第471話~ホルスト トリトンの町の商人たちの英雄となる~

 暗黒海竜を討伐した俺たちはトリトンの町へと帰還した。

 帰り道は行きとは異なり、晴れやかな気分で帰ることができた。


 なお、使い捨てにするつもりだった機械魚の回収に成功したので、それを潜水艦に並行して走らせながら帰っている。

 というのも、ネイアが機械魚に乗った感想をみんなに話したところ皆も一度乗ってみたいと言い出したからだ。


 機械魚はうちのメンバーに割と好評だった。


「旦那様!旦那様!この機械魚という乗り物、すごく乗り心地が良いですね!」

「ホルストさん!ホルストさん!機械魚のこの水中を疾走するという爽快感堪らないですね」

「ホルスト君!この機械魚の感触。馬に乗っているようでとても良いね」


 エリカ、ヴィクトリア、リネットの三人は機械魚に興奮しっぱなしだった。

 子供のように顔をキラキラさせながら機械魚に夢中になっていた。


 そんな三人を見て俺は思う。

 こんなにはしゃぎまわる三人も、これはこれでかわいいな、と。


「あら、この機械魚って中々いいわね」

「うむ、確かに馬を乗り回しているような感じで独自の疾走感があって良いな」


 機械魚のことを知っていると言っていたセイレーンとおじいさんも機械魚に乗るのは初めてらしく、無邪気な顔で喜んでいた。

 こんなものでここまで喜んでもらえるとは、俺としても考えていなかったので、意外な結末になって良かったと思う。


「キャー、ホルスターちゃん。このお魚さん、すっごいねえ」

「本当だね。すごく気持ちいいね」


 うちのメンバーの中で特に機械魚を気に入ってくれたのは銀とホルスターだった。

 荷物箱の座席から一生懸命縄を使って機械魚を制御しながら、嬉しそうに笑っている。


 意外なことにこの二人、機械魚の操縦が結構うまい。

 大人たちよりも上手く操縦で来ていると思う。


 機械魚は機械だから指示した通りにしか動かないので素人でも操縦しやすいし、子供だから大人よりものみ込みが早いのだと思う。


「なあ、ホルスターに銀。町に帰っても、時々この機械魚で遊びたかったりするか?」

「「うん」」


 町に帰っても乗りたいというくらいには気に入ってくれたようなので、町に帰った後も暇があったら二人を乗せてやりたいと思った。


★★★


 さて、そうやってのんびりと潜水艇と機械魚を走らせているうちにトリトンの町へと到着した。

 町へ着くなり町の門番に暗黒海竜の死骸を見せ、「海底王陛下にご報告したいのだが」と、用件を伝える。


「はっ。すぐに伝えて参りますので、少々お待ちください」


 俺たちの要請を受け門番はすぐに連絡を取ってくれた。そして三十分後。


「ホルスト様、初めまして。私はクッキーと申します。海底王陛下の使者としてやって参りました」


 海底王の使者がやって来たので、俺は使者の人に話を聞くことにした。


「それでどうなりましたか?」

「すぐにでも約束の物を渡しても良いのですが、できたら明日にしてほしいという話でした」

「明日?なぜですか?」

「例の物を渡す際にできたら盛大な引き渡し式を行いたいそうなので、その準備のために少しお時間をいただきたいそうです」

「ふむ、そういうことですか」


 使者の説明を聞いた俺は納得した。


 つまり『王家の徽章』を渡す儀式を盛大にすることによって、強敵である暗黒海竜を倒したことをアピールし、さらには自分たちがセイレーンの神命を果たしていることもアピールして王家の権威を高めたいのだと思う。


