第十話 cast doll -キャストドール-

 揺れるトラックの中、結城拓真はライヤー街の地図を全員に見せ先に現地に赴いた部隊と交信しながら状況を確認していた。


〈さっきも言った通り、力押しでこじ開けたい所だがドールが厄介だ……それに奴らどこからか兵器を仕入れているな……〉


「それを言ったら連中の戦力もアーマー類……そして見つからない本拠点も謎のままです、今更ですよ」


〈わーってるよ、とにかく応援頼む技試隊!〉


「了解、到着までウルフ部隊は何とか堪えてください」


 通信を切り、結城拓真は皆の方を向くと全員に状況を説明し始める。


「どうやらライヤー街の一角であるならず者共のアジトを再利用しているようです、規模は小さいようですがテロ集団紛いの連中が使っていたせいか兵器類や設備もしっかりしているのか……ウルフ部隊でも突破は容易では無い様で」


 丘の近くにある窪地に出来た流れ者がたどり着く場所にあるライヤー街の歴史は古く、フォルン公国建国よりも前にあり、多くのならず者たちが政権を交代しながらその場所を守って来た歴史がある。

 その為防衛設備が用意されており、安部雅人が支配していた時代を除きこの場所を制圧しようと政府が動き出すことも無く、唯長きにわたり不正の温床となっていた。

 そんな街の地図は一言で言えば複雑怪奇であり、窪地の上にある防衛設備は何処から仕入れたのか砲弾を使う対空砲代だけでなく、ミラーボールの様なレーザー対空砲まで用意されている。

 窪地の内部は衛星写真で見る限り崩れかけた建物が立ち並んでいるが、建物の数と人や兵器の数が見合わない事から地下があると予想でき、結城拓真は三か所に印をつけた。


「現在この場所でヘリや戦車が確認できてる、恐らくはこの近くに兵器庫があると思うんだが……まずは対空砲の無力化及びドールの撃破を行いながらウルフ部隊をこの場所まで誘導する」


「戦いながらっすか? そりゃ厳しいんじゃ……」


「内藤、ウルフ部隊は足が速い……連中の中枢を手早くぐちゃぐちゃにかき乱すにはこの方法がいい……対空砲さえどうにかできれば爆撃機も近づけるからな」


「まぁウルフ部隊の人達強いんで、足手まといにはならないと思うし俺は賛成ですけど……新人二人は?」


「……良いんじゃないですかね? としか」


「まぁ、だよな」


 突如話を振られた一輝はうろたえながら答えるも、その横にいたアルバは何処か首を傾げており、それに気づいた結城拓真は声を掛けた。


「何か考え事でも?」


「え? いや……何と言うか、僕達とウルフ部隊で一緒に行動するよりは僕達が二手に分かれてドールを引き寄せる部隊とウルフ部隊を先導する部隊に分かれる方がやりやすいのかなと思ったり……」


 地図上の印は三つほどあり、どれもが位置的に離れており全部を回るのは効率的ではなく、指摘を受けた結城拓真は少し考えると地図上の印に線を引いた。


「良い意見だが、そうなると二つの場所を回るので精いっぱいだな……引き付けながらとなると尚更」


「じゃあ二チームが見つけられなかったら最後のポイントで落ち合うのはどうですか?」


「そりゃいいな! リスクヘッジできてる!」


 アルバの提案に内藤は声を上げると、結城拓真は少し頭を抱えため息を吐く。


「あのねぇ……そう簡単に作戦を変えれるわけが……それに今ウルフ部隊は撤退の最中だが撤退しきれるかどうか分からない」


 呆れた声で喋る結城拓真だが、その時全員の回線から声が聞こえる。


〈こちらウルフ部隊! 聞こえるか技試隊!〉


「こちら技試隊、なにかありましたか?」


〈今撤退して無事合流できそうだ、そっちはどうだ?〉


「……もうすぐ到着予定です、所で作戦の変更を提案したいんですが構いませんかね?」


〈あ? ああ、別に問題ねぇけど〉


 了承を得た結城拓真はウルフ部隊隊長に先ほどの話を伝えるとすぐに返答が返ってくる。


〈二手にか、了解した……じゃあ合流したらすぐに分けれるようこっちで既に分けておく〉


「話が早くて助かります、では」


 丁寧に返し通信を切り、数分間揺られると無事ライヤー街の外れへとたどり着きトラックの荷台が開くと、一輝達は外に出る。

 するとウルフ部隊と思わしきアーマーを着た集団が立っており、一輝達を見るなり近づいてきた。


「技試隊か?」


「そうです」


 トルーパーとは違い細身のウルフ部隊のアーマーは黒く口元に付いているガスマスクの突起や、頭部に付いている二つのセンサーが狼の耳の様に見え、突起の多いデザインも何処か鬣(たてがみ)を思わせるデザインになっている。


