も気づかずうるさくなってしまったのだろう――。


 監督する大人がいなければ、子供なんてこんなものだ。赤ん坊は泣くのが仕事だ、と言われるように、子供も元気なのが仕事である。

 ――だが、周りに迷惑がかかっていることを気づかせるためにも、教える大人は必要だ。優しく、諭すように――。


 それが理想だが、ストレスを溜め込む現代の社会人は、限度を越えると、ぷつんと張った糸が切れたように、力づくで注意をしてしまう。


 やがて、中学生たちの会話が途切れ、聞こえてきたのは男性の怒鳴り声だった。



「おいガキ共、ここは電車内だ! うるせえッ、もっと静かにできねえのかッッ!!」



 しん、と静まり返る車内……、子供たちだけでなく、大人たちも黙ってしまった。


 嫌な数秒が流れた後、静寂を破る電子音が――。


「あ、マナーモードにしてなかった……」


 中学生の一人がスマホを取り出し、音を切った。


「チッ、電車内はマナーモードだ、そういう常識もねえのか、今の子供はよお!」


 スーツ姿の男性が肩をすくめている。ワックスで整えた黒い髪に、白髪が少し混じっているので、若者、ではない。社会に揉まれ、生き延びた成功者だろうか……?


 車内で叫んでいる時点で余裕がない証拠だし、勝ち組ではなさそうだが……。


「部活帰りなんだろうが、遅い時間にガキがちょろちょろしてんじゃねえよ。

 部活をするよりも家で勉強してろ、だから社会に出てくるガキはバカばっかりなんだ――」


「あのー」


 と、恐る恐る、と言った様子で前に出てきた中学生が。


「あん、なんだよッ!?」


 叫ぶ男性に向かって、その中学生が口に人差し指を立て、



「しー」



 短く簡潔な意思表示に、後ろの中学生がくす、と笑い、

 周りの大人たちも意味を理解して手で口元を覆い、だけど笑っていた。


 注意をしていた大人が、子供たちよりもうるさくなってしまっていた――、

 それに気付けず、まだ自分が正義側に立っていると思い込んでいる大人へ、子供が気を遣い、スマートなやり方で指摘したのだ。


 叫ぶ、とは正反対のやり方で。


「………………、元はと言えば、お前らがうるさいから……」


「そうですね。まさに、『ミイラ取りがミイラになる』でしたね」



 後手だからと言って、自身の騒音が警告対象にならないわけではない。


 

 ―― おわり ――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

クレームTAISAKU 渡貫とゐち @josho

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