第5話 今宵ラブコメデスゲーム!

「なんだよ! なんなんだよ、これ!」


 悠の腕の中で志乃が消えていく。

 浸食は肩口を越えて、胸辺りまで迫っていた。

 そんな中、志乃が薄っすらと目を開いた。

 その目はすでに、自らの運命を察知していた。

 わかるのだろう。消えていく本人には。


「本当はね。私、悠くんのことが好きだったんだよ……。だから君に投票したんだ。悠くんにとっては、ずっと恋愛対象外だったと思うけれど……ね?」

「――志乃さん!」


 そこからは一瞬だった。

 浸食は全身に広がり、少女は空気の中に溶けるように消えていった。


 ――北川志乃、死亡。


 まるで理解できなかった。

 残された7人は、突然の出来事に呆然とするしかなかった。

 ただ悠の脳裏には、一つの言葉が自然と浮かび上がっていた。

 さっき一度は思い浮かべていた言葉。

 

「――デスゲーム」


 その言葉をはっきりと口にしたとき。

 悠の中に当初からあった違和感が消失した。

 非日常な世界。閉鎖空間。異常な神的存在。ゲーム的状況。

 これはデスゲームの舞台なのだ。


「返せよ……、志乃さんを返せよ、この野郎!」

『うーん。死んだ人を蘇らせようとするなんて生命への冒涜ダヨネェ〜』

「お前が言うな!」

『あらー、反抗的だねー。神様を冒涜すると痛い目を見ちゃうよー』

「何を――ッ、痛ッ」


 右手に激痛が走った。

 思わず手首を左手で掴んで持ち上げる。

 右手の中指が無くなっていた。


『はい。こんな感じでね。まぁ、今回は戻してあげるけど。はい』

「――っ!」


 中指は一瞬で元通りに戻った。

 

『まあ、そんなわけで、皆さんご明察。この恋愛シミュレーションゲームはデスゲーム風味なんですぅ。さっきみたいな投票を繰り返して、【⑤最後に残ったカップル一組だけが生き残れる】、ってわけ。いやー、生き残ったカップルにとってはまさに大恋愛! 素晴らしい恋愛ゲームでは、あ〜りませんか!』


 そう言って神チューバーいざなみんは腹の底から愉快そうに笑った。


「……狂っている」


 柊真が歯ぎしりする。


「ちょっと待てよ!」


 その時、大きな声を出したのは三宅誠司だった。

 何かに気づいたように叫ぶヤリチン。


「じゃあ何か? このまま結城と神崎が両思い続けたら、二人が生き残って、他が死ぬってか? なんだよそのクソゲー!」


 たしかにそうだ。

 そんなのゲームでもなんでもない。


『やだなぁ、そんな面白くないこと、この神チューバー様がするはずないでしょ〜。そのためにルール④があるんだからぁ〜』

「ルーム④?」


 その時、天井ディスプレイの中にある黒板に最後のルールが、書き足された。


 ――【④同じ相手に2回連続投票してはいけない】。


『つまり、第2回投票では結城美那は神崎柊真に、神崎柊真は結城美那に投票できないってことだニャー! どう? 盛り上がってくるでしょ〜!』


 思わず顔を見合わせるカップルの二人。

 さっき祝福されたはずの関係性。

 でもそれは、断ち切られることが約束された関係性。

 このゲームの中では、少なくとも。


 悠は考えを巡らせる。

 生き残るために。

 ずっと好きだった幼馴染を手に入れるために。


 一方で、柊真は厳しい立場に立った。

 柊真は次で美那以外を選ばねばならない。

 しかしゲーム最後の選択になれば彼は美那を選ぶであろうことは、先程の様子で皆の知るところとなった。

 それなら他の女子にとっては柊真を最後の男子に残すことは

 だから生き残りたい女子は柊真を先に消す必要がある。

 つまり次のターンで柊真は女子から選ばれる可能性は低い。

 もちろん逆に先に美那が死ねばその限りではない。


『では30分後に2回目の投票を行います。それまでは皆様ご歓談の程を〜』


 呑気な声でアナウンスが流れる。

 つまり30分、腹の探り合い――コミュニケーションの時間があるということだ。


『――なお、次のカップルには一気にジャンプアップ! プレゼント企画で「唇にキス」をしてもらうヨォォォ〜!』

「なっ――」


 一同が絶句する。

 それがファーストキスになる人間だって、ここにはいるのだ。

 悠自身のように。


 悠は思考を加速させる。

 顔を上げる。

 悠、久遠会長、誠司、柊真、それぞれの視線が交錯する。


 現在女子3名、男子4名。

 男子を生かしうる女子の票は3票しかない。

 だから次に死ぬのは男子4名のうちの誰かである可能性が極めて高いのだ。


 生き残るためには、そして美那と最後にカップルとして残るためには、上手く票の動きを誘導するしかない。

 お互いの腹の中を探りながら。

 そして、自分以外の誰にも、美那とはキスをさせない。


『それではチュートリアル終了! 今度こそ始めるとしましょう〜! ネトリネトラレ、フリフラレ、今宵ラブコメデスゲームの開幕開幕ぅ〜!』


 そして今、男女を結ぶ、歓談の時間が始まる。



 <開幕編 完>


 ★☆あとがき☆★

 コンテストの上限が1万字なので、一旦ここまでとします。

「オラオラ〜、続き書けよ〜!」って方は、下の「★で称える」から★3つを投げていただけると嬉しいです。(●´ω`●)ノ

 お読みいただきありがとうございました!

 m(__)m

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ネトリネトラレ、フリフラレ、今宵ラブコメデスゲーム!〈開幕編〉 成井露丸 @tsuyumaru_n

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