「応援ありがとう、ウルフ部隊隊長ウィリー・イェランカだ……組み分けを聞いていいか?」


「ええ、自分と新人二人……後はそこの二人で別れます」


「分かった、こっちは六人で分割してる……アルファとブラボーに分かれよう……俺が居るほうがアルファだ」


「ではこっちはブラボーですね」


 互いにメンバーを受け渡し、メンバーを確認した後互いに親指を立てた。


「それじゃあ健闘を祈る」


「ええ、そっちも任せました」


 ウィリー率いるアルファ部隊と結城拓真率いるベータ部隊は互いに背を向けそれぞれの目的を果たすために走り出す。




 数分後対空砲が見える距離まで近づいたベータ部隊は遠くからスコープを使い敵兵の様子を伺っていた。

 しかし対空砲付近に居るのは武装された犬の様なものであり、人は見つからない。


「……あれって何ですかね? 新型?」


「……詳しくは知らないが……ここには横流しされる兵器も多い、どこかの国が作った兵器かもな……何にせよどうしたものか、背面についてるレーザーが厄介だな」


 犬の背面に付いている銃口はレーザー兵器と同じ形の銃口であり、装甲の厚いトルーパーでは避けられず、装甲と相性の悪いレーザーはなるべく避けたいものである。

 突破口を開く方法に少し頭を悩ませた結城拓真だが、ウルフ部隊の兵士が声を上げた。


「我々ならあの程度、殲滅するのは容易ですが……」


「……その他の砲台が厳しいんですよね?」


「ええ、撤退の際にもあれには苦労させられました」


 よく見ると対空砲の近くには自動砲台があり、装甲を削ったウルフ部隊のアーマーでは少々心もとない事に気づき、結城拓真は銃を手に取りウルフ部隊に告げる。


「では我々が先行するのでその援護をお願いします」


「了解しました」


「二人とも、全速力で付いてきてくださいね」


 両手にサブマシンガンを握り、結城拓真は前進するとその音に気づいた犬が一斉に駆け寄り背中の銃口を向けるが、次々と真っ黒な機体が犬の頭をハンドガンで撃ち抜き後方の犬が照準をウルフ部隊に向け直した時、一輝とアルバのR2が犬を撃ち抜いた。

 一方その頃結城拓真は両手に持ったサブマシンガンを器用に使い、両手を稼働している自動砲台に向け引き金を引き撃たれる前に撃ち抜く。

 互いに連携を崩すことなくベータ部隊は進み、ライヤー街が見下ろせる場所まで着くと結城拓真は叫んだ。


「今です! 一気に飛んでください!」


 そう言うと結城は窪地に飛び込み無事着地し、一輝達は坂になっている場所を滑りながら降り立つ。

 ウルフ部隊も続き身軽なお陰か坂を走っておりライヤー街へと降りるが、降りる途中一つの機体が空を飛びウルフ部隊に近づくと一人の隊員の体を真っ二つに切断し、そのまま通り抜けていく。


「ドールだ!」


 ウルフ部隊の一人が叫ぶが、壁を立ったままホバー移動するドールは折り返しもう一人の体を切断する。


「こっちだ!」


 結城拓真達はサブマシンガンで援護をしながら三人のウルフ部隊をライヤー街へと無事到達させ、ライヤー街の奥へと向かおうとするが坂から飛んだドールがベータ部隊の前へと着地し、退路を断つ。


「キャスト、目標を発見……」


 目の前に降り立ったドールは足先がボール状になっており、両腕にマチェットの様な刃と刃の後ろには銃口が付いており前回会敵したタイプと異なるドールである。

 見慣れぬドールとの会敵にベータ部隊はたじろぎながらも、銃口を向けた。

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Black Historia RPGropure @RPGropure

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