第三話 sortie -出撃-

 着替え終わった二人はジョーの元に戻ると、台車で運び出されたアーマーが用意されており前面が既に開いた状態になっていた。


「こいつは新たに正式採用されたトルーパーだ、軽量小型で生産性整備性に優れた優秀な機体……拡張性も抜群だしな! ……まぁ、装甲には目を瞑るが……」


 用意されたアーマーの頭部は側面から見るとラグビーボールの様になっており、先端にはカメラアイと目にも見えるセンサーが二つ取り付けられ、楕円状の両側面にアンテナが二つ立ち、首から下は前面が装甲に覆われ背部は放熱用のヒートシンクが覗いている。

 青色に白のラインの入ったその機体は肩に練習機を差すLの文字が入っていた。


「お前ら、使い方は分かるな?」


「一通り使い方は習いました」


「ならよし、装着してみろ」


『はいっ!』


 二人は腹部前面と頭部が上がった状態のアーマーに後ろ向きで足を入れ、両足をアーマー内に入れた後頭部を降ろして頭を覆い両手をアーマーの中に入れる。

 すると腹部前面は閉じて行きロックが掛かると頭部のバイザーにOS起動画面が表示され、数秒待つとメインシステムが起動し視界が明るくなった。

 視界には現在のバッテリー残量や各種部位の上体を表すアラート表示枠、他には通信用の無線チャンネルの番号や各種レーダー類の情報等が纏められたUIが左上に纏められている。


「よし、起動できたか?」


「はい!」


 声を掛けられた二人は敬礼を見せるが、アーマーの腕の太さが思いの外あり頭部と干渉し音を立てた。


「ばか、アーマーの時は敬礼じゃなくて親指立てるんだよ」


「す、すみません」


「今後気を付けろよ? それで頭部のセンサー破損なんかしたら笑い話だからな……よし、じゃあ俺も着替えるから銃器の扱いから始めるか」


 ジョーの後ろに置かれた二人と同じアーマーを装着し、全員がアーマーを着ると通信が入る。


「これから通信を使って話すからよく聞けよ? とりあえず射撃訓練を開始するから壁にあるアサルトライフル……それと対兵器用……実体電子……正式名称忘れたがそこにある剣みたいな奴だ、それも持ってこい」


「了解しました!」


 二人は壁に掛かっている武器を取り、剣を腰に携えアサルトライフルを構えると刻印が目に入り、R2と彫られた刻印を触るとジョーが不思議そうな顔で二人を見た。


「どうした? アサルトライフルの使い方分からないのか?」


「え? あ、いや……このR2ってのを初めて見たんで……」


 R2と彫られたアサルトライフルは一般的なアサルトライフルの形をして居るも、バレルが太く側面に排熱用の穴が設けられている。


「あー、最近正式採用されたアサルトライフルだな……レールライフルって言ってライフリングに電流を流して初速を上げてるんだ……作薬量が変わらないから反動も強くないし口径を大きくして装甲の貫通力を上げる事もできる画期的な銃だ、試しにあの的に当ててみな」


 ジョーは倉庫の窓から見える人の形をした金属製の的を指差す。

 金属製の的はチェーンで枠から吊り下がった状態であり、百メートル先で風に揺られ動いる為、確実に当てるのは難しい状態になっている。


「じゃあ一輝、試しに撃ってみろ」


「はい」


 指名された一輝はR2を構えスコープを覗き込もうとするとジョーから通信が入り、一旦銃を下ろす。


「お前らもしかしてバーチャルスコープについて説明受けてない感じか?」


「……えっと、徴兵者キャンプでは使わなかった……よな?」


「説明はされた様な気がする……ような?」


 自身の無い一輝はアルバに尋ねるも、アルバも何処か自信のない返答を返した。


「じゃあ今一度説明すっけど、バーチャルスコープは武器に取り付けるスコープでサイドのボタンを押せばバイザーの映像がリンクしたスコープの映像に切り替わる……角から身を出さずに射撃を行えるから覚えた方が良いぞ、アーマーの弱点は関節とカメラ部分だからな……無防備に身を晒したら命が幾つあっても足りない」


「なるほど……」


 説明を受けた一輝はスコープのボタンを押すとバイザーの映像が切り替わり、中心に照準が表示され格段に狙いをつけやすくなる。

 セレクターをセミオートに切り替えた後、一輝はバーチャルスコープの映像を安定させる為に窓枠にバレルを置き慎重に狙いを定め、風に揺れる金属製の的の頭部に照準があった時引き金を引いた。

 弾丸はバレルから飛び出しマズルフラッシュとは別にバレルの側面に設けられた穴からも火花が飛び散り、銃弾は金属製の的に命中すると的は着弾の衝撃で後方に振れ暫く揺れ続ける。


