第五話 Morrow -死してなお輝く-

 ドールに銃口を向けられたアルバは腰を抜かしその場に座り込んでしまい、ドールの足元にある空洞に焼けた鉄と血が張り付いており、その光景を見て銃からも手を放してしまう。

 しかしその手を引き、その場から引きずりながら走り去る。


「しっかりしろアルバ!」


 一輝はアルバを引きながらドールに背を向けその場を去ろうとするが、引きずられていたアルバはドールの銃口が光ったことに気づくと大声で一輝に伝えた。


「一輝! 屈め!」


「分かった!」


 指示を聞いた一輝はその場で屈むと熱線が頭上を通過し、目の前にあるコンクリート製の壁が融解する。

 そして頭上を熱線が掠めたせいか一輝のバイザーには急な温度上昇の警告が流れ、一部機能に制限が掛けられた。


「おい、熱でセンサー類と光学ズームがイカレタんだが!」


「ちょっと待って一輝! 床が!」


「床ぁ⁉ うおあっ!」


 レーザーが建物全体を温めたせいか戦闘の余波でひびの入っていた廊下が崩れ落ち、二人は一つ下の階に落ちていく。


「くっそぉ……なんなんだよあいつ……」


「…………一輝、まだ気は抜けないみたいだよ」


「……だな」


 瓦礫の上でウンザリしていた一輝だったが、立ち上がり後ろを向くとドールも同じく下の階に降りており、二人の方を見て銃口を向けていた。


「アルバ、立てるか」


「うん、何とか……」


「よし、お前はジョーさんに連絡を取って俺をサポートしてくれ……俺はアイツをぶっ殺す」


 R2のセーフティを解除し、銃を構える。


「無茶だよ! 一部隊を一撃で壊滅状態まで追いやる火力なんだ! 流石に……」


「だからやるんだよ、今ここでアイツをやればLOWは少しでも弱体化するはずなんだ」


 ドールの腕に付けられている銃口が光ると一輝はその銃口を狙い引き金を引くが、ドールは蝶のように空中でひらひらと避けながら上階へと昇っていく。

 やがて銃口を光らせていたドールが見えなくなり、一輝は亀裂から上を覗こうとするがその時アルバは咄嗟に一輝を後ろに引っ張る。

 すると熱線は一輝のいた所を焼き尽くし、咄嗟の状況に驚いた一輝は暫く先程まで自分が居た場所を見つめていた。


「……サンキューな……命拾いした……」


「……まさか落とした銃が役に立つとは思わなかった」


「というと?」


 アルバの言葉に違和感を覚えた一輝は首を傾げる。


「上の階に置いてきた銃に付いてるバーチャルスコープを遠隔で起動したらアイツの動きが見えた……これ、もしかしたら使えないか?」


「…………」


 一輝は一瞬考える素振りを見せ銃を手に取ると、アルバに伝える。


「そのスコープってどっち方向を向いてる?」


「崩れかけの床の上に有るから見下ろす感じだね、スコープから亀裂の下まで見えるよ」


「…………よし、ならアルバはカメラを見て俺にあいつの位置を教えながら上に居るモローさんの様子を見てくれ、俺は下に降りながらジョーさんと合流する」


「ちょ、そんな危険な事するのかい? それに今ならあいつはカメラ内に居ない……多分あれだけのエネルギーを使ったからクールタイムに入ってるはずだ……逃げるなら今だと思うよ?」


