第七話 Auto or Revolver? -新たな仲間達-

 始末書を持って項垂れながらジョーが部屋を後にした後、残った一輝とアルバを見た小夜はため息を吐く。


「はぁ……本当に困った人ですね……お二人もアーマーを脱いでから来てください、詳しい話と……あと帰投したアルファ部隊との顔合わせもお願いしますね」


「あ、はい」


 小夜は先ほどジョーを追い詰めた目元の笑っていない笑顔ではなく、初めて会った時の様な笑顔を見せるとアルバはたじろぎながら頷く。


「お疲れのところ申し訳ありませんね、じゃあまた後で」


『了解しました』


 二人は敬礼をすると部屋を後にし、アーマーを脱ぐために武器庫に向かうと見慣れない二人の男が言い争っており、一輝達はアーマーを仕舞う場所の前に居る二人に声を掛けた。


「あの~……」


「あ? あ、丁度いいや……お前オートマチックとリボルバーどっち好きよ?」


「え? 俺? えっと……オートマチックっすかね、装填楽ですし……」


「かーっ! お前もオートマチックかよ! ロマンに欠けるなおい!」


 髪質の柔らかく青みがかった髪色の男が首を横に振りながら大きな声を上げるが、隣にいた髪質が固く黒い髪色で角刈りの男が大声で否定をする。


「いやお前よぉ! オートマチックの方が信頼性があるだろうが! 戦場で最も重要なのは信頼性なんだよ! ロマンなんてくそくらえだ!」


「はぁ⁉ ジャムるだろオートマチック! それに整備の手間考えたらリボルバーの方が優れてるんだよ!」


「てめぇ先輩の言う事は聞いとけよ! つうかお前リボルバーだろうがオートマチックだろうが銃当たんねぇじゃねぇかよ!」


 角刈りが青髪を指さすと青髪は目を吊り上げ反論し始めた。


「はぁ! 先輩後輩だったのは前の職場の話じゃねぇか! というかアンタがミスしなけりゃ俺ら今頃こんな所にいねぇよぼけ!」


 二人はヒートアップし始め互いに胸倉をつかみ始めるが、奥から現れた白いひげを生やした老兵が二人の髪を掴むと額を思い切り衝突させる。


「じゃかしいわクソボケ共が!」


『オタワ⁉』


 二人は頭を抱えながらうずくまり、悲痛な声を上げるが老兵はそんな二人の間を通り一輝とアルバを見下ろす。

 老兵は身長二百センチはあり、一輝とアルバは老兵を見上げ顔にある無数の傷と筋骨隆々なその見た目から冷や汗を掻くと老兵は二人に向かって頭を下げた。


「すまないな、この馬鹿共が邪魔をしたようで」


「…………いやまぁその……なんというか……別に気には……」


 一輝が突然の出来事に小さな声で答えると老兵は顔色を変え大きな声で怒鳴りつけた。


「貴様もっとでかい声で答えんか! 戦場じゃそんな言葉は聞こえんぞ!」


「は、はい! すいません! お気遣いいただきありがとうございます!」


 怒鳴り声に焦った二人は一瞬敬礼をしようとするが、すぐさま腕を降ろし親指を立てる。

 すると老兵は先ほどの調子に戻り、額を抑える二人の首根っこを掴みどこかへ歩いて行った。

 数秒後、廊下の奥からどちらが悪いか言い争う声が聞こえすぐさま怒鳴り声が鳴り響き、廊下は静かになる。


「…………もしかして、あれアルファ部隊の人かな?」


「…………もしかしない……のかもしれない」


 嵐の如く過ぎ去った出来事の中で出会った三人の男が同じ部隊である事に一抹の不安を覚えながらも二人はアーマーを所定の位置に戻し、指令室へと向かった。




 司令室へと向かった二人は小夜とナナ、そして先ほど見た三人と見知らぬ二人が指令室に居るのが見え小さくため息を吐く。


(本当にアルファ部隊だったみたい……)


(……癖が凄い奴しかいないなここ……)