「……肩か」


 頭部を狙ったはずの弾丸だったが、狙いは外れ金属製の的の肩の部分に弾痕が出来ていた。


「まぁ最初はこんなもんだ、百メートルも離れてりゃな……次アルバ撃ってみてくれ」


「はい」


 一輝がいた窓枠とは別の窓枠の前に立ち同じく百メートル程離れた的に狙いをつけ引き金を引くが、弾は明後日の方向に飛んでいき土が舞い上がる。


「あれ?」


 アルバはもう一度構え引き金を引くが、銃弾は的を釣るチェーンに当たり的が地面に落ちた。


「……あの」


「どうした?」


 どこか苦しそうな声で喋るアルバを気にするジョーはアルバに近づく。


「あのこれ……凄く気持ち悪くなるんですけど……」


「あ? あ~……あれだな、バーチャルスコープ酔いって奴だな……スコープ変えるか、こっちのレーザーサイト使え」


 ぐったりしたアルバは銃を渡すと、ジョーはバーチャルスコープを外しレーザーサイトと通常のリフレックスサイトを取り付けるとアルバに返し、アルバは先ほど一輝が使っていた窓枠の前に立つ。

 再び銃を構えカメラのスコープ機能とレーザーサイトを頼りに引き金を引くと見事銃弾は的に当たり、金属音を響かせる。


「よし、射撃の腕はまぁまぁ悪くないって感じか……とはいえ実践だとじっくり狙ってる暇なんて無いからな? という訳で次はそれを予定した訓練をしたいんだが……ん?」


 次の訓練に移ろうとしたジョーは突如言葉を止め、通信に耳を傾けた。


「はいよ、技試隊ベータ部隊隊長ジョー・スカムだ……通信どうぞ」


 〈月見小夜です、火急の件で緊急通信を使用してます〉


「何があった?」


 ただ事ではない雰囲気を感じたジョーはいつになく真剣な表情で受け答えをする。


 〈LOWのステルス空挺部隊が旧Fギアーズ工場に降り、現在かなり圧されている状態です……それにドールの情報も入っているのでジョーさんには現場に向かって欲しいんですが……〉


「一輝とアルバはどうする?」


 〈二人は指令室にて現場がどう言う物か見てもらおうかと……〉


「……いや、二人には来てもらおうかな……百聞は一見に如かずってね……って事で行こうかお二人さん!」


 一輝とアルバの肩を叩きジョーは付いて来るようハンドサインを送り、通信を聞いていた二人は何が何だか分からないままついていく。


 〈ちょっと! いくら何でも危険過ぎます! 徴兵者の訓練は一ヵ月のブートキャンプのみです、銃器の扱いは流石に……〉


「だからそれを実践で学ぼうって話だぜ、それになにも前線に張ってくれという訳じゃない」


 〈……くれぐれも怪我だけはさせない様にお願いしますよ〉


 ため息交じりに小夜がそう言うと、ジョーは通信を切り二人の方を向きとある場所に連れて行った。

 武器庫と書かれた場所についたジョーはアーマーを外し、武器庫の奥にある黒いアーマーに着替える。


「よう、これが俺の専用装備……イージストルーパーだ」


 一輝達が装着しているトルーパーと形は変わらないものの、左手に自身を覆えるほどの楕円形の盾と右手には銃身の長い狙撃銃のような物を装備していた。

 そして背部には弾倉のような物が付いており、その横にはブースターのような物も取り付けられている。


「8.5ミリの弾丸を撃ち出し更に弾倉をリボルバー式からベルト給弾に切り替えれば.308弾を使う軽機関銃にもなる俺一押しの銃だ、こいつで俺はお前らを援護する……間違っても敵を殺す事に集中しすぎるなよ? お前らは殺す事が仕事じゃない、生き残る事が仕事だ……いいな?」


『はい!』


「よし、いい返事だ……じゃあ練習機じゃなくてそこにある実践機に乗ってくれ、武器は携えてるからそのまま乗り換えればいい」


 二人が着ていた青いトルーパーとは別に、オリーブ色に黒いラインの入った実践機が居り、右手にはR2が握られており左手には小さい折り畳み式シールドが装備されていた。

 練習機から乗り換えた二人はアーマーに身を包むとジョーについていき基地の前に止められているトラックの後方に乗り込み運転手がアクセルを踏む。


「……さて、これから戦場だが気を抜くなって言うのと正気は失うな……常に冷静であれ、って言うのだけは忘れないでくれ……じゃあ作戦内容のおさらいを始めるぞ!」


『はい!』

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