第5話

 ガードをしている大河くんに黒歴史がぶつかる。


「当たったな。お前は野球の試合でスライディングしてきた選手にズボンを下げられて、大勢の前で下半身丸出しになったな」


 なんて恥ずかしいエピソード……僕は自分の身にそれが起きたらと思うとぞっとしてしまう。


「それがなんだっ!裸は恥ずべきものではないっ。人は生まれたときは裸で生まれてくるのだからっ」


 すごい防御力だっ。そのポジティブさはむしろ魔女にカウンター攻撃を食らわしている。


「ぐふぅ」

 魔女が大河くんのカウンターを食らって痛そうにしている。


「こいつはヤバイ……では次はお前だ」

桂さんを見る。

「うーん……止めておこうかな……」


 うわっ。完全無欠の桂さんを見て諦めた!大河くんに攻撃したときみたいになりたくないんだ。


「ではお前だ!」

 今度は丈くんを見据える。


「メガネだし、お前はいけそうだ」

 丈くんに向けて黒歴史を放つ。


「甘い」

 丈くんはそれを微動だにしないで受け止める。全く効いていない。


「なにぃ。どういうことだ?」


「俺は頭の中を全て計算で満たすことで、何も余計なことを考えなくて済むようになっている。黒歴史なんぞに入り込む隙はない!」


「なんだって……ぐふぅっ」

 またダメージを受ける魔女。


 みるみるうちに魔女が弱っていく。これなら倒せるかもしれない。


「いや。お前らふたりは他に比べると弱そうだ。黒歴史に落としてやる」

 魔女は僕とにいなを見て黒歴史を飛ばしてきた。


 にいなはダンスで鍛えた鮮やかなステップで黒歴史をかわしていく。


「ちょこまかとウザイ」


 いらいらした魔女はにいなに集中的に黒歴史を放っていく。それを全部避けるにいな。


 にいな、いけるよ。


 そう思った次の瞬間に、にいなが着地したところにぬかるんだ土があって、滑って転んでしまった。そこに魔女が放った黒歴史が襲いかかろうとしている。


「危ないっ!」

 身を呈すれば、にいなを庇える。行く?行かない?……行くしかないだろっ!!


 僕はにいなの前に出でその黒歴史を受け止めた。当たった勢いで僕は飛ばされる。


「平太っ……!!」


 飛ばされた僕を見てにいなが目を手で覆う。


 なに?……はっ?


 僕の制服のお尻の部分大きな穴が空いてお尻が丸出しになってしまっていた。


「うわぁ!」

 はっ恥ずかしいっ……。


「はははっ。格好つけて女の子の前でお尻丸出しになっちゃって……黒歴史決定だなっ!」

 魔女が嬉しそうに言ってくる。


 なんだと。言い返すか?言い返すに決まってるだろ。


「そんな訳ない!こんなことより、好きな子一人も守れなかったほうがよっぽど黒歴史だっ!」


「なんだと……?」

 魔女が凄んでくる。


「平太……!」


 横からにいなが僕に勢いよく抱きついてくる。


「にいな!?」


「ありがとう平太。……わたしもいつも自分のことよりわたしを心配してくれる優しい平太が……好き」


そして僕のほっぺにそっとキスをしてきた。


「え!?」


 ほっぺに感じた柔らかい感触にビックリしてにいなを見る。にいなは少しはにかみながら僕を見る。


「恥ずかしい記憶だって、ハッピーな出来事と混ざれば、それはもう黒歴史じゃなくなるよね?」


 僕の顔からプシューっと湯気が上がる。

 しっ……幸せだっ!!


「なんだとっ!黒歴史がー消されただとっ!!そんなことあってたまるかーーーーー」

 魔女は叫んでいたけれど、力が失われて行くのが目に見えてわかる。そして体がチリとなって溶けていく。


 僕らの攻撃により魔女は消え去った。


 その後、魔女が消えてたくさんの人々が突然黒歴史に襲われることはなくなった。後遺症が残っている人が時々襲われてしまうけれど、それも大したことはない。概ね世界は良好だ。


 そして僕とにいなの仲も良好だ。お尻に穴が空いた制服も二人の思い出として大切に取ってある。




『にいなルートハッピーエンド:黒歴史はラブに消える』




 この世には黒歴史がたくさんあって僕らはいつそれに襲われるかは分からない。


 でも、それが黒歴史になるか、ならないかは君の選択次第。

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黒歴史から逃げろ 村崎 キコ @tamanegipon

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