「断る、新兵だからってクローン一匹の首すら取れないなんて……俺がここに来た意味がなくなる!」

 大きな声でそう言うと、アルバの説得を無視して亀裂から反対側の一階下に降り上空を飛ぶドールにR2の弾丸を撃ち込む。


「ほらこっちだ! こっちに来い化け物が!」


「…………銃身の冷却完了、敵軍の抹殺を再開」


 ドールは一輝の方を見るなり高度を下げ、銃身を向ける。

 しかし一輝はひとしきりR2を乱射した後、その場から離れドールを惑わすかのように遮蔽物に隠れマガジンを交換した。

 だがドールは一輝が逃げ込んだ階と高度を合わせるや否や、横薙ぎに熱線を放ち辺りを焼き切る。


「クソッ! センサーの冷却済んだと思ったのに!」


 一輝は床に伏せていたお陰で当たらなかったものの、再び眼前に現れた温度上昇のアラートに舌打ちをした。


「これならどうだ!」


 二射目を撃たせまいとR2を乱射し、ドールは再びその場でひらひらと回避をしながら先程発射した銃身とは逆の銃身に光が灯る。

 それを見た一輝はすぐさまその場を離れ亀裂から飛び出し再び向かい側の下の階に降り、それを追ってドールは下降していく。




 一方そのころアルバは一輝に言われた通り上階のモローの元に駆け付け、肩を貸していた。


「大丈夫ですか?」


「戻ってきたのか……りょ、両足が溶断されるとはな……部下は……部下はどうなった?」


「…………」


 うわ言の様に部下と言う言葉を呟くモローだが、アルバはその言葉に対する答えを見つけられず顔を逸らしてしまう。


「……とにかく、今はこの場所から離れましょう……」


「……部下は……そうか……俺は守れなかったのか…………」


 モローの体を持ち上げ、その場を後にしようとするアルバだったがモローがアルバの肩を叩き、アルバは振り返るとモローの背中にあったロケットランチャーが外れ地面に落ちた。


「……これは?」


「敵討ちだ……コング部隊は壊滅した……だが俺はここに居る……敵討ちだ! 俺にしかできない、仲間の無念を晴らす一撃を放てるのは! ……その亀裂の辺りでいい、俺を連れて行ってくれ」


「モロー少尉まで……早くこの場を離れないと勢いに乗ったLOWに見つかったら太刀打ちできないですよ! 今は撤退しましょう!」


 説得するような声でアルバは伝えるも、モローは頑として譲らず抱えられたままアルバの瞳を見つめる。


「それでもだ! 俺らが死ぬ思いでやり遂げなければ誰かが死ぬんだ! それが戦場だ! 一匹でも片腕でもいい! 奴らを消し飛ばす!」


「……死ぬのが怖くないんですか?」


「馬鹿言えよ、死ぬほど怖いよ……でもやるしかないんだ、俺らは兵士だ……何も守れず犬死にするなら死してなお輝くさ……例え瓦礫に埋もれようがな」


 モローは優しい声でそう呟くと、アルバはモローを下ろし通信を開く。


「こちら技術開発試験部隊ベータ部隊のアルバです、応答お願いします」


〈こちら同じくベータ部隊結城拓真です、応答どうぞ〉


 同じベータ部隊の結城拓真と繋がったアルバはすぐさま現状を伝える。


「今どちらに居ますか?」


〈旧Fギアーズ工場滑走路の制圧に成功しました……ところでアルバさんはどうしてここに?〉


「人手不足で駆り出されました、それよりも一人重症者がいまして……衛生兵は居ますか?」


〈ええ、数人待機してます……こっちも手痛い反撃を受けましてね〉


「ならよかった、今から一人投下するので受け止めてください」


 そういうとアルバはモローを抱え、先程ドールが穴を空けた壁の前に立つと下に見える滑走路を占拠した部隊の中に居る結城拓真に合図を送った。


〈……投下って投げ落とす気ですか?〉


「ええ、受け止めてくださいよ!」


〈……分かりました! 来てください!〉


 急いでアルバの真下に移動した結城拓真は両腕を広げると、それを確認したアルバはモローを投げ落とす。


〈おいいいいいいい⁉〉


 無線からモローの叫び声が聞こえるも、アルバはその行く末を見守り下にいた結城拓真が見事受け止め通信を開く。


〈投下確認しました……とはいえ次はパラシュートを用意するのを勧めておきますよ〉


「非常事態なので許してください」


 そう言ってアルバは通信を切ろうとするが、突如モローが通信に割り込みアルバを怒鳴りつける。


〈おい何のつもりだよ! 俺のチャンスを……無駄にする気か!〉


「……無駄にはしませんよ、僕が代わりにやるので」


〈……は?〉


 アルバは落ちているロケットランチャーを抱えると、肩に担ぎ亀裂の下をのぞき込みドールの位置を確認した。

 真下に居るドールは未だしつこく追いかけており、すぐに照準を合わせる。


「兵士は生き残るのが仕事って教わったんで……モロー少尉にも生き残ってもらおうと思いましてね」


〈…………〉


 アルバの言葉にモローは黙り、少し経った後口を開いた。


〈…………ならお前があいつを倒すのか? 部下の仇を取ってくれるのか?〉


 静かにモローが呟くと、アルバは笑いながら答える。


「あはは、僕だけじゃ無理ですよ! ……だから僕達が頑張ります、そして必ず生き残ります!」


 そう言うとアルバは照準を合わせ引き金を引いた。

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