第二章 liberty of weapon 自由な兵器
第一話 new era -新たな時代-
二千百二十九年、世界最大の侵略戦争と言われたクローン戦争が終結し七年が経過した頃。
半年前からフォルン国内は新たな戦争の火種が生まれ、火種は戦火を広げ国内は未曽有の紛争に国民は震え上がっていた。
半年前、突如フォルン公国にクローンの人権を取り戻すよう匿名の声明が出され、受理されない場合は実力行使によりフォルン公国を消滅させると言うが、公王はこれを拒否し武力には負けないと言葉を残す。
しかし戦後軍縮を行っていたフォルン国軍にLOW(リバティ・オブ・ウェポン)と名乗るテロ組織が宣戦布告をするがこのテロ行為に対抗する戦力は少なく、テロ開始から一ヵ月で死傷者は四千人に上り急遽国軍の募集を開始し戦場は新兵で溢れかえる。
そんな中、技術開発試験部隊の基地の前に停まる一つのトラックがあり数人の男女がぞろぞろと荷台から降りると、基地の中に入って行くが二人の男が足を止め白い壁の基地を見上げ、薄緑色の癖っ毛と青い瞳を持つ男は口を開いた。
「……ついに来たな……アルバ」
男は横に立つ金色の長髪を持つアルバという顔立ちのいい男に話しかけると、アルバは男の方を見て笑う。
「ああ、長かったな……一輝(かずき)」
「……必ず仇は取る」
一輝と呼ばれた男は何かを決心したかのような顔を見せると、軍服を着た兵士が二人に近づき声を掛ける。
「そこのお二人さん? ボーっと突っ立っちゃってどうしたん?」
「え? ああいや、ちょっと感慨深くて……」
茶髪で髭の薄い兵士が話しかけると一輝は少し驚くが、兵士は不思議そうな顔を見せた。
「感慨深い? これから戦場に行くかもしれないってのにか?」
「……まぁ、色々あって」
「……そっか、じゃあまぁ取り敢えずさっさと行って顔合わせてきな……皆もう行っちまったぜ?」
「え? あ、やべ」
「おい待て一輝! 俺を置いてくな!」
既に全員基地に入って行ったのか、一輝は慌てて走り出しその後をアルバが追いかけていく。
基地内に入った一輝はクリップボードを持った一人の女性に呼び止められる。
「一ノ瀬一輝(いちのせかずき)さんとアルバ・リジッドさんですかね?」
「え? ああはい」
「お待ちしておりました、私月見小夜(つきみさよ)司令官の秘書であるナナ・オリビアと申します……」
小紫色の髪を後ろで結い、眼鏡をかけた女性はクリップボードに挟まれている書類に移る顔写真を確認した後、二人に頭を下げた。
「僕ら完全に出遅れたからね、悪い事しちゃったな……」
「おいアルバ、ここじゃ敬語使えって」
「あ、そうだった……」
砕けた口調で喋るアルバを肘で小突きながら一輝は言うが、そのやり取りを見ていたナナは少し不思議そうな顔をして見ており、その視線に気づいた二人は急いで敬礼を見せた。
「あ、遅れてしまってスイマセン!」
「え? いや、あの……それは大丈夫です……けど……」
「……?」
「あの……もしかして……ハジメさんとカトルさんだったり……しないですかね?」
「……あの、俺……自分は一ノ瀬一輝で、こっちがアルバ・リジッド……です」
ナナの質問の意図が分からない二人は少し困惑しながら自己紹介をすると、ナナは少し顔を赤くしながら笑顔を取り繕う。
「あ、スイマセン変な質問して……そうですよね……えっと、今から月見小夜司令官の元に案内します、付いてきてください」
『はい!』
二人は敬礼をし、ナナの後を付いていく。
真っ白な道を歩いていく二人は途中の廊下にある窓から見える実験施設の様な場所を見たり、すれ違う白衣の研究者や作業着の作業者を見たりしながらこの場所についてアルバはナナに尋ねる。
「あの、質問よろしいですか?」
「はい、どうぞ」
「この場所って……その、技術開発試験隊の基地って聞いてるんですが……文字通り開発もここで?」
「はい、半数が開発部でもう半分が試験隊ですね」
「なるほど……ありがとうございます」
「いえ……さあ着きましたよ、失礼します」
廊下を歩いていくと二人は白い自動ドアの前で立ち止まり、ナナがノックし声を掛けると返答は無いものの扉についていたランプが赤から緑色の切り替わり、ナナは扉に手をかざすと自動ドアは開く。
『失礼します!』
二人はナナと共に部屋に入るとすぐに敬礼を見せ、この基地の司令官である月見小夜を見る。
月見小夜は司令室の机に座りながらコーヒーを飲んでおり、積み上がった書類の塔に挟まれながらどこか疲れた表情をしてパソコンに向かっていた。
「……小夜さん? コーヒーの飲み過ぎは良くありませんよ?」
「…………あら? ナナ? いつの間にそこに…………」
「ノックもしましたよ? と言うかコーヒーにばかり頼らないでください、体に悪いですよ?」
ナナはそう言うと小夜の持って居る紙コップを奪い、別の机に置くがコーヒーを奪われた小夜は何処か悲しそうな表情を見せる。
「昨日の夜も仕事してたんですか? 余り無茶をするのは良くないですよ、偶には私を頼ってください」
「…………仕事なら良かったんだけどね」
「ん?」
「いえ、何でもないわ」
一輝とアルバが目に入ったのか小夜は椅子から立ち上がり二人の方に歩み寄ると顔をまじまじと見つめ、小さく呟く。
「ハジメさんにカトルさん…………」
「違いますよ小夜さん……確かに似てますけど」
「そっくりね…………私は月見小夜、ここの司令官をしているわ……よろしく」
「はっ! 自分は一ノ瀬一輝です!」
「自分はアルバ・リジッドです!」
二人は今一度敬礼を見せ、大きな声で自己紹介をするもそれを見ていた小夜は何処か眉をひそめ、二人の顔を見る。
「……やっぱり違和感があるわね……二人とも、ここでは砕けた口調で構わないわ」
「く、砕けた口調?」
軍部拡大の為最低限の訓練と口調を短期間で叩き込まれた二人は小夜の提案に驚き顔を見合わせるが、小夜は二人に優しくその訳を伝えた。
「ここじゃ階級で呼び方を変えるのを止めさせてるの、ただでさえ新兵も多いし研究者技術者などの階級の無い人も溢れかえってるしね……だから普通で構わないわ」
「……わか……りました」
砕けた口調を試そうとする一輝だが、ギリギリで敬語がくっ付いてしまい小夜は微笑む。
「少しずつ慣れて行けば大丈夫、じゃあ顔合わせも程々に貴方達が入るベータ部隊と顔合わせをして来て頂戴……ナナ、案内お願いするわ」
「はい、分かりました」
ナナは二人を連れて行き、小夜は一人になった部屋の中で紙コップにコーヒーを注ぎ机に向かう。
パソコンの画面には海斗が所持していたタブレットに保存されている写真が写っており、その中にあるハジメとカトルの顔を見ながらため息を吐いた。
「LOW(リバティ・オブ・ウェポン)……その構成員の殆どはクローン……である……」
本部から送られてきた報告書を読みながら小夜はコーヒーを飲み、再びため息を吐く。
「……あの二人がこんな馬鹿な戦いを仕掛けるとは思いたくはない……けど……」
一人部屋の中でかつての仲間が今何をしているのか思いを巡らせながら、小夜はコーヒーを飲み干した。
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