第四話 doll -ドール-

 輸送トラックの荷台に乗り込んだ三人は小夜からの通信を聞きながら旧Fギアーズ工場の現状を聞かされていた。


〈現状をお伝えしますね、旧Fギアーズ工場……まぁその……クローンを処理していた場所なんですがね……どうやらその場所に集中的に空挺降下を行い制圧を試みようとしているようで……〉


「妙だな、あそこって確かにフォルンの都心のすぐ近くだから拠点にしたいのは分かるが……重要度はそこまで高い理由が分からない……Fギアーズは軍需産業縮小とクローン協定でほぼ壊滅状態だからあそこも稼働してない筈だよな?」


 かつてクローン処理場であった旧工場は兵器製造やクローン製造等を行い大戦争の象徴として今なお残されている場所である。

 しかし現在Fギアーズはクローン協定と呼ばれる条約がフォルン内で施行されており、クローンの兵器転用およびクローン技術を持つ企業は全ての軍需産業から手を引く事が義務付けられている為、Fギアーズは社長交代と共に軍需産業を全て国に明け渡し傘下企業を売りに出す事でリストラによる赤字を補填した。


〈……クローンにとっては忌まわしき建物でもあります、恐らく制圧による士気の上昇と外部へのプロパガンダ……その為の情報を集める為かと〉


「…………一理ありだな、現地に着いたら俺達はどう動けばいい?」


〈まずは裏口を目指して下さい、そして現地に居る爆撃部隊のコング部隊と合流して建物の爆破をお願いします〉


「良いのか? 一応歴史的建造物だろ?」


〈政府の見解では内戦によって取り壊せば他国からの非難もそう多くないと踏んだのかと……〉


「…………なんつーか、ちょっと姑息だな」


 小夜の言葉を聞いたジョーはため息交じりにそう呟くと、スピーカーの向こうからは愛想笑いが聞こえ揺れるトラックの中は少し静かになる。

 すると運転手が三人に向かって声を掛けた。


「もうすぐで目標地点近くです! 出撃の準備を!」


「了解、じゃあ行ってくるぜ小夜ちゃん」


〈……その呼び方はよしてくださいね、特に他の隊の前では〉


「善処するよ」


 そう言って通信を閉じるとトラックの中でジョーは一輝とアルバの方を見て腰のあたりに付いている小さな機械を取り出し渡す。


「そのモジュールを腰に付けておいてくれ、これで俺は位置を把握して場合によっては指示を飛ばす」


「了解しました」


「じゃあ気を引き締めろよ! 何度も言うがお前らの仕事は生きて帰る事だ! 死して英雄になろうだなんて考えるなよ!」


『はい!』


 返事と同じタイミングでトラックは止まり、外からは銃声と爆発音が鳴り響きヘリのローター音も反響する。


「目標地点到着! 健闘を祈ります!」


「おう!」


 ジョーは運転手の方を向き手を振るとトラックの荷台から降り、走り去って行くトラックを見送ると別のトラックから降りて来た腕が太く、ヘッドパーツが四角い箱状でありカメラは四つ程付いているトルーパーが三人に近づいた。


「お前らが技試隊のベータ部隊か?」


「いかにも、そちらは?」


「コング部隊のジャック・モロー少尉だ、よろしく」


 箱状の頭部を開き顔を表す。

 頭部は坊主頭に纏められており、どこか薄ら笑いを浮かべながら握手を求めていた。


「どうも」


 ジョーはその手を取り握手を返すと、一輝とアルバも同じく握手をする。


「お前らは新兵か?」


「え? ああはい……」


「なんで分かったって顔してるな? なに、随分握手が情熱的だったからな……成れて無いんだろ? 答えなくても分かる」


 笑いながら二人の顔を見たモローは二人の肩を叩き笑顔を見せた。


「よし、じゃあ楽しい楽しい爆破解体のお時間だ! ベータ部隊には俺らの援護をお願いしたい」


「了解した、これより援護に回る!」


「じゃあ行くぞお前ら!」


 モローは後ろにいた数十人のコング部隊にそう告げると、コング部隊は後ろに見える旧Fギアーズ工場に歩いて行く。

 ベータ部隊もそれに続き歩いていき、戦場へと赴き最前線に辿り着いた。

 最前線ではLOWの物と思われる死体が転がっており、トルーパーがその死体を踏みながらも旧工場の入り口で抵抗するLOWを狙い引き金を引いている。


「俺達は内部に侵入する都合上爆撃を行う、離れてろ!」


 モローが付近の味方全員にそう告げると左の背中に取り付けられていた四連装のロケットランチャーが背中のレールを上り、頂点に上がると前方に倒れモローの左手がそれをキャッチした。

