第二話 beta squad -ベータ部隊-
一方一輝とアルバはナナに連れられ兵士が待機している場所に連れられ、扉を開けるとソファーと雑誌等がある休憩室の様な場所であり、椅子に座った兵士が気付いたのか振り向き手を振る。
「よ、さっき振りだな」
入り口の前であった茶髪で髭の薄い兵士が二人に声を掛けると、二人は顔を見合わせて声を上げた。
「さっきの!」
「よう、さっきのだ……お前ら、自己紹介」
茶髪の兵士はアイマスクをしながら椅子に座り眠る兵士と、おかっぱで本を読んでいる兵士に声を掛ける。
すると二人は立ち上がり、二人の前に立つと一人一人自己紹介を始めた。
「カレン・ジェニファーだ、ベータ部隊のテスターで主に狙撃を担当してる」
おかっぱで背の低い兵士が二人の前で敬礼し、釣られて二人も敬礼を返すと次にアイマスクをしていた兵士が近づき二人に敬礼する。
「自分は結城拓真(ゆうきたくま)です、同じくテスターでアーマーやスーツ……電子機器などのテストの担当です」
どこか疲れた表情を見せ、無造作ヘアーの伸びた前髪から覗く目は何処か死んだ魚の様であった。
そして最後に茶髪の兵士が親指で自分を指さし、自己紹介を始める。
「で、俺がジョー・スカム……ベータ部隊の部隊長でテスター兼ボマーだ、そっちは?」
「えっと、こっちが一ノ瀬一輝さんで……こっちがアルバ・リジッドさんです……」
ナナが二人をジョーに紹介すると、ジョーはナナの方を見てウインクをした。
「さんきゅ、ナナちゃん」
「は、はぁ……」
困ったような表情でナナは答える。
「所で、お二人は軍学校の卒業生かい? それとも臨時徴兵された志願兵かい?」
「自分たちは志願兵です、LOW反乱を止めるために来ました」
「そうか…………じゃあ訓練も最低限しか受けてないのか……なら俺ら先輩がちゃんとサポートしてやらないとな! な! カレンちゃん!」
ジョーは次にカレンの肩に腕を回し、肩を無理やり組むがそれを見ていた拓真が頭を抱えため息を吐いた。
「先輩、いい加減にしないとまた小夜さんにセクハラで営倉に入れられますよ?」
「え~? これは部下と先輩のスキンシップだよ、スキンシップ……ったく、拓ちゃんは真面目だねぇ……」
渋々離れるジョーだが、カレンは特に気にする様子もなく静かにジョーが肩を組んでいた場所を手で払う。
その様子を見ていた一輝とアルバはひそひそと小さな声で会話を始める。
「なぁ、この部隊大丈夫か?」
「いや……僕に言われても……でも楽しそうっちゃ楽しそうじゃない?」
「……これから共に肩を並べるにはちょっと不安が残る人選だと思うんだけど、俺的にはな……」
戦争中でありながらまるで部活の先輩後輩の様なやり取りを見せるジョー達を見つめる一輝だが、特に結城拓真を見つめていた。
どこかで見覚えのある様なその顔に何かが引っ掛かる一輝はアルバに再び小さな声で話しかける。
「……なぁ、あの結城拓真っていうのどっかで見た事無いか?」
「僕は分からないな……どこにでも居そうな顔だと思うけど、もしかしたら有名人にでも似てたんじゃない?」
「有名人ねぇ……」
ハッキリと思い出せない一輝はモヤモヤとしたまま前を向くと、ジョーが二人の方を見ており手を振っていた。
「お~い……どうしたそんなボーっとして? なんか分からない事でもあったか?」
「え? ……ええまぁ……」
曖昧な返事をアルバが返すとジョーはにっこりと笑い親指で自分を指さす。
「じゃあ今から質問タイムだ! 俺でもこいつ等でも好きなだけ質問してくれ! ……例えばナナちゃんのスリーサイズとかな、俺も知りたいし」
「…………あはは」
ジョーの発言に二人は一瞬固まるが、何事も無かったかのように愛想笑いを返すと一輝は質問を投げかける。
