第九話 other side -別視点-
午前二時頃、旧リガール炭鉱跡地上空を飛んでいた輸送機が炭鉱近くの平地に着陸し、輸送機のプロペラが止まると着地した平地は段々と下がって行く。
エレベーターの様になっている空間の中、輸送機内部ではアーマーを着て武装をした兵士と片腕の無いドールが座っていた。
「こちらコード一九一、目標時刻通り着陸……指示を頼む」
〈こちら管制、ナンバーは?〉
「七号機だ」
〈了解、八番ゲートに停まれ〉
「了解」
操縦席で応答をしていた青年が通信を切ると同時にエレベーターは動きを止め、操縦者は先ほどの指示に従い八番ゲートと書かれた場所に停車し、貨物機後方の扉を開ける。
中からは多数の兵士が現れるが、多くの物が負傷をしており上面がガラス張りのコンテナに入れられた片腕の無いドールも何処か苦しそうにもがいていた。
そしてぞろぞろと降りてくる負傷者に出迎えに来た武装した兵士達が肩を貸し、白衣を着た研究者たちはドールの入ったコンテナを受け取り台車に乗せどこかに運んでいく。
「これで全員か? かなり減ったな」
無精ひげを生やし、どこかくたびれた様子の男が近づき軍服を着た青年に近づき肩を叩く。
「申し訳ない、想定以上の抵抗を受けた……」
先程操縦席に居た青年が敬礼を返しながら呟くが、男は気にした様子はなく笑い飛ばす。
「な~に、兄弟が帰って来てくれりゃあ俺は気にしねぇよ……ま、あの二人は知らねぇけどな……まぁ気を落とすな、こっちは人手不足祟ってんだ……多分、そう厳しい罰は受けねぇって」
「……ありがとうございます、英二(えいじ)さん」
「おうよ、じゃあ報告行ってこい!」
英二は青年の肩を叩くと青年は少し顔色が明るくなり、軽く会釈をして速足で歩いて行く。
青年が走り去っていった後英二は後ろを振り返ると、運ばれていくコンテナの中にいるドールを見て近づいた。
「もしもし、ちょっといいかい?」
「え? は、はい」
研究者は戸惑いつつも足を止め、英二はコンテナのスイッチを入れるとコンテナ内のドールは一旦静かになる。
「スイッチ入ってなかったよ、新人君」
「あ、申し訳ございません」
そばかすを持ち、茜色の髪色をした長い癖っ毛の研究者は何回も深々と頭を下げるが英二はその頭を撫で落ち着かせる。
「落ち着いてくれよ……とにかく、麻酔は効かしといてくれ……可哀そうだからな」
「は、はい」
「じゃ、頑張って」
手を振り研究者たちを見送った英二は誰も居ない事を確認し、ため息を吐いた後一人貨物機の発着場で大の字で横になる。
「出迎えめんどくせぇ……はぁ、あの二人め人使いが荒ぇっての」
一人愚痴りながら煙草に火をつけ上体を持ち上げると、目の前に緑色の癖っ毛をもつ青年が居り、英二は気まずい表情を見せた。
「誰の人使いが荒いって?」
「そこから聞いてたなら声かけてくれよ……俺ビックリして心臓口から出るかと思ったよ」
「出たら押し戻してやるよ」
「剣を抜きながら言われてもなぁ……いまいち信憑性に欠けるっつうか」
英二は手を青年に差し出すと青年は手を取り英二を立ち上がらせる。
「で? なんでここに?」
「お疲れの所悪いが俺は少し出かける、その間ここの管理を任せる」
「はぁ……了解、じゃあ報告書とか色々やっとくわ」
「ああ、あとカトルの世話も頼む」
「……やっぱり体調はすぐれないのか?」
カトルと言う名前を聞いた英二は眉をひそめる。
「……劣化が始まってるみたいだ、他の連中にもいくつか兆候が表れ始めてる」
「クローニングの影響か……あ~やだやだ、ゾッとする話だぜ」
青ざめた表情で耳を塞ぎながら呟く英二だが、青年も同じく暗い表情をしながら俯く。
「……まぁ、アイツがくたばる前に戦争には勝利したい……その為にも俺は少し出かける、頼んだぞ」
「はいよ、じゃあ行ってきな……ハジメ大将」
「……ここにはそんな大層な肩書は無い、俺らはあくまでレジスタンスだ」
「まぁまぁ、んじゃ任せたよ……俺も期待してるんだからな、差別のない平等な世界をさ」