 小さい声でそんな事を言う二人は決心して指令室に入る。


「あ、来ました! 彼らが新しく技術開発試験部隊に編成される事になった一ノ瀬一輝さんとアルバ・リジットさんです」


「一ノ瀬一輝です! よろしくお願いいたします!」


「アルバ・リジットです! よろしくお願いいたします!」


 二人は敬礼を見せるとアルファ部隊と思わしき人達は拍手をするが、老兵だけは拍手をせず腕を組み見つめていた。


「では皆さんも順に挨拶をお願いします」


 小夜がそういうと、青髪の男が口を開く。


「俺はテスターの内藤竜馬(ないとうりゅうま)、よろしくな!」


「んで俺が同じくテスターのルーク・クロス……さっきはすまなかった」


 青髪の次に角刈りが自己紹介をすると、先ほどの事について頭を下げた。


「あ、俺もすまん」


 二人は頭を下げると一輝達は手を振り気にしていない事をアピールする。


「いやいや、俺達も全然気にしてないので……な? アルバ?」


「え? ああうん、そうそう気にしてないっす」


 頭を下げられ慣れていない二人はしどろもどろになりながら答えていると、その間に割って入るように老兵が自己紹介を始めた。


「ワシはテスター兼エンジニアのヘンリー・バートン、ブラックマーケット鎮圧の時から軍人をしている……が、唯の老兵と侮って貰っては困る」


 伸びた髭を触りながらヘンリーは自己紹介を終えると、その隣にいた小柄でおかっぱ頭の少女が小さな声で自己紹介をした。


「エンジニア兼メディックのリリィ・ジェニファー……です」


 真顔で一輝達を眺めながらそう言うとすぐに部屋を後にしようとするが、隣に居た糸目の女性が肩を掴むとリリィを引き留めた。


「ちょ、リリィちゃん? 早いから、帰るの」


「ん? 顔合わせだけって聞いたから……」


「いやほら、そこはその……もうちょっと楽しくお喋りとかさ」


「無駄」


 糸目の女性が一生懸命引き留めるものの、リリィはそそくさと部屋を後にしてしまい糸目の女性は困ったと言わんばかりに口をへの字に曲げる。


「あちゃ~、ごめんねぇ……あ、アタシは太刀川(たちかわ)ソニアだよ! 大和帝国……あ~、旧名の日本の方が馴染みあるかな? そこのハーフだよ、よろしく」


 太刀川が笑顔のまま一輝達の手を取り握手をするが、アルバは首を傾げ口を開く。


「旧名日本って……今日本改名政策で日本に改名したんじゃなかったっけ?」


「改名中だね、フォルンの独裁が崩れたからついでで色々な国が改名運動を始めてるね、ここもアメリカに戻るんだっけ?」


「いや、LOWの一件が終わるまでアメリカ改名連合に爪はじきにされてるから暫くはフォルンのままだろうな……」


「へぇ、なるほど~……物知りだね!」


 アルバの疑問にルークが答えると、太刀川は納得し頷く。

 するとその後ろに居た小夜が咳ばらいをし、話始める。


「こほん、以上で紹介は終わります、役割からわかる通りアルファ部隊は主に武力だけでは難しい特殊工作が主で活動している部隊です……という事で顔合わせもそこそこにドールの件についてお二人に話したい事があるので、お二人は残って頂いて大丈夫ですか?」


「大丈夫です!」


「では他の方々も後に詳しい書類をお配りしますが、良ければ聞いて行ってください」


 手元に持っていたタブレットに線を繋ぎ、司令室のモニターに映像が映し出されると地図の幾つかのポイントにチェックマークが付いていた。


「我々が任されたドール追跡の任ですが、現在確認されてるドールは三機ほどおり直近で目撃されたのがこの地域になります」


 一つは一輝達が戦った旧Fギアーズ工場であり、もう一つは西部海岸沿いのリバトン軍港……そしてアルファ部隊が赴いていたベイカーヒルズサイトに印が施されている。

 それぞれの印の横には写真が載っており、少しぼやけた写真には人型が映り込んでおりそれがドールであることは明白であった。


「そこでドールの出現情報が出次第アルファ部隊とベータ部隊の隊員を混ぜた編成で出撃することになると思います」


「つまりその日の余りもの部隊で追いかけるという事か」


 ヘンリーため息を吐きながらそう言うと小夜は苦笑いを浮かべながら話を続ける。


「なので暫くの間はいつでも出撃が出来るよう準備をして置いてください、今まで以上に突然の戦闘になると思いますので」


『了解』


「では解散という事で……あ、一輝さん達だけは残ってください」


 小夜が笑顔でそう言うと二人は部屋に残り、司令室を去っていくアルファ部隊の背中を見送った。




 小夜に呼び止められ足を止めた一輝達はナナから一枚の手帳の様な物を渡される。


「これは?」


「規則手帳です、施設の使い方や備品の場所……後は時間管理表や有給申請用の紙が挟まってます……後で自室に案内したときにじっくり読んでください」


「あ、はい」


「ではナナさんに付いて行って施設の案内を受けてください……ナナさん、お願いします」


「了解しました、ではこちらへ」


 丁寧に頭を下げた後ナナは先頭を歩き、その後ろに一輝達が付いて行く。

 初めに自室に案内され、部屋はツインベッドのホテルのような部屋だがベッドの間にはスライド式のつい立があり、個人スペースは確保されている。

 次に運動場とその近くにある娯楽室に案内されそれぞれの使い方や使用時間についての説明を受け、シャワー室や兵器実験室等を経由し最後に食堂に案内された。


「以上で終わりです! 少し広いので分からない事があったらいつでも聞いてください、では今からシャワーの時間なので着替えを持ってシャワー室にて体を洗った後食堂で夕食になります」