 そしてそのまま引き金を引くとロケットランチャ―は工場の裏口を固めているLOWを吹き飛ばし、こじ開ける。


「今だ前進しろ!」


 モローが大声でそう叫び、コング部隊とベータ部隊は銃弾が飛び交う中前進し裏口に入ると即座に周囲を警戒し始めた。

 だがLOWは正面の入り口や滑走路に多く配置されているのか、大量に流れ込むことは無く二部隊で入り口を占領する。


「一輝! アルバ! お前らは後方支援を頼むな! 不審な物を見つけたら教えろ!」


『了解!』


 ジョーの言葉を聞いた二人は親指を立て、前進していくジョーとコング部隊の後ろに二人は並ぶ。


「……さて、ようやく俺らの出番だな」


 一輝は銃を構えながらアルバにそう言うと、アルバは鼻で笑いながら答える。


「僕達急に戦場に来る事になったけどさ、僕これに付いてるバーチャルスコープ使いこなせる気がしない……」


「……あれ? レーザーサイトとかはどこやったんだ?」


「前の奴から外し忘れた……まぁそのなんだ、弾をばら撒くぐらいは出来るからこの際気にしない事にするよ」


 左腕に付けられた折り畳み式のシールドを起こしながらアルバはそう言うと、早速前方の方から銃声と爆発音が鳴り響く。


「とにかくなんかあったら言ってくれアルバ、俺が援護する」


「ははは、じゃあその時が来たらお言葉に甘えるよ! おっと、会敵だ!」


 前方で銃撃戦が始まりアルバは即座に銃を構え、続いて一輝も銃を構える。

 だがジョーが構える機関銃がLOWの装甲を貫き、即座になぎ倒す。


「一丁上がり!」


 ジョーが嬉しそうに声を上げ、二部隊は再び前進していき二人はその後を付いていく。

 工場内部を歩きながらコング部隊は爆弾を取り付けて行き、地下含め数十か所に爆弾を仕掛け終え二部隊は安堵のため息を吐いた。


「よし、後は爆破すれば解体終了だ」


「……今更だが爆撃機で吹き飛ばす方が早かったんじゃないか?」


「意図的に爆破したって思われたら嫌なんだろうさ、これなら不意の事故に見えるだろ?」


「……やっぱなんか姑息だな……」


 苦笑いを浮かべながらジョーがそう呟くと通信が入り、全員その通信に耳を傾ける。


〈こちらシグ・アルバス中佐だ! 工場内部のコング部隊および技術開発試験隊に告ぐ、工場の屋上で整備中のドールを観測した……至急破壊してくれ、爆破解体はその後だ〉


『了解』


 二部隊は一斉に返事をすると地下から上階に向かい上がっていく。

 しかしLOWの前線が崩壊したのか、内部で待機している兵士が階段付近を固めており前進は困難を極める。


「くそっ! なんて数だよ!」


 一輝は舌打ちをしながら群がるLOWに向かって引き金を引き、頭部を破壊しながら確実に一人一人沈めていく。

 LOWの兵士が身に着けているスーツ型は頭部が守られておらず、他の装甲も薄いため弾をばら撒くだけでもかなりの痛手を与えることが出来た。

 そうして段々と押し返していく二部隊は工場の屋上一歩手前の八階に辿り着くと、突如天井が光り全員が天井を見上げると、まばゆい光が目を刺激し一輝は思わず目を瞑るがその時誰かが一輝を突き飛ばす。


「うあっ!」


 吹き飛ばされた一輝は何事かと仰向けの状態から顔を上げると、数階下まで地面が焼け溶けており、目の前に両足の溶けたモローが転がっていた。


「モロー少尉!」


「無事か……お前ら……」


 両足が焼け溶けたモローがそう言うと、向こう岸に居るジョーが二人に通信を飛ばす。


「生きてるか!」


「え、ええ……しかしこれは一体……」


 一輝達とジョーを分かつ切れ目を見つめながらアルバが呟くと、その亀裂の上から両腕が銃口になり、頭部はガスマスクの様な形をしたヘッドをしたアーマーが背中にあるブースターを吹かしながらアルバの前に降り立つ。


「な、なんだこいつ!」


「くそっ! ドールだ! 逃げろ!」


 ジョーは機関銃を構え背中のブースターを撃ち抜こうとするが、ドールと呼ばれるアーマーはジョーの足元にレーザーを撃ち込むと足元が崩れ、ジョーは下の階に落ちていった。


「ぐああああ!」


「…………ブライス・ドール……殲滅を開始する」


 ドールはそう言うと、一輝達の方を見て銃口を向けた。

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