そう言って英二はハジメに手を振ると、ハジメは手を振り返すことは無くどこかに歩いていく。
「……クールだねぇ……よしっ、俺も頑張るかな!」
背伸びをした後英二は発着場を後にした。
午前七時頃、起床アラームで叩き起こされた一輝達は朝食を摂り終わり訓練場へと招かれた。
朝早くからアーマーを着させられた二人は何処か寝ぼけたままアルファ部隊とベータ部隊に挟まれるように並び銃を握っており、目の前に小夜が立ちメガホンを持って居る。
「皆さんおはようございます」
『おはようございます』
「ではアルファ部隊には昨日……そしてベータ部隊には今朝伝えましたは私達がドールの討伐に抜擢されました、その為部隊の編成がよく変わると思いますがよろしくおねがい……」
「小夜さん緊急通信です!」
小夜が喋っている途中だったが、ナナが大きな声を上げながら近づき通信機を手渡す。
「少々お待ちを」
小夜はそう言うと通信機を受け取り、内容を確認するとメガホンをナナに渡し皆の方を向く。
「一輝さん、アルバさん……それと拓真さんとルークさん、後は内藤さんはすぐに武装をして表にあるトラックに乗り込んでください!」
「早速出番って事か!」
「馬鹿黙ってろ」
大声で指示する小夜と、その指示に興奮気味に答える内藤だがルークに怒られ内藤は言い返す。
「誰が馬鹿だこのトンチキ!」
「喋るなって事を理解しろチンパンジー」
「黙るのはお前らじゃ!」
『がふぁ⁉』
ヘンリーが内藤の後頭部を掴みそのままルークにぶつける。
まるでビリヤードの玉の様に二人はぶつかりそのまま飛んでいき、二人とも額を抑え悶えた。
「……と言う事で、詳しい事は追って話します……その間他の方々にはいつも通り別部隊との合同訓練をお願いします」
『了解』
「ではお願いします」
手を叩くと皆言われた通りに動き出し、出撃を控えた五人は全員武装する為武器庫に向かいそれぞれ装備を装着するが、一輝は内藤とルークの装備に違和感を感じ声を掛ける。
「それ……」
一輝は内藤とルークが装備しているバイザーのような物と、トルーパーとは違い薄い装甲のアーマーを指さす。
「あ? あー、これはスーツ型なんだよ……俺ら機動性と隠密性が必要だからさ」
「聞いたことはありますけど……それって弾丸から守れるんですか?」
スーツ型の装甲はとても薄く、加えてアーマー型と同じく関節部分が保護されておらずとても頼りがいの無い物に見えてしまう。
「カーボンとアルミだからな、銃弾にはそんなに強くないが……機動性がある、一気に懐に飛び込めばアーマーの足回りじゃ追いつけないのさ」
「へへ、それについては後で切り込み隊長の内藤様に任せな!」
ドンと胸を叩き自信満々の表情を見せる内藤だが、結城拓真が二人に近づくと両手に持ったサブマシンガンを後頭部に突きつけにこりと笑う。
「馬鹿な事やってないでさっさと行きますよ」
『はいッ! すいませんでしたッ!』
二人は一斉に大きな声で謝罪し、そそくさと武器庫を後にする。
全員トラック内に揃った頃、全員が回線を開き小夜に作戦の概要を伺っていた。
「小夜さん、全員乗り込みました」
〈分かりました、では作戦の概要を話します〉
ページをめくる音が聞こえ、全員静かに耳を傾ける。
〈まず皆さんにはライヤー街に向かってください、そこにLOWの中継拠点がある筈です……他部隊が先行しているもどうやらドールに行く手を阻まれている様なので、隊長を拓真さんとしドールの撃破を優先してください〉
「ドールが引っ込んだらどうします?」
〈そのまま追撃をお願いします、中継拠点の破壊は別部隊に任せてはいますがもし手を科せる状況ならば協力をお願いします〉
「了解」
結城拓真は通信を切ると運転手に声を掛ける。
「ライヤー街に向かってください!」
「了解しました」
運転手はアクセルを踏みトラックを走らせる。
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