「分かりました、ナナさんありがとうございます」


「いえいえ、私は雑務担当なのでお気になさらず」


 深々と頭を下げる二人にナナは同じく頭を下げ、どこかへと歩いていく。

 二人はナナに言われた通り着替えを取りに行き、着替えが置いてあるランドリーにて指定の寝間着とタオル類を受け取る。




 一方その頃始末書を提出し終えたジョーはシャワー室の前を通り、男女の区別をつける為の暖簾が掛けられており、少し足を止めたジョーは口角を上げると暖簾を左右逆にし遠目で眺め頷く。


「よしよし、後はお茶目な俺が入っちゃったって事にしとくか!」


 浮足立ったジョーは着替えを取りに行き、その後一輝達がシャワー室の前を着替えを持ちながら通りかかる。


「あれ? 暖簾さっきと逆じゃね?」


「さぁ? 覚えてないなぁ……まぁこっちに暖簾ついてるからこっちでしょ、行くぞ一輝」


「……まぁいいか」


 二人はジョーが取り換えた暖簾の奥に入っていき、その数分後シャワー室の前を結城拓真が目の前を通り暖簾を見るなりため息を吐く。


「……はぁ、誰がやったか一目で分かっちゃうのは……はぁ……あれが部隊長なのはどうにかならないんだろうか……」


 結城拓真は暖簾を取り換え、その場を去っていくと続いてカレンと小夜が着替えを持った状態で通りかかり、談笑をしながら暖簾をくぐりシャワー室に入っていった。

 シャワー室の奥で一輝達はシャワーを浴びながら今日あった初の戦闘についてあれこれと談笑している。


「今日の戦闘の事なんだけどよ、お前モローさんどうやって助けたんだ?」


「どうって……下に結城さん居たから投げ渡して脱出させた」


「おい待て、あそこ何階だと思ってるんだよ⁉ 怪我人投げ落とすのは流石にマズいって」


「まぁ助かったし結果オーライって事で」


 そんな事を喋りながら二人はシャワーを止め、髪を体を拭いた後シャワー室の扉が開く音がし二人は振り返ると、タオルを持った小夜とカレンが居り小夜は首より下には無数の火傷跡があり、カレンも右わき腹に大きな傷跡が目立っていた。


「…………」


「…………」


 咄嗟の事に互いに見つめ合い数秒の沈黙の時間が流れた後、カレンは咄嗟にシャンプーボトルを手に取ると一輝の顔面目掛けて投げつける。


「危なっ⁉」


 弾丸の様な速度でヘッドショットを狙ったボトルをしゃがんで回避し、鏡に当たると鏡にヒビが入り二人は鏡の方を見るとつばを飲み込んだ。


「死ね! 変態どもが!」


「違っ⁉」


 次はリンスのボトルが飛び二人は濡れた床の上を走り飛び交うボトルを避けながら脱衣所に入り突然の出来事に心臓を抑え足を止めるが、脱衣所に入ったカレンは体重計を掴んでおりそれを見た二人は一気に出口に走り頭を抱えながら飛び出す。




 二人が飛び出す少し前、ジョーはいつの間にか戻されている暖簾の前に立ち首をかしげていた。


「げげ、戻されてやがる……中から物音もするし今日は運が無かったって所か……ん?」


「今ここで殺してやる!」


「ぐんべら⁉」


 突如飛んできた体重計がジョーの鼻っ柱に叩き込まれ大の字に倒れ鼻血を吹き出しながら気絶する。


「ジョーさん⁉」


 頭に手を置きうつ伏せになったアルバが驚いた声で叫ぶとあきれた表情のカレンがタオルを巻いた状態で暖簾をくぐり出てきた。


「全く、こいつがここに居るってことは原因はこいつか」


 腰に手を置き呆れた顔をしたカレンはジョーの胸倉を掴むと脱衣所に引きずっていき、直後ジョーの悲鳴が鳴り響きすぐに静寂が訪れ、その後一輝達の着替えが籠ごと廊下に投げ出される。


「とりあえず今回はこれで手打ちにしてやる」


「えっと……はい、すいません」


 着替えを受け取った二人はそそくさと男子シャワー室に入っていき、着替えるがその間も隣の部屋から悲鳴が聞こえ気まずい中、着替える事になった。

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