第六話 survive and blunder -失態-
時を同じくして、下の階に降りていた一輝は通信機器が治りジョーと通信を繋げていた。
「こちら技試隊のベータ部隊の……」
〈一輝だな? ジョーだ……っ⁉〉
通信機の向こう側からジョーの声が聞こえてくるが、どうやらジョーは応戦中らしく銃声が鳴り響いている。
「今ドールと交戦中で……アレを倒す方法とかってありますか?」
〈ありゃとっくに撃墜してる! ……もう少しでこっちは片付く、そしたら俺が上階まで駆け上がる! それまで逃げ回れ! 戦おうなんて考えるな!〉
「そりゃ無理ですよ、奴さん完全に俺を殺す気なんですから!」
物陰に隠れながらバーチャルスコープを使いドールの動向を探る一輝だったが、ドールは一輝のいる方向に銃口を向け始め、一輝は咄嗟に物陰から飛び出す。
しかしその時、爆発音が鳴り響き何事かと思った一輝が音の鳴った方を見ると亀裂の向こう側が崩れ落ちており、ドールは上階に向かって熱線を放った。
「今だ!」
一輝はその隙を逃さずに引き金を引き、銃弾は見事熱線を放つ銃口に当たり熱線は雲を貫く。
「……ッ!」
突然の奇襲に驚いた素振りを見せるドールだが、すぐにもう片方の銃口を一輝の方に向けるが、上階からドール目掛けロケットランチャーが落ちドールはそれを躱す。
だが直後一発の弾丸がロケットランチャーを撃ち抜き大爆発を起こすとドールは後方へ吹き飛び壁に当たる。
〈ナイスショット! 流石俺!〉
「ジョーさん!」
亀裂の下に居るジョーはライフルを構えており、その銃口から硝煙が上がっている。
「今のうちに……あ…………」
再びできたチャンスを逃すまいと一輝は引き金を引くも弾切れのせいかカチカチと音が鳴るだけで肝心の弾は発射されず、予備弾倉を探すも使い切った事を知り銃を捨て剣を構えた。
「喰らってくたばれ! クローン!」
構えた剣を即座に振りかぶり投げつけると、壁に打ち付けられ姿勢制御に戸惑っていたのかドールは躱すことが出来ず右腕の肘から先を切断されるが、切断された筈の断面には肉や骨が無く、配線と鉄骨が覗いており一輝は舌打ちをする。
「チッ! あいつ義腕かよ!」
致命傷にならなかったことに怒りを覚える一輝だが、腕を切断されたドールは一輝の方を一瞥すると高度を上げ空へと逃げていく。
「逃がすか!」
どこかへ去ろうとするドールを追い詰める為一輝は外にある階段から上に居るアルバと合流すると、アルバにR2を渡すように言い受け取る。
そして壁に開いた穴から見える遥か彼方のドールに照準を合わせ引き金を引くも、アーマーと言えど完璧にマズルジャンプを軽減する事は出来ず取り逃がしてしまう。
「クソッ! 逃がした!」
R2を振り下ろし全身で怒りを表現する一輝だが、後ろにいたアルバが一輝の肩を叩くとR2を受け取る。
「怒りのあまり壊さないでくれよ? これは僕のなんだから」
「あ、すまねぇ……ふぅ、所でモローさんは?」
「ここに来てた結城さんに渡した、衛生兵も一緒にいるみたいだしね」
「そっか、そういえば先輩方も来てたか……おっと、こうしちゃいられねぇや報告しないと……」
一輝はジョーに通信を開くと、無線越しに大きな声が聞こえた。
〈おい今何処に居る! 応答しろ!〉
「こちら一ノ瀬一輝です! ドールを逃がしてしまいました!」
〈……そうか、そっちに負傷者は?〉
「こっちは特に……あとドールの腕を切り落としたんでどこか下に落ちてると思うんですが回収しといた方が良いですかね?」
〈あ? ……お前ら、無茶しやがって……まぁそれについては俺が拾っておくよ……とにかく、下の連中は片付けたから降りて来るなら今の内だ! アンブッシュにだけ気を付けろよ?〉
「了解しました」
通信を終え二人は警戒を怠らずに下の階にまで下がって行き、一階に辿り着いた二人は亀裂の底でドールの腕を拾ったジョーと出会う。
「あ、ジョーさん!」
「ん? ああお前らか……よし、無事そうで何よりだ……とにかく俺らの仕事は終わりだ、後は退避を確認次第建物を吹っ飛ばす」
「了解しました!」
「……すまねぇ、ドールの目撃情報が出たときに下がらせた方が良かったな」
申し訳なさそうにジョーは二人に言い頭を下げると、二人は首を横に振る。
「そんな事無いですよ、僕もこいつも無事でしたし……それに戦場の雰囲気ってのが何となく分かりました」
アルバがフォローを入れるとジョーは頭を上げ、二人に近づくと肩を叩く。
「いやー、そう言って貰って何よりだぜ! なぁ! 小夜ちゃん!」
ジョーは最初から小夜と通信を繋げていたのか、向こう側に居る小夜に声を掛けるとアルバと一輝の二人にも小夜から通信が入る。
