第4話 告白は死を連れて
『投票タイム終了〜! わー、パウパフパフ〜!』
天井で「いざなみん」のアバターが踊る。
ちなみに、全身が映ると四等身くらいで、幼女みたいだ。
悠は深くため息をついて周囲を見回す。
生徒会長は落ち着いている。
その他は皆どこか恥ずかしそうだし、落ち着きがなかった。
強制されたことだとはいえ、それぞれが「好きな相手」の名前を書いて入れたのだ。
自分の異性に対する好意を晒すのは恥ずかしいものだ。
「ここにいる異性4人の中で」という限定があったとしても。
そして万が一、両想いであればそれが発表されてしまうのだ。
もし両思いだったらどうしよう。
それはきっと嫌な気のしないことなのだろう。
やがてドラムロールが鳴り響いた。
『第一回目の投票から、なんと一組のカップルが誕生したニャーン! 素晴らしいニャーン! 青春だニャーン!』
ウキウキとした様子で仮面の少女が踊る。
誰だろう?
どこか予想はしながらも、その予想が外れてほしくて悠は分からないふりをする。
だけど部屋に鳴り響いたアナウンスは残酷だった。
『そのカップルは結城美那と神崎柊真の二人だニャー! おめでとうございます〜!』
その予感は現実になった。
少女はどこか恥ずかしそうに隣の柊真を上目遣いに窺う。
悠の親友は恥ずかしそうに頭を掻いた。
ずっと好きだった幼馴染――結城美那は、自分の親友を選んだ。
悠はただ朦朧とする頭をなんとか支える。
下腹部に膨れ上がる黒い塊を感じながら。
『では、プレゼント企画だニャー。両思いカップルにはお互いにその口で告白してもらうニャー! やらなかったら死んでもらうニャー!』
「なんだよそれっ!」
悠は一人、思わず叫ぶ。
7人が一斉に振り向いた。
悠は「あ……」と、口を閉ざす。
気まずい。
自分が怒る流れではないのだ。
反対するなら、――当事者の二人だ。
「……どうしよう?」
「まあ、僕は大丈夫だけど……」
照れたような俯く二人に生徒会長が「ここまで来たんだ、やってもらえたら助かる」と声を掛けると、二人は頷いた。
カップルが八角形の部屋の中央で向き合う。
まるでドラマのワンシーンみたいに。
「……数ヶ月前からいいなって思っていたの。柊真くん、好きです」
「僕は初めて見たときから惹かれていたよ。付き合ってください」
そう言って差し出した柊真の手を、美那は握った。
久遠会長が始めた拍手が真っ白な空間に伝播する。
部屋は奇妙な祝福の音に包まれた。
やがてその波が収束した頃、久遠会長が顔を上げた。
「さあ終わったぞ。僕たちを解放してくれ、神チューバー!」
『はあ? 何いってんの? まだゲームは始まったばかりじゃん?』
その時、悠は左側に違和感を覚えた。
「――志乃さん?」
振り向くと驚愕に目を見開く北川志乃がいた。
彼女は自分自身の右手を見つめている。
――崩壊していく右手を。
「何……、何これ? 痛い、……痛いよ、え、どうして、どうして私の手が、消えていくの?」
「志乃さん! 大丈夫? これ、どうなっているんだ?」
悠は駆け寄って彼女の部屋背を支える。
吹奏楽部の中学時代、自分に音楽を教えてくれた先輩を。
――いつも優しく支えてくれた先輩を。
『まだまだチュートリアルは途中なんだヨォ〜! ハイ! ルール【③投票で一票も得られなかったもののうち1名は死亡する】ですゥゥゥゥ〜!』
「なんだとっ!」
「そんなのムチャクチャよっ!」
部屋の中央で誠司や鈴羽の悲鳴があがる。
悠は腕の中の志乃を必死で抱きしめる。
この世界に繋ぎ止めようとするように。
でも、その腕は、もう肩口まで消えていた。
それは普通の人間の死に方ではない。
超常なる力。常識を超えた何かだった。
悠の腕の中で天井を仰ぎ、セミロングの髪を後ろに垂らしながら、一つ年上の彼女――北川志乃は苦しそうにおとがいを反らした。
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