 まあ国民の支持を得ることは王家にとっては重要な事だろうから、そこまで急いでいるわけではないし、王家の権威向上に協力してあげても良いと思う。

 ということで、俺は了承することにした。


「わかりました。海底王陛下にはよろしくお伝えください」

「はい。それでは陛下にお伝えします」


 これで話は終了だった。

 これで明日までは暇なので別の用事を先にすることにする。


 ちなみに、暗黒海竜の死骸は海底王の使者に引き渡しておいたぞ。

 町の広場かどこかに置いておいて王家の力をアピールするのに使うつもりらしかった。

 それを聞いた俺は、王様って色々と気を使わなくちゃならなくて大変だな、と思うのだった。


★★★


 王家の使者と対面した後は商業組合へ行った。

 暗黒海竜の巣で見つけた暗黒海竜に襲われたであろう商人たちの物資の残りを届けるためだった。


 まあ、あそこにあった分だけでそんなに量があるわけでもないが、海底の商人たちに少しでも損害を減らしてほしいと思ったので届けることにしたのだった。


「レオナルドさんに面会したいのだけど」


 商業組合の受付で責任者のレオナルドさんへの面会を申し込むと、すぐにレオナルドさんは出て来てくれた。


「ホルスト様、今日はどういったご用件でいらっしゃったのでしょうか」

「実はさっきアリババ砂漠で暴れていた暗黒海竜の討伐から帰って来たのだけれど、そこで暗黒海竜が襲ったであろう商人たちの物資を発見したんだ」

「それは本当ですか!」

「ああ、本当だよ。ただ物資を出すにはここでは狭いから、倉庫に場所を移そうか」

「はい、お願いします」


 話し合いの結果、俺たちは倉庫に場所を移して品物を出すことにした。


「ヴィクトリア」

「ラジャーです」


 俺の指示でヴィクトリアが回収してきた物資を倉庫に並べる。

 暗黒海竜の巣で見た時には少しくらいしかないと思った物資だったが、こうして倉庫に並べてみると結構な量があるように感じられた。

 その物資を見てレオナルドさんが驚いた顔になる。


「ホルスト様。こんなにもたくさんの物資を回収していただけたのですか?」

「まあ、食料とかは暗黒海竜に食べられていたみたいだから、武器とか金属のインゴットとか食べられそうにない物だけだけどな。後、時間がなかったので巣の中しか確認していないぞ。悪いな。これくらいしか回収できなくて」

「いえ、何をおっしゃいますか。誰が暗黒海竜の巣などという恐ろしい場所へ行ってこんなにもたくさんの品を回収してくれるでしょうか。本当にありがとうございます」


 あまり多く回収できなかった俺たちに対して、レオナルドさんは何度も頭を下げ、お礼を言ってくれるのだった。


 そんなに頭を下げてくれなくてもよいのに。当然のことをしただけなのに。

 俺はそう思いつつも、「いや、人として徒然のことをしたまでです」と、何度も繰り返して言い、何とかレオナルドさんの感謝の言葉に対して返礼することができたのだった。


★★★


 その後は暗黒海竜の被害を受けた商人たちが集められて商品の返却作業が行われた。

 自分たちの大切な商品が返ってきた商人たちは大喜びだった。


「やったああ。もう絶対返ってこないと思っていたアダマンタイトのインゴットが返って来たぞ」

「俺は軍に納める予定だった武器が返って来た。これで軍に違約金を払わずに済みそうだ」


 そんな風に大声で損害が少しでも減ったことに感謝していた。

 そして、一通り感謝をした後は俺たちにお礼を言って来た。


「『セイレーン様の戦士』様、ありがとうございます。これで店が赤字にならずにすみました」

「私どもは莫大な損失を抱えて夜逃げまで考えていたのですが、どうやらそこまでしなくてすみそうです。本当、感謝の言葉しかありません」


 そう言いながら次々に俺たちに頭を下げてくるのだった。

 そこまでは良かったのだが。


「是非お礼をさせてください」


 とまで言って来たので、さすがに俺たちも面食らってしまった。

 そんなつもりでやったわけではないので、当然断った。


「いや、別にお礼とかは大丈夫です。それよりも返ってきた品物で少しでも早く生活を立て直して、家族においしい物でも食べさせてあげてください」


 そう言って断ったのだが。


「本当にあなた方は神の使いだ。わかりました。そこまでおっしゃっていただけるのなら、生活を立て直した暁には是非お礼をさせてもらいます」

「いえ、だから結構です。俺たちにお礼をしていただけるのなら、その分を貧しい人たちの生活のために神殿にでも寄付してあげてください」

「おお、さすがは『セイレーンの戦士』様。素晴らしいお考えですな。あなた様方こそ、トリトンの町の商人たちの英雄様です!我らが被害を回復した暁には、是非そうさせてもらいます!」


 それでもお礼をしてきそうだったので、結局立ち直ったら貧しい人たちに寄付をすることに落ち着いたのだった。

 これで損害を受けた商人たちは救われるし、貧しい人たちにも救済の手が差し伸べられると思うので、結果オーライだと思う。


 本当よいことをした後は気持ちがいいなあ。

 俺は心からそう思ったのだった。

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