忘れられた城
ラーさん
忘れられた城
其れ汝ら
忘れられた城に待て
其れは慈悲あまねく神の御座
空は高く建てられ
壁の如き雨が
大地は深く穿たれ
堀の如き河が
其れは汝らを守るだろう
惑わさんとする者たちの不信の悪から
降りゆく夜の
追われし者たちの嫉妬の悪から
明けゆく朝の天啓を疑う悪から
其れ汝ら
忘れられた城に待て
実りの糧に満たされた
慈悲あまねく神の御座にて――
『第十三番聖典』黎明章より
***
――どうして城は人々から忘れられてしまうのか。
イーリア教の聖典の最終巻である『第十三番聖典』、その最終章である黎明章の章句を頭の中で諳んじながら、私はその疑問に囚われていた。
『第十三番聖典』は黙示録である。
この「忘れられた城」が示す意味は正しき
けれど人はそれを忘れてしまう。
神にそれを見透かされているように。
「
そう名付けられた核弾頭搭載の極超音速ミサイルが、私の操縦する戦闘爆撃機から発射された。
噴射ガスの光跡が闇夜を切り裂く。音速を遥かに上回る速度で飛ぶ
これは
それを知りながら、私は発射ボタンを押したのだ。
命令だった。
命令だったから。
「
急速回頭で空域を離脱する。
機体がいつもよりぐらついた。
操縦桿を握る手が震えている。
自然にスロットルレバーを押していた。
この
「城に守られることのない
私たちはどこで何を間違えたのか。
最初は小国間の小さな紛争だった。
不確定な国境線を争う小国同士の諍いは、けれど大国同士の勢力圏の境界にある緩衝国の間で起きた戦いだった。
この戦いが永遠に拮抗したものであったなら、
私はこの命令を受けた後、イーリア教の従軍神父を訪ねた。
「私は
神父は答えた。
「これは
力強い神父の説得。
こうして人は神を騙り、人の為したいことを為す。
だから私は
――其れは汝らを守るだろう
惑わさんとする者たちの不信の悪から
降りゆく夜の
追われし者たちの嫉妬の悪から
明けゆく朝の天啓を疑う悪から――
私の頭の中で繰り返されるその章句は、私たちの運命を教えてくれるような気がした。
私たちは、惑わさんとする者たちの不信の悪に負け、降りゆく夜の
「慈悲あまねく神よ――」
風防のバックミラーに夜の地平を裂く閃光が走るのが見えた。
地平線を輝かす黎明のような光。
けれどそれは
「私たちは
黎明の天啓なき現世。
その夜の
忘れられた城 ラーさん @rasan02783643
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