第28話 終焉そして次の世界へ

 私、功刀猛は霧子からマテリアルをもらった後、クリスタルを使ってローダーを製作してエリカさん達を救援に向かった。


 ローダーは私がセカンダリー・カダスで愛用していた兵器だ。


 追加マップでのみ製作できるが、そこで作ったものを初期マップに転送して持ち込む事が出来た。

 ゲームシステム的には怪物として扱われるが見ての通り、内部に乗り込む形のロボットとして使える。


 ついでによく使うオプションパーツを製作してセットしておく。

 エリカさんの所へ到着すると、そこではシズカさんに対してラスボスがビームを発射する直前だった。


 私は自動照準システムを起動させ、ローダー自身にビームを当てさせた。

 人間の反射神経で高速飛翔するビームを迎撃するなど無理だからだ。


 ちなみに自動照準システムは本来プレイヤーVSプレイヤーの場合は使用禁止になっているが、この世界では使えるようだ。


 私は、ラスボスとの戦いにエリカさん達が巻き込まれないように闘技場に体当たりで押し込んだ。


「課金アイテムとは卑怯じゃなああいですかね」


「所詮セカンダリー・カダスのアイテムも高次世界のエネルギーを具現化させるための触媒にしか過ぎない。課金も無課金も関係ないよ」


 ラスボスが背部から小型のミサイルを放出する。

 それを私は迎撃レーザーでなぎはらいながら、私は左腕でラスボスをぶん殴った。


「それにDLCマップはステージ全体を買い切りでアイテム課金じゃない」


 私はローダーの右手に持たせていたフレイムランチャーをラスボスに向けてぶっ放す。

 ライフルに見えたそれは巨大な火炎放射器でランチャーの後部からチューブが本体へとつながっており、そこから高エネルギーのマテリアルを補給して励起状態にして放出する。


 火炎というよりはほぼ、熱線の様な形で飛んでゆく。

 ラスボスに着弾すると巨大な炎の柱に包まれる。ローダーの武装の中では炎の追加ダメージもあって、単位時間当たりのダメージ量が一番多い。


 火柱は一気に燃え上がった後、唐突に消え失せた。マテリアルを使用しているので普通の炎とは違うのかもしれない。


 焼け焦げてボロボロになったラスボスは尚も立ち上がろうとしていた。


 私はローダーの左腕に装備されたランチャーから大型ミサイルを三発打ち出す。レーザー誘導の上に至近距離のため外れること無くラスボスへと突き刺さった。


 巨大な黒煙を上げて爆発する。ラスボスの腕や足が吹き飛ばされてボロボロと降ってくる。


「やったか?」


「タケル、まだよ。胸の部分に西岡が乗っていない」


 エリカさんが降ってきた破片を確認してくれたようだ。

 血みどろの左足が痛々しい。再生途中で無理して走ってきてくれたのか。


「クッ、どこだ」


 私はセンサーを起動させる。いたっ。すでに闘技場をかなりの速さで逃げている。

 素早さにステータスを振っていたのか。


「三十六計逃げるに如かず。生きてさえいればもう一度くらいチャンスはありまああす」


 だがそこにドスっと体を寄りかからせる影があった。


「待てよ」


 シズカさんだった。よく見ると寄りかかったのでは無く、体ごと体重をかけて剣で西岡の腹を刺し貫いていたのだった。

 ああ、前に私が護身用に渡した剣か。


「カハッ、まさか組合でも優秀なワーカーの私がここで死ぬとは」


「くたばれっ」


 シズカさんがさらに剣を西岡の腹に押し込む。



「それもまた可笑し、はーーーーっはっはっぁ」


「負け惜しみを」


「私の本体は元の世界にあるのですよ。私が滅んでも第二、第三のわたしが・・・」


「さっさと死ねぇええええええっ」


 シズカさんがブチ切れて、西岡の首を切り落とした。


 ドシャッ


 血管や脂肪の房がブチブチとちぎれて床に落ちる。


「・・・・・・」


 そしてシズカさんはその場で吐いた。


「うぇえええええええ」


 そうか、シズカさん、宇宙で機体越しに戦っていたから直接的に自分の殺した死体を見るのは初めてか・・・。



