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男__しがない脚本家が女に出会ったのは、本当に偶然であった。


母の見舞いに花を買って地元に戻って、いつかに寄ったことのある定食屋で骨の多い鮭を食べて、ふらりと劇場に寄った。

「シュシュ」と書かれた看板には落ちないであろう年季の入った汚れがこびりついていてそこら中が雨漏りしていそうな、そんなボロっちい小さな劇場であった。確か季節は残暑といったところで、変わりやすい天気にそろそろ飽き飽きしてきたころである。

受付にいる年増の濃い化粧の女に話しかけ、チケットを買う。


「...一枚。」

「あら、お客サン?ウチに来るなんて見る目があるのねェ。」


楽しんでいきなよ、そう笑ってくるりと上がったまつ毛を揺らした女と、変わらず今にも外れそうな大きい扉を横目に中へ入る。

__まあ予想通り、劇場内も特に変哲のない光景であった。当然幕は閉じていて薄暗く、観客もちらほらという程度。男は特に理由もなく(目立つ場所にいたくはない、という理由はあったかもしれないが)、大きく三つに分かれた座席の隅の方に腰掛けた。もう公演開始の直前だったようで、座ってすぐに開幕を知らせる鈍いブザーが鳴る。


そこからの男の記憶は、ほとんど残っていない。



何故か?そんなものの理由は分かりきっている。


袖から出てきて、お辞儀をひとつ。

ベタな恋愛物語の中でヒロインを演じる彼女は、この世の言葉では言い表せないほど美しかった。違和感を感じるほど、彼女は「ヒロイン」そのものであったのだ。舞台の上は、いつの間にか青空の広がる屋上へと変化していた。


無意識のうちに、男は席を移動していた。

自分自身のその瞳に、彼女を余すことなく焼き付けたかったから。



「アタシ、あなたに好きって言われたいわ。」



彼女は男が今まで見た中で、いや前世や来世を含めても、きっと最高の役者であった。

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スポットライトは揺らぐ ばってん @batten_xx

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