第6話
シンデレラストーリー、最近の女子は男勝りになり、自分の手で華麗な人生を掴む者も出てきたが、これを夢見る女子は未だに多いのではないだろうか。そして、この皆婚制度にそれを夢見る女子たちも居た。
「おはようございます」
と幸子が何時ものように、スーパー秋葉堂に出勤してきた。売り場主任の優斗が
「おはよう、今日も笑顔がいいね・・・」と幸子を褒める。
山田幸子・二十七歳、名前とは裏腹に、幼い頃良心を事故で亡くし、施設で育った幸せ薄い女であった。何よりも悲しいのは両親の記憶がないという事であった。施設でも仲の良い友達は出来ず、頼れる先生たちとも巡り合えなかった。
そうした境遇にあって、確かに居たであろう両親が、きっと自分に幸せになって欲しいという願いを込めて付けたくれた幸子という名を頼りに生きて来た。もちろん、その願いをかなえる方法を自分で探すことも出来ず、今のところ幼い頃に読んだにシンデレラが唯一の頼りであるったし、学生時代に運命の出会いはなく、、勤め先であるスーパーにそれがあるハズもないことを思い知らされていた。そして、そんな時に皆婚制度が出来たのである。あれから三年という歳月を首を長くして待っていた一人だろう。
意外にも売り場主任の優斗も立場は違えど同じように皆婚制度を待ち望んでいたので、二人の間では常に、皆婚制度の話で盛り上がっていた。
「主任、やっと半年切ったね・・・」
「という事は俺は、後五か月切ったってこったな・・・えへへ」
誕生日が一か月早い事を自慢する優斗であった。
「ずるいな・・・」
「まあ、早い者勝ちだね・・・しょうがないよ。諦めな!」
と別に威張ることでもないけど上から目線で嬉しそうに話す。
制度は四月一日スタートなので、最初に召集令状が届くのが四月一日生まれの男女となる。もちろん、早ければ良い条件になるということはない。選考方法は極秘事項であり、本当にそうなのかを知ることは出来ないが。全てをコンピュータに任せているので政府が細工をすることは出来ないようだ。
岸田翔太、二十七歳、分け合って高校中退してから、フリーターとして仕事を色々変えて今は十種類目のコンビニアルバイトとして「今日はココから」で働いて間もなく一年となる。総理のご子息から一文字足りない名前で、バイト仲間から「一文字は大きいな・・・」と最近冷やかされている。
彼は親と相性が悪く、それが元で学校を勝手にやめて家を出ていた。しかし、学歴優先の現代社会では、中卒の就職先は厳しいものがある。最初は学歴が関係ない大工やとび職など職人系の仕事に就いたが、元々そっち系ではないので長続きはしなかった。
せめて高校だけでも無理して出ていればと思わなくもなかったが、当時は分からないことであり仕方ないと思っている。とは言え、家族を作って幸せに暮らしたいという思いは断ち切れなかった。
本来、こんなどうしようもない境遇の男に嫁さんが来ることはない。しかし、この皆婚制度では、そういう諦める状況の人たちへも幸せになれる門戸を開いたという事になる。皆婚法がニュースで紹介された時、翔太は大いに喜んだのであった。
あれから随分と明るくなった。そして、今ではコンビニで人気の店員となっている。
実は、この皆婚制度もう一つ大きな目的は雇用拡大であった。それは、この制度が単に結婚をさせることが目的ではなく、死ぬまで添い遂げさせることが隠れた目的だからである。少子化対策と孤独防止、結婚を通してこの二つを実現しようという制度なのである。
仮に、どんなに愛し合って結婚したとしても、今や三分の一が離婚してしまう。これには二つの理由がある。一つは相手を間違えたということ。そして、いま一つが運用を間違えたということ。
この皆婚制度が画期的なのは、この二つをあらゆる方法で改善させる点にあった。一つは相手選びをビッグデータを活用することで最適な相手を選別することであり、もう一つは、結婚してからも夫婦関係を徹底的にサポートする仕組みを作っていることである。
本来それは、主に夫婦の親たちが担う役割となるべきだが、それが担える親たちが日本には少な過ぎるのである。熟年離婚という言葉が証明していると言える。夫婦が円熟するときに分かれるとは言語道断であり、それまで一体何をやってたの?というお粗末な結婚生活を送っている人が多いのです。
仮に離婚まではせずとも、体裁を気にした仮面夫婦も多いわけで、きっと、夫婦関係が破綻している組数で考えれば、半分以上は離婚していると言っても良いのではないかと思います。貴重な人生を無駄に使うのが得意な日本人らしいと言えばそれまでですが、離婚もしない、関係修復もしないという「しない族」ばかりなのではないかと思います。
もちろん、いくら話してもどうにもならないことはあるかもしれませんが、しかし、概ね恋愛結婚をしているのであれば、それは防げるし防がなければいけない。もしダメだと分かったら、早々に次へと進まなければいけないのです。何故なら、人生は長いようで実に短いから。
ザ・タイムリミット 瀬田 乃安 @setanoan
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