「えっと、じゃあなんで部隊名がベータ何ですか? 普通ブラボーとかの気が……」
「ああ、それは此処が技術開発試験部隊だからな……ベータ版とかっていうだろ? その名残だ……それにここは部隊だけで出撃する事は殆どない、大体どっかの部隊に編入されるからな……ブラボーだと仮に俺ら全部を指して呼びたい時に不便なんだよ」
「な、なるほど……」
先ほどとは打って変わって真面目に解説するジョーに驚いた二人だが、次はアルバが質問を投げかけた。
「自分からは……ここで研究してる技術ってどんな物ですか?」
「どんな物か……詳しくは開発者連中に聞いた方が早いが、基本的に武装ばかりでアーマーやスーツもここで作ってる……最近だとレーザーマシンガンが遂に完成したらしくてな、増幅機構の鏡の精度が上がったお陰だとかなんだとか言ってたな……他には実体刃を持つレーザーブレードもそうだ」
「……まぁレーザーマシンガンはお蔵入りになったんですけどね」
拓真がそう言うと二人は首をかしげる。
「何故?」
「レーザー兵器は中の増幅鏡でレーザーを反射させて増幅させた後に放つんだけど、連射すると増幅が追い付かないんだ……だから殺傷能力に欠けてしまう」
「実際にLOWの頭部に命中した際も、毛根が消失して体表に火傷痕を残すだけに留まった……あんなのじゃ戦闘には使えない、精々バースデーケーキの蝋燭に火を灯すのがやっとだな」
カレンは呆れた口調でそう言うと葉巻を取り出し、火をつけ一服し始めた。
それを見ていたナナが小さく咳払いをするが、カレンは気にせず葉巻を嗜む。
「……所でジョー隊長、こっちから質問するのはありかい?」
「ん? ああいいんじゃないか? カレンちゃん」
葉巻をふかしながらカレンは二人の方を見ると、一輝の顔を覗き込み頬を掴むを顎を持ち上げた。
「……アンタ、リバー街道の銃撃戦に参加してなかったかい?」
「リバー街道っていうと? あのLOWの奇襲作戦を奇襲した……」
一輝は何処か聞き覚えのある言葉に首を傾げ、不思議そうにカレンを見つめるとカレンは何処か引っ掛かるのか目力を強める。
「……似ている……」
「似てる?」
「奇襲作戦の時に狙撃した相手にな……雰囲気が似てた……普段私は対象を取り逃がす事は無いんだがな、そいつだけは仕留め損ねた……そんなアイツと雰囲気が似ている……肩を見せろ、クローンの証拠でもあるCのマークがあるかも知れない」
「Cのマーク⁉ 俺の事疑ってるんですか!」
カレンの言葉に怒りを覚えた一輝は声を荒げると、ジョーはカレンの手を取り間に入ると二人の頬を摘まんだ。
「喧嘩はよせよ……それとカレン、クローンが嫌いなのは分かるがあんまり人を疑ってかかるなよ?」
「……分かった」
ジョーの言葉を聞いたカレンは一歩引き、葉巻を消すとポケット灰皿に入れ仕舞う。
だが背を向けたカレンに一輝は声を掛ける。
「貴女もクローンが嫌いなんですか?」
「……今この国でクローンが好きって奴は珍しいと思うが……まぁそうだな、絶滅させてやりたいぐらいには嫌いだ」
目を伏せながら喋るカレンだが、それを見た一輝は胸に手を当て口を開く。
「俺もクローンが嫌いです、だから俺の肩にCのマークがあるって疑った事……謝ってください」
「ちょっ、一輝落ち着け! お前先輩だぞ!」
上から先輩に命令する一輝に動揺したアルバは、一輝を揺すって声を掛けるものの一輝は引く気が無いのか、じっとカレンの方を見つめる。
「……すまん、悪かった」
一輝の強い言葉を聞いたカレンは振り返ると素直に頭を下げ、アルバはそんなカレンに小さく頭を下げた。
「すみません、顔合わせ初日に……」
「いや、今のはカレンが悪いし……自分もクローン嫌いなんでね、気持ちは痛いほど分かりますよ……ね? ジョー先輩」