「タケル、あの死体は何なの?」


 シズカさんが落ち着いたところでエリカさんが話しかけてきた。下半身を失った私の死体を指さしている。


 私もローダーから降りながら答える。


「私はゲームのようにリスポーン。つまりコンティニューができるということです」


 私は自分の死体に近づき手をかざすと分解され肉としてバッグへと格納される。更にアイテムも回収できた。


「はぁ?なにそれ、ずるいんだけど」


「黙っていて申し訳ありません。囮を買って出ていたのはこの能力があったからなんです」


「しかしタケル殿、それでも死の痛みがあるのだろう?ならその勇気が毀損されることはない」


 口を拭いながらシズカさんが近づいてきた。多少気分が持ち直したらしい。


「でもなぜ、タケルだけが?」


「それは私のせい。死ぬたびに何度も再構築している」


「うわっ誰?」


「いつの間に?」


「ああ、紹介します。彼女は幼なじみの羽村霧子。このセカンダリー・カダスの管理者(アドミニストレーター)です」


 私は【地球くらし協同組合】に彼女が勤めていたことやこのセカンダリー・カダスが作られた訳などを説明した。


「タケルちゃんがお二人に話せなかったのは私がタケルちゃんの意識に介入したからです」


「それ、なにげにやばいことやってないか?探しに来た幼なじみだろ?」


「?そうですか?リスポーンできることが知られたらいろいろ危ない仕事で使い潰されると思って・・・」


 霧子は不思議そうに首をかしげる。


「ま、まあその件はいいじゃないですか。それよりブラック・コアの回収を防いだってことはシズカさんのいる未来を変えたってことですかね?」


「それは・・・元の世界に戻ってみないことにはわからないわね」


「だったら私達には確認のしようがない。西岡の話だと我々はこの世界から出られないらしいからな」


「そうとは限りません」


 そこに霧子が口をはさむ。


「私自身は高次の存在との契約でこれ以上エネルギーを集められませんが、組合では私のような存在を何人か送り出す計画をしていました。基本的なシステムの設計は私がしたものが使われるはずですのでセカンダリー・カダスのフォーマットの世界がいくつかこの周辺にできているのかも知れません」


「つまりどういう事?」


「今、ここにある世界を船としていくつかの世界を回ってブラック・コアを回収すれば現実世界へ現出できる可能性があります」


「私はこの世界にとどまってもいいのですが、エリカさんとシズカさんは元の世界に戻してあげたいですね」


 私は霧子の方を見ながらそう言った。


「つまり?」



「次はDLCマップの攻略ですっ!!」








「なるほど、そういうことシュバか」


 崩れ落ちた闘技場、その外縁からタケル達を覗き込む影があった。

 西岡が乗騎にしていたフィアーバードだ。


 悪そうな顔をして人間の言葉を話している。


「タケルくんも詰めが甘い。西岡優馬の本体がこのフィアーバードだとは気がついていないシュバね」


「どうもPVE(プレイヤーVSエネミー)の知識はあってもPVP(プレイヤーVSプレイヤー)の経験が薄いみたいシュバ」


「ダミー人形の遠隔操作や人間に見せるスキン。怪物化スキンなんかの知識があれば・・・、いや知識があっても具体的な使い方を分かってなかったかも知れないシュバね」


「お陰でこちらも生き残ることが出来たシュバ。他の世界へ連結するということはまだまだ私がブラック・コアを回収するチャンスが有るシュバ」




「シュバーーーーーーハッハッハッハッ」



 フィアーバードの笑い声が闇に消えていった。

 


 了

 



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セカンダリー・カダス・アドミニストレーター 田中よしたろう @Tanaka_Yosikage

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