〈……二人とも、本当に怪我は無いですか?〉
「え? えっとまぁ……特に……」
〈どんな小さな怪我でもいいです、無いですか?〉
「……まぁちょっと落下したときに背中打ったぐらいです」
〈……ジョー隊長、司令に反して新兵を戦場に駆り出して怪我をさせたとあれば……始末書は免れないですね〉
「うげげげげ⁉ やっぱりか!」
ジョーのトルーパーが頭を抱え悶えるが、それを見ていた二人は顔を見合わせため息を吐く。
〈報告書の話は後にして、とにかく今はそこから帰還してください! いいですね!〉
「……わかったよ小夜ちゃん」
項垂れながらジョーは二人を連れ出し、最初に三人を乗せていたトラックを見つけるとそのまま乗り込む。
来た時と同じ時間トラックに揺られたアルバと一輝は束の間の戦闘であったはずだが、緊張の糸が切れたのか気づくと目を瞑っていた。
やがてトラックが止まり、その衝撃で目を覚ました二人は目の前のドアが開いている事に気づき降りる。
「よく寝たな」
「……なんだか今更になって緊張してたんだなぁと……」
一輝は伸びをしながらジョーの言葉に答えると、ジョーは笑いながら返答した。
「まぁ最初だしな、無理もないさ……それにまさかドールまで居るとは思わなかったからなぁ……」
「所でドールって何ですか?」
先ほどまで戦っていたドールという存在に違和感を覚えたアルバはジョーに説明を求めると、ジョーは少し考えた後口を開く。
「詳しい事は何とも言えないが、今回みたいに奴らの腕を切り落とした事があってな……その時その腕にドールっていう刻印があったからそう呼ばれてるらしい……名前の由来とかは名付け親にでも聞いてくれ」
「……俺らその名付け親を殺しに行ってるんですけどね」
「ははは、ちげぇねぇや」
三人はそんな談笑をしながら小夜の待つ指令室へと入って行く。
すると指令室には小夜とナナ、そしてその他に車いすに乗った坊主頭のモローがおり三人を見るや否や手を振った。
「おお! 待ってたぞ!」
「貴方は!」
モローは二人に駆け寄り握手をするが、膝から下の無いモローを心配したアルバは声を掛ける。
「あの、足の怪我大丈夫ですか?」
「なんも、溶断されたから出血の心配もないし……とりあえず痛み止めが効いてるうちにお前たちに礼を言いたくてな……足は短くなったが幸い生き残れたのは君のお陰だ、ありがとう」
アルバに向かってモローは頭を下げるが、自分よりも上の位の人に頭を下げられる事に慣れていないアルバはあたふたし始めた。
「え、えっと……まぁその、あの時はなんか生意気言ってすいませんでした」
「ははは! 嫌、今思えばお前の言ってる事は正しい……生きるのが仕事……そうだな、死んじまったら何にもならない……俺の意思と言葉でお前らに託す事も出来ない……そういうこった」
「託す? 俺らに何か願い事が?」
首を傾げたジョーが口を開くと、小夜はタブレットを取り出して皆に見せる。
「実はコング部隊の管轄であったドール追跡の任が我々に譲渡されました、その関係で来てもらったのです」
「え? 俺らがドール追跡?」
小夜の言葉に驚くジョーだが、モローは笑いながらアルバと一輝を指さした。
「話は聞いたぜ? なんでもそこの二人が片腕をもぎ取って来たんだろ? 大したタマだ、唯の新兵なら……いや、新兵じゃなくたって死んでもおかしくない状況だった……それを生き残ったんだ、その任を任されるだけの価値はある」
「は、はぁ……」
二人はあまり実感が無いのかどこか気の抜けた返事を返す。
「じゃあ後はよろしく頼みますよ小夜司令官……部下の顔を拝みに行かないといけないんでね」
「ええ、了解しました……ナナさん、モロー少尉を玄関までお送りしてください」
「はい、分かりました」
車いすをナナが押し、二人は指令室を後にする。
そして四人になった指令室で小夜は紙を取り出すとジョーに手渡した。
「ではこちら始末書です、期日も書いていますので厳守でお願いしますね?」
「え? ああ……えっと、これうちのシュレッダーちゃんの餌にしちゃダメかな?」
「…………」
「あの、無言で笑いながら突きつけないでくれよ小夜ちゃん……俺デスクワークダメなんだよ、椅子に数分も座ってられないって言うか……」
「じゃあ無断で出撃させないでください」
「分かった誓う! ……からこの始末書は差戻って事で……」
「それとこれとは話は別です」
「…………」
ジョーは報告書を受け取ると、トボトボと部屋を後にしていき作戦前の面影の無いジョーの後ろ姿に二人は再びため息を吐いた。
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