「え? あ、ああ……まぁそうだな……ははは、変な雰囲気になっちまってわりぃな……アルバ君」
ニッコリ笑いながら頭を下げていたアルバに近づき肩を組むが、その瞬間部屋の扉が開きクリップボードを持った小夜が現れる。
そして小夜はジョーがアルバと肩を組んでいるのを見ると二人に近づき、小夜はジョーの顔を見て口角を上げるも、目は笑っていなかった。
「ついに男にまで手を出すようになったんですか? ジョーさん?」
「え? 違う違う、これは先輩と後輩のスキンシップで……」
「小夜、そいつは節操無しだ……嘘かもしれん、気を付けろ」
「カレンちゃん⁉ それ誤解だから! 俺ノンケだから!」
焦った表情でアルバから手を離し両手を上げるが、小夜は何処か疑った目でジョーの方を見続けると拓真が小夜に声を掛ける。
「小夜さん、アルファ部隊はまだ帰ってこないんですか?」
「アルファ部隊は……強襲第一部隊のウルフ部隊と共に敵地の強襲中で連絡が付かないんです……一応ウルフ部隊から衛星通信で全隊員の無事は確認されてるそうですが……」
「ベータ部隊が手助けに行く予定は?」
「今の所は強襲第二部隊のジャッカル部隊がいざと言うときの為に控えてます、その間ベータ部隊には任せたい任務が……」
小夜は持って居たクリップボードをジョーに渡すと、ジョーはまじまじと眺めそのクリップボードを拓真に渡す。
「これは拓ちゃんとカレンちゃんだけで足りそうだな」
「そうですね、ジョーさんは二人のトレーニングを見ててあげてください」
「ああ、じゃあ拓ちゃんとカレンちゃんは用意したら特殊潜入第一部隊と合流して、旧Fギアーズ工場を抑えたLOW共を追っ払ってくれ」
『了解』
拓真とカレンは部屋を後にし、ジョーは一輝とアルバの肩を叩くと付いて来るよう命令すると、二人は言われるがまま後をついていき休憩室を後にする。
部屋を出た二人は基地内の廊下を歩いていき、倉庫の様な場所に出るとそこには幾つかの装備と、車両などが置いてあった。
「よし、とりあえず何処まで教わってるか……あと何処まで経験があるか試させてもらうかな……そっちに更衣室がある、アーマーで訓練するから上着は脱いで空いてるロッカーに突っ込んできな」
『了解』
二人は更衣室に向かい、空いているロッカーに上着を放り込むと一輝が口を開く。
「なぁ、あのカレンって人……気に喰わないが、クローンを嫌ってる理由は俺と同じかもな……」
「なんだいきなり?」
突然の言葉に不思議そうな顔をするアルバだが、少し考えた後アルバは話を続けた。
「まぁフォルンの九割は今クローンの事が嫌いだからな……勝てる戦いだった戦争で裏切り行為を働いたせいで、フォルンは敗戦国になった……嫌う理由は分かるには分かるな」
「……煮え切らない答えだな」
「煮え切らないっていうか、僕自身クローンの裏切りどうこうよりテロの方に苛立ちを覚えてるからね……知ってるだろ? 僕の就職先潰されたの……内定貰ってたんだけどな……」
どこか遠くを見ながらうわ言の様に呟くが、ため息を吐いた後一輝の方を見て俯く。
「でも、お前には負けるよ……」
「……俺は今でもたまに夢見るよ……」
ロッカーの扉を閉め、取っ手を強く握りしめながら一輝は恨みの籠った声で呟いた。
「……家に帰ったら両親が血塗れの肉塊になってた事……」
「……あ~、嫌な事思い出させて悪かった……」
「いやいいよ、それが原因で俺に夢もできた……血塗れの夢がな」
一輝は更衣室を後にし、一人残されたアルバは渋い顔をしながら頭を掻きながら口を開く。
「……こりゃ今夜酒飲んで荒れるな、アイツ」
自分が始めた話題で一輝のトラウマを刺激したアルバは一輝の後を追って更衣室を後にした。
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