第472話~王宮宝物殿 海賊に襲撃される~

 トリトンの町に帰還した夜。

 明日の謁見に備えて俺たちはゆっくり寝た。


 今日はリネットの日だったので二人で過ごした。

 明日は海底王との謁見が控えているので夫婦生活はほどほどに切り上げて、トリトンの町の夜景を見ながら二人で仲良くお酒を飲んでいた。


「ホルスト君、明日のこともあるしそろそろ寝ようか」

「そうだな。寝るか」


 そのうちに夜も更けてきたので寝ようかと思った時に異変が起きた。


 ドゴーーーーーン。

 突然、巨大な爆発音が起こったのだった。


 その音と振動は強烈で、地震が起こった時のように俺たちが宿泊している迎賓館まで揺れた。


「リネット!」


 俺はとっさにリネットを庇ってリネットの上に覆いかぶさるように抱き着く。

 しばらくそのままでいると爆発音は消え、揺れも収まった。


「リネット、大丈夫か?」


 少し事態が収まったところでリネットに確認すると。


「アタシは大丈夫だよ」


 リネットに怪我はなさそうだったのでほっとした。

 その後はリネットと二人で寝室を出て他のメンバーたちの安全の確認に行く。


「エリカ!無事だったか?」

「はい、旦那様。私たちは大丈夫です」


 俺たちが外へ出ると、他の嫁たちと子供たちは既に部屋を出て迎賓館のホールに集まっていた。

 見る限りでは誰も怪我とかはしていなさそうだったので、俺としては安心だった。


「あら、ホルスト君たち、大丈夫だったの?」

「おお、お前たちも無事だった」


 ホールへ出てしばらくすると、セイレーンとヴィクトリアのおじいさんも合流してきた。

 二人とも大丈夫そうな様子だったので、無事でよかったと思った。


 メンバーの無事を確認できたところで、俺が迎賓館を出て外の様子を確認することになった。


「お!すげえ慌ただしいな」


 迎賓館を一歩外へ出ると、そこには兵士たちが慌ただしく駆け回っている姿があった。

 皆何も言わずにひたすらに走り回っている感じだった。


 これは相当混乱しているな。

 そう思った俺は下手に騒ぎに巻き込まれないようにするため、この場を離れずできる範囲で情報収集をすることにする。


「『神強化』 神耳しんじ発動」


 神耳を発動し、聴覚を高めて現場の声を拾うことにする。

 その結果。


「大変だ!王宮の宝物殿が襲われたぞ!」

「海賊共がやって来たぞ!」

「海賊共はどうした!」

「宝物庫を襲った後、すぐに逃げ出したという話だぞ」


 という情報を拾うことができた。


 どうやら海賊に宝物殿が襲われて大混乱!ということのようだった。


 それを知った俺はこう考えた。

 詳しい状況が分からない状態で俺たちがどうこうしても意味がないな。それよりも、状況が落ち着くまでは大人しくしていよう。

 海賊はとっくに逃げ出したみたいでこれ以上被害が出ることも無いだろうから、万が一に備えて迎賓館のホールにみんなで集まって夜を過ごすことにしよう。


 そう考えた俺は、一旦迎賓館に帰るとみんなに今の状況を伝え、事態が落ち着くまでホールで待機することにしたのだった。


★★★


 結局、朝まで俺たちはホールで待機した。

 夜中の出来事だったので迎賓館にも夜勤の職員さんしか残っておらず、備品を借りることも困難だったので、自分たちのベッドやソファーを並べてそこで休んだ。


 それで、朝になると宮殿から海底王の使者がやって来て、「今から海底王陛下と謁見していただけませんか」と申し込んできた。


 一応予定では昼からの謁見という話だから随分早くなったものだが、それだけ緊急事態で俺たちと会いたいということなのだろうと思う。


「わかりました。それでは海底王陛下と謁見しましょうか」


 事情を理解した俺たちは謁見を了承し、海底王と謁見することにしたのだった。


★★★


「ホルストよ。よくぞ来てくれた。そなたもある程度気がついていると思うが、昨日王宮の宝物殿が襲われたのだ」


 俺たちが謁見の間に入るなり、挨拶もそこそこに海底王は用件を切り出してきた。


「それでの。そなたたちに渡すはずだった『王家の徽章』も盗まれてしまったのだ」

「『王家の徽章』まで盗まれたのですか?」

「うむ、その通りじゃ。いくら夜中で警備が手薄だっとはいえ、町の結界を破られ、宝物殿まで襲われるとは我ながら情けないことじゃと思う」

「え?町の結界と言うとセイレーン様の結界ですよね。それまで破られたのですか?」

「破られたというか、正確には一時的に作動を停止させられたという方が正しいな。どうも曲者が結界の管理室に侵入して結界を切ったみたいじゃな」

「なるほど、そういうことですか」


 要するに町の結界が切られたところに海賊団が襲ってきて『王家の徽章』をはじめとする宝物が奪われたという訳か。


 中々巧妙な手口を使う海賊団だ。

 海賊団と言うと、もっと脳筋で力任せに行動すると相場が決まっているのに割と策士なことをする海賊団である。


 それはともかく、『王家の徽章』が奪われた以上それを取り戻さなければな。

 海底王もそのつもりで俺たちを呼んだのだろうし。


 ということで、海底王にこう聞いてみた。


「それで、海底王が私どもをここへ呼んだのは、私どもに『王家の徽章』を取り戻してほしいという訳でしょうか?」

「その通りじゃ。『王家の徽章』は王家の権威を象徴する物。本来ならば王国が全力を挙げて取り戻さなければならぬところではあるが、今回の事態を見てもわかる通り、我々だけでは『王家の徽章』を取り戻すことは難しいと思う。そこで、ホルストよ。そなたたちに『王家の徽章』の奪還を頼みたいのじゃ。引き受けてもらえぬか?」


 この海底王の頼みを聞いた俺は、頼みを了承することにした。

 なぜなら『王家の徽章』を取り戻さない限り、俺たちも前へ進めないからだ。


「わかりました。必ずや『王家の徽章』を取り戻してきましょう」

「おお!引き受けてくれるか」

「はい!それで、『王家の徽章』を盗んだ海賊団について心当たりはあるのでしょうか?」

「それについては今調査中である。結果が分かり次第そなたらに伝えるつもりであるが、一番の有力候補は『幽霊海賊団』であるな」

「『幽霊海賊団』?」


 どうやらそれが俺たちの敵の様だった。

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