第八話 eat communication -食コミュニケーション-

 シャワーの一件が終わり、一輝達は食堂に向かうと作業員や研究者が席に座って飯を食べていた。

 初めての食堂にあたふたとしながらも一輝達はトレーを取り、看板に書いているメニューを見ながらじっくり考えているとついさっき聞いた声が前から聞こえ、二人は一斉に声の方を見る。


「うどん一つ、ちくわ天を乗せてくれ」


「いやカレンさん……今日はうどんは置いてるんだけどちくわ天は……」


「…………ないのか?」


「…………ちょっとまってな、在庫確認してくる」


 受付をしていたコックはカレンが目を伏せたのを見て慌てながら厨房の奥へと引っ込み、別のコックが受付にやってくるがカレンはすぐに顔を上げ首を横に振った。


「い、いや……無いならいい……」


「いやもう、コック長カレンさんのファンですからねぇ……はいうどん、ちくわ天は後で持ってきますよ~」


 坊主頭のコックがカレンを見送り手を振り、振り返って一輝達を見ると笑顔を見せ手を振った。


「はーい次の……おやまぁ! 新入りさんかい?」


「ああ、どうも」


 アルバは取り敢えず頭を下げ、続けて一輝が頭を下げるとコックも同じく頭を下げる。


「ご丁寧にどうも~、んじゃご注文承りましょうかね」


「キーマカレー一つ」


「僕はハンバーグで」


「お前一番高い奴かよ……」


「給料から天引きだし、別に罪悪感無いからいいかなって」


 約五D(ダール)のキーマカレーに対し約八Dの値段のハンバーグを頼むアルバに驚く一輝だが、コックは返事をし頷くとすぐに注文を紙に書き下に敷いていたカーボン紙を渡す。

 注文用紙を受け取った一輝達は空いている席を探し始めるが、突如後ろから声を掛けられ振り向く。

 すると後ろには太刀川が居り、トレーに乗ったうどんを慎重に運びカレンの横の席に置くと、その隣の席を指さした。


「ここ、あいてるよ~ん」


「お言葉に甘えて」


 にこにこと指を刺す太刀川に従い二人は席に座り、数分後に二人の料理が運ばれるが二人は運ばれた料理を見るなり首を傾げる。

 一輝が頼んだキーマカレーには頼んだ記憶のない目玉焼きやナスやニンジン、シイタケ等の野菜が乗っており付け合わせにオニオンスープも付いていた。

 同じくアルバの方にも大きなハンバーグの横にはエビフライ二本が用意されており、メインのハンバーグは卵に包まれ上からデミグラスソースが掛けられている。

 そして同じく付け合わせが用意されており、木製のボールには生野菜とクルトンが乗っておりそこにシーザードレッシングが掛けられていた。


「あの、これって……」


 戸惑った一輝が料理を運んできた坊主頭のコックに尋ねると口角を上げながらも人差し指を口元に持っていき答える。


「内緒だよー新入りさん……まぁ、これからのお国の平和の為頑張って下されー」


 最期にカレンのうどんにちくわ天を乗せるとコックはそそくさとその場を後にし、厨房へと消えていく。


「……ま、まぁ食うか」


「そうだな」


 突然のサプライズに驚きながらそれぞれ料理を口に運ぶと、二人とも驚いた表情で料理を見る。


「なんだこれ⁉」


「ブートキャンプの時の飯とは大違いだ!」


「だよね~、アタシも最初ビックリしたよね~」


 二人のリアクションに太刀川が混ざる。


「ここの飯ってなんでこんなに美味いんですかね?」


「ん? それはカレンちゃんが詳しいんじゃないかな? 古参だもんね~」


「……後輩ならちゃん付けはやめとけ、ここならまだしも外でうっかり口にしたら恥だぞ」


 突如話題を振られたカレンはうどんを啜りながら答えるも太刀川は目を細めたままにやにやとカレンの方を見続ける。


「で? 実際なんでここってこんなに料理美味しいんだろうね?」


「……小夜司令官が兵の料理には気を使ってるからだ……何でも、飯がうまければコミュニケーションも捗るからだそうだ……」


「へぇ……答えてくれてありがとさん、今度ちくわ天出たらあげるね~」


「…………」


 太刀川に頭を撫でられ不服そうな顔をしながらカレンは黙々とうどんを食べ続け、そのやり取りを見て居た一輝達も気づけば黙々と飯を食べていた。


「そういえば二人ってなんで戦場にやってきたの?」


「なんでって……」


 一輝達に動機を訪ねる太刀川だが、少しの沈黙が流れ太刀川は口角を上げると口を開く。


「……訳アリって所? まぁ無理に聞こうなんて思ってないからいいよ」


「訳アリって言われればまぁそんな所ですが……まぁ、両親をクローンとの戦争で失いましてね」


「……そっちの金髪君は?」


「就職先が全焼して一輝に愚痴ったらここにたどり着きましたね」


「…………へぇ、二人とも昔からの友人なの?」


「俺達は子供の時から何だかんだ一緒でしたよ……まぁ腐れ縁って奴ですかね」


 二人は他愛のない会話をしながら料理を平らげ、少し人が少なくなった頃アルバが思い出したかのようにカレンに問いかける。


「そういえばリリィさんってカレンさんの娘さんですか?」


「……妹だ、娘じゃない」


「あ、妹さんなんすね……」


「……そういえば太刀川、リリィは元気にしてるか?」


「ん? そう言うのは自分で確かめたらどーだい?」


「…………そうしたいのはやまやまなんだがな」


 どこか引っ掛かる物言いをするカレンに一輝は首を傾げた。


「……もしかして不仲なんですか?」


「不仲と言うか……男手一つで育ててくれた父が戦死してな、背中を追って戦場に身を置いていた私が無理やりリリィを軍に引っ張り出したせいか、少しギクシャクしてしまってな……」


「…………もしかしてカレンさんがクローンを嫌う理由って……」


「そうだな、私は家族を失った……元々父親の部隊に交じっていた私だったが一人のクローンに奇襲を仕掛けられてな……家族と呼べるほど仲の良かった部隊は私を残して全員戦死した」


 目を瞑り、思い出すかのように喋るカレンだがため息を吐くとトレーを持ち上げ席を立つ。


「ここにはそんな奴が多い、だからいちいち聞いて回ったりするなよ……中には思い出したくない奴も居る」


「……そうですね」


 そういうとカレンは食器を返しに行き、一輝達も続いて食器を返しそれぞれ就寝の準備を整えその日は床に就く。

 配属初日の緊張の糸が切れたのか